闘技場 2
「すごいぞ!あの男!あんな事が出来るなんて凄いぞ!」
「えぇ、彼はこの裏の世界で有名な人物なのです。何せ十年前突如この国に渡ってきた珍しいロンの国の人間です。」
ロン?初めて聞く名だ。国と言っていたから国名なのだろう。
「この世は広いな!いつか話してみたい。」
「話せますよ。」
「え?」
アルフィ様が驚いた顔をする。
「そう言われると思って事前にお話をする時間を設けていただきました。」
アルフィ様が身振りのみで嬉しさを表していた。
「ですが、まだ予定の時間まではまだなのであそこの席で話しましょう。」
そう言われ近くの席へハドリーさんを二人で挟むように座る。
「さて、リーティエは何やら納得してないようですのでこの闘技場についての説明しましょう。」
ハドリーさんがパイプと言う喫煙具を取り出し、火を付けて吸って話出した。
「この都市には様々な争いが起きてました。誰かが何かを盗んだせいから大きな商店の利益を巡っての抗争。この都市はこの国の中心にして争いが巻き起こる場所でした。ですがある時からとある人物が現れました。その人物はある時は男性、ある時は女性。だが、共通して緑のマントに暗い色の服を纏い、仮面を被って争いを収めていきました。」
「パパから聞いた事がある。当時は仮面の騎士と呼ばれてたんですよね。」
「えぇ、ここからは私も親方から酒の席で聞いた話ですがその騎士をとっ捕まえる為に今まで被害にあった裏の長たちが集まったりあれやこれやと話し合いました。
ある程度話が纏まった時にそれは天井の梁から声高らかに現れました。」
「ん?奇襲。声。必要ない。なぜ?」
「さぁ?なぜでしょうか?話を続けますね。その後その騎士はその場にいる全員を叩きのめしました。そしてこう言いました。「私は戦いに来たのではない!話に来たのだ!」と」
「一通り暴れてからその言い草は酷くない?」
確かにそうだ。話がしたいなら最初から話せば良いのに。
「その後話し合い、ある提案をしました。裏の治安を協力して守って欲しいとその一環で争いは組織をあげて行う物ではなく代表者を出して戦い、その結果で決めるとしました。」
偉い人じゃないのにそんな勝手に決めて良いのだろうか?
「そうしてこのような施設がこの都市に複数出来ました。」
代表者を立てての戦い。以前お父様に決闘について聞いた事がある。
それと同じで流れる血が比較的少なく平和的だろう。
でも、血が流れる戦いを娯楽として楽しむ事に納得がいかない。
「何。納得出来なくても構いません。貴方には死ぬまでまだだいぶ時間があります。納得出来ても良し。受け入れられなくて否定するのも良し。自分なりの答えを見つけていくのが成長というものです。」
答えを見つけていく。
私は答えを見つけれるのだろうか?
私が悩んでいるとハドリーさんが胸ポケットから懐中時計と呼ばれる小型の時計を取り出し、時間を確認した。
「さて、そろそろ時間です。シンユーとの待ち合わせ場所に行きましょう。」
そう促され私達は移動した。
「やぁやぁ!よく来てくれた!」
「今日はよろしくお願いします。」
ハドリーさんとシンユーさんがお互い握手をかわす。
シンユーという男性はわずかに焦げたような薄い茶色の肌に黒い短く切りそろえられた髪に初めて見るデザインの綺羅びやかな装飾が施された鼠色の長袖の服に黒いズボンを履いたガタイのしっかりした男性だ。
「今日はよく来てくれた。」
闘技場に設けられた部屋の一つに入るとシンユーという男性に迎えられた。
「えぇ、何せ今日は貴方の息子さんのデビュー日ですからね。」
「ほう、有名な闘士の息子さんのデビューですか。」
ハドリーさんのその言葉にアルフィ様が興味を持ったのかそう呟いた。
「うん?そちらのお二人は?」
「あぁ、こちらのアルフィさんが闘技場に見学したいとの事で招待いたしました。こちらのリーティエは社会見学として連れてきました。」
「どうもお初にお目にかかります。紹介がありました。アルフィ・マクスウェルです。よろしくお願いします。」
アルフィ様がシンユーさんと握手を交わす。
「リーティエ。よろしく。」
私も名前を名乗り握手を交わす。
「あぁ、よろしく。ハオシュエン!お客さんだ。」
部屋の奥の方にあるテーブルには若い私と同世代の男の子でわずかに焦げたような薄い茶色の肌だが、髪は暗く渋い紅色を清潔感のある整った髪に黒色の上着に薄い青色のアウターを着た子だった。
