美しき駅から水底へ
この暗い貨物車で揺られる事、2日。
時折、扉を少し開けて外を覗いて流れゆく景色を見る。
「うわぁ!」
私はその光景に驚愕する。
遠くに見える多数の高い建物。
それを取り囲むように流れる河が見える。
恐らくあれがシュトと呼ばれる場所だろう。
橋を渡った辺りで見つからないように扉を締める。
本当は町並みを眺めたかったが見つかってしまう訳にはいかない。
暫く待っていると揺れは弱まっていき、やがてガコンという音が鳴り、魔導列車が止まる。
よし、見つかる前に早く出よう。
そう思い扉を開け外に出る。
「あ!お前!密航者だな!」
外に出たら男性に声を掛けられた。
声の方を向くと先頭に1人。
後方に2人。そのうち1人は二輪車を引いている。
不味いな。
「おい!保安隊にしょっぴいてやるから大人しくしてろ!」
男はズカズカと足元の石の地面の上を歩いて近づいてくる。
こういう時は。
私は両手でスカートの裾を摘み、本来なら片足を斜め後ろに引く所を、真後ろに引き、もう片方の足の膝を曲げ、こちらも本来なら上体を曲げないのだが不自然にならないよう軽く曲げるなんちゃってカーテシーの姿を取る。
「お、おう。」
相手が見惚れて動きを止めてる。動くなら今だ!
私は彼らの横をすり抜けるように勢いよく走った。
そう逃げる。
「ま、待てい!」
硬直から脱し、すぐに私を追いかける。
この広大な駅からなんとかして撒かないと。
私は近くにあった客車に入り込む。
その客車は到着したばかりなのか人がまだ残っていた。
「ごめん。」
私は人々の間を潜り抜け、客車の奥へ行く。
「くそ!おい!お前は先頭の方に行ってくれ。挟み討ちだ!」
男の声が聞こえてくる。
ならすぐに脱出しないと。
客車の中間まで来た所で窓の外に人混みが出来てる方の座席に移動して窓を開けるために調べる。
これどうやって開けるんだろうか?
窓を調べると窓の中間辺りに簡素な窓を開かないようにするためだけの鍵がついていた。
鍵を開け、窓を上に押し開け、外に飛び出す。
着地と同時に周りを見渡す。
周りは人混みに溢れているが、少し離れた所に階段が見えた。
よし、行くならこっちだ。
私は走り出す。後ろの窓から待てと静止を求める声が聞こえるがそれを無視して行く。
階段では人々が連なってそれぞれ様々な荷物を持って登っている。
その光景に戸惑うも私は人をかき分けて階段を登って行く。
階段を登りきると左右に道が別れてる。
どっちに行ったものか?
私は人の波に従って行く事にした。
ここはどんなとこだろうか?
次第に景色は変わり、建物の中へと入っていく。
建物の中は別世界だった。
レンガで作られた広い建屋に天井は硝子で出来ており、多数の列車を向かい入れる玄関口になっていた。
「わぁー!」
私は今2階の方にいる。
硝子の柵に張り付いて眺める。
すごい。魔導列車も沢山並んで止まっている。
他にも見てみよう。
その後も壁や柱に施された彫刻や大きな時計の下に前に一度だけ聖城の玄関ホールに置かれていた聖エンヴェ像と同じ位の大きさの男女が微笑みながら抱き合っている像など芸術的に興味深い作品を見ながら駅舎の中を進んでいく。
初めて見る物ばかりだ。
こんなの聖城や前に住んでた邸宅の倉庫の埃の被った像しか見たことないけどこれが芸術てやつなのだろう。
進んで行くと前の街の改札よりも大きな改札があり、旅行者や駅員が多くいた。
どうしようか?私はチケットも無いからこのまま行ったら目立ってしまう。
........そうだ。良いこと思いついた。
私は旅行者の列に並ぶ。
しばらく待っていると列は進み、私の番になった。
「はい、お嬢ちゃん。チケットを拝見するよ。」
駅員がチケットを求めて白い手袋を付けた手を伸ばす。
私はその手の平に魔法で作った小さな氷を落とすように乗せる。
「つめた!」
駅員が驚いてる隙に素早く走って通り抜ける。
ごめんなさい。お金が手に入ったら払います。
私は全力で逃げる。
「待てー!止まれ!」
私は逃げながら背後を振り返る。
追ってきてるのは黒い革の上着に黒い革のズボン、黒いマント、そして特徴的な長く頭頂部に出っ張りがついてる帽子を被った男が追ってきてる。
その男性がぐんぐんと距離を詰めてくる。
・・・・・・・速くない?
「待て待て!」
『うわぁぁぁ!『力よ!-ボンピィア-』』
私は慌てて魔法をかけて逃げる。
まずい!このままじゃ捕まる!
その時、近くの広場から何かの楽器を演奏する音が聞こえた。
とりあえずこっちだ。
私は人集りを抜け、最前列に出る。
そこにはクラブサンが置かれていたが、音色が違う。
て、今はそんな事を考えてる場合じゃない。
その広場を抜け、大きな階段があり、その先に外へと続く出入り口が見える。
「待たれよ!お嬢さん!」
「お前は悪いことをしたんだ!大人しく捕まれ!」
ひぇ。同じ格好をした男の大人が増えてる。
こうしてる場合じゃない。
私は階段の真ん中に設置されていた手すりに勢いを付けて上に乗り、滑って階段を降る。
階段の下で手すりの端に付き、その勢いが付いた状態で空中に飛んだ。
地面に着地するタイミングで転がり体勢を整え、外に出る。
外には歩道に馬車の乗り場があった。
ちょうど馬車が一台出発したのを見つける。
私はその馬車に走って追いかける。
後ちょっとで追いつける。届けぇ!
私は馬車に飛びついた。
何とか馬車に飛び乗れた。
ふぅ、なんとかなった。
馬車にしっかりしがみつき、背後を振り返る。
駅から遠ざかって行き、追いかけていた男性達は悔しそうな姿勢をする。
その時私は油断していた。
馬車を掴む力を少し緩めてしまい、さらに馬車が急に曲がり、更に道路の煉瓦が盛り上がっていたのかそこで馬車が跳ね上がる。
それらが重なり、私は馬車から振り落とされ、更に何故か私が飛んで行った先には何故か柵が壊れていて、無くなっており、転がっていって水の中へと落ちていった。
なお、作者は渡航歴が無いのでモデルになった駅に行った事は有りません。