その子は先程シンユーさんが行ったように手の平に拳を打ち付け上体を曲げる格好を取った。
「はじめまして。僕はハオシュエン・デンです。よろしくお願いします。」
「さぁ、3人とも。ここで立ち話も何だ。座ってくれ。」
シンユーさんに案内され私達とハオシュエンさんが席につく。
シンユーさんは茶を入れて来ると席を離れた。
「デンさん。今日は初めての試合と聞きましたがどのようなお気持ちですか?」
アルフィ様がハオシュエンさんに質問をした。(その際どこから取り出したのか白紙を束ねた本と鉛筆で記録を取っていた。)
「初めての事なので緊張はしている。何せ相手は裏路地では有名な喧嘩師、心折のビルだからね。気を引き締めて行かないと。」
「心折?」
私が疑問に思っているとハドリーさんが説明をしてくれた。
「心折のビルとはその戦い方に特徴がある事からそう呼ばれるようになりました。彼は周りの野次馬に魅せるように戦うのです。一方的に戦うのではなく周りが求めるように戦いしかし圧倒的な力を示してまるで群衆を味方に付けるのです。それを見た相手は心が折れるだから心折のビルと呼ばれているのです。」
魅せるように戦う。
それだけ余裕があるという事だろう。
だが、弱者を甚振るのは騎士としてどうも容認出来ない。
「そんな強そうな相手と初戦で戦うなんて大丈夫ですか?」
アルフィ様が質問を続ける。
「確かにビルは強い。歩んできた場数が違う。だけどだからといって挑まない言い訳にならない。例え相手が強者であっても立ち向かうのが武侠だと父から教わりました。」
強者であっても立ち向かう。
その志は騎士の考えと同じだ。
その事に彼に賛同出来る。
是非彼に勝ってほしいものだ。
「ハオシュエンさん!僕はあなたのまっすぐな姿勢に好感を持ちました。ぜひ勝って下さい。」
「えぇ。その期待に答えて見せますよ。」
その後幾つかの会話をし、試合の時間が近づいたので観客席に戻る事になった。
「いやぁ!凄い楽しみだ!未来の英雄の初試合を生で見れるなんて!」
席に戻るとアルフィ様が声高々に興奮したように話出した。
「えぇ、楽しみです。」
私達が席で待っていると会場中に声が響いた。
「さぁ、お待たせしました!これより選手入場です!」
会場がのまれそうな歓声に満たされる。
「期待の星!彼の伝説は今!始まる!北よりハオシュエン・デン!入場です!」
会場中に期待に満ち溢れた歓声が鳴り響きハオシュエンさんが登場した。
「続きまして!南より!今日も楽しませてくれるのか!皆を楽しませるエンターテイナービルー!」
司会がそう紹介した時、南の入場口から何かが飛んできた。
それは何度か地面を跳ね、闘技場中央に転がる。
それは髪が剃られておりかつ革の上着を着た男性だ。
「あれはビル!心折のビルだ!」
ハドリーさんが驚愕したように叫ぶ。
すると背中に冷たい物が駆け抜ける感覚。
南の入場口から骨を砕くような音が響き渡り、やがて蹄を踏み締める音がゆっくりと聞こえてきた。
さっきまで歓声に溢れていた会場は恐怖に支配され、その場にいた全員はただ入場口を見つめてる事しか出来なかった。
そして恐怖は姿を現した。
暗い絶望を現した毛並みに青い幽鬼のように彩られた頚そんな一頭の馬が人間の両足を口に含み、バリボリと咀嚼しながら現れた。
それはまるで昔お父様が猟で獲ってきた、
『マズイ!みんな逃げて!悪夢が現れた!』
「リーティエ?どうしたのですか?」
ナイトメアが中央にいるビルの所へ歩いていく。
「ゼェゼェ!助けてくれ!まだ死にたくねぇ。」
ビルが闘技場にいたハオシュエンに助けを求めるが-
「ヒヒン。」
ナイトメアがビルの上を跨り、腹が裂けるようにそこから鋭い牙が生えた大きな口が現れた。
「わわわ!」
ビルが悲鳴をあげ、ナイトメアの腹の口に硬い物を砕く音を立てながら食べられた。
「キャアアアアアアアア!」
女性の悲鳴が響き渡る。
それを合図のように会場中が恐怖に包まれる。
それが最高潮に達したタイミングでナイトメアの首がまるで物のように落ちた。
首は泥のように崩れ落ち、残った体は崩れず立ったままだ。
会場中が理解不能の状況に驚き、安堵、恐怖が入り交じる。
そんな時に体の首のあった所が泡立ちそしてビルが生えてきた。




