シチュエション·イナトゥエ
ボス。
ボスという事はここの長なのだろう。
そんな人が直々に来たのか。
彼は踊り場まで降り、付き人から受け取りカツンと小さく。だが、この場を支配するのは誰かを示す。
「それで−」
彼が低くしわがれた声を発する。
「これはどういう事かね?」
途端に背中に冷たい物が流れる。
こんな射殺すような圧は始めてだ!
「ボス!こいつが盗みに入りました!」
ホールにいた1人興奮しながら私に指を指して簡潔な説明をする。
このまま流されれば場の流れを支配される!
「これは初めまして!私はルーマスクと申します。この度この屋敷!この本を!頂戴しに来ました。」
私はあえて挑発的に自分の目的を話す。
引けば威厳が消えていく。
ならば挑めば良いのだ。
「ほう?その本は何だったかな?」
「おや?ここの長たる貴方がこの本を知らないと?」
良し。これなら先程と同じように説明すれば私がこの場の主導権を握れる。
「この本は-」
「どうでもいい。」
私が説明しようとするとボスがバッサリと話を切る。
予想外の事に私は内心動揺する。
「おや?それはどういう事でしょう?」
私は動揺を隠すように彼に尋ねる。
「なに。それは持っていっても良いという事だ。」
持っていっていい?
どういう事だ?
困惑していると踊り場にいる彼が話を続ける。
「そんなタイトルの分からぬ本などどうなろうと私には関係ない。」
よく分からないが持って行って良いという事はここから無事に脱出出来る!
そう安堵した時に枯れた声で「だが、」と呟いた。
「我々、モンテーロファミリーから盗むという事がどういう事か分かるかね?」
不思議な感覚だ。
今まで感じていた圧が突然無くなった。
それが妙な気持ち悪さを感じ、思わず何も話せなくなってしまった。
「答えない様だから教えよう。それは我々を侮辱する事だ。そこらの露店から買ったパンであろうとこの世で1つの宝石であろうと我々から盗んだ。その事実は最大の侮辱だ。そんな我らを侮辱するような輩は例え世界の裏側に行こうと例え天に召されようと我らが地の底へと引きずり下ろす。そんな覚悟が君にはあるのかね?」
今までに無い圧力を感じる。
心臓の鼓動が早く打ち、息が詰まる。
私でも簡単に折ってしまえそうなこの老人のどこにそんな凄みがあるのだろうか?
言わなければ。
何か言わなければ私はこの老人に屈した事になる。
「……………………良いでしょう。」
私はなんとか声を絞り出し答える。
「私は『誇り高き騎士の娘』。貴方のような方の脅しなど屈しない。」
静かにだが確かな意思を持って拒絶する。
私は誇り高き騎士パトリス・スー・キヴァルシの娘。
なら、このような脅しに屈する訳にはいかない。
「ほう?その覚悟。良いだろう。その覚悟-」
老人が話してる最中、突然爆発音が響き僅かに揺れた。
なんだ?
これが合図という奴なのだろうか?
でもどんどん爆発音が近-
私が気付く間もなく突然天井が崩れ視界が暗くなった。
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「うぅ。」
私は上に乗っていた何かを押しのけて痛む体を耐えて立ち上がる。
何だったんだ?いったい?
私はよろよろとふらつきながらボロボロになった毛皮から見える視界で周りを見回す。
「え?」
私は周りの状況に愕然とする。
空が見える天井。
散乱としたホール。
そして瓦礫で押し潰された人々。
そのあまりの光景にこれが現実なのだと受け入れられなかった。
「なにこれ?」
私は心を支配する疑問を口に出すと何かか細い声がどこからか聞こえて来た。
私がそちらに向くと下半身を瓦礫に挟まれた男性がこちらに手を伸ばしている。
『い、今助ける!』
私は悲鳴に近い声色で叫び大きな瓦礫を持ち上げようと奮闘する。
だが、ただの子供の私では持ち上げるほどの力は無かった。
なら、
『力よ!-ボンピィア-』
魔法を使って持ち上げようとするが微動だにしない。
『動け!動いて!動いて!』
私は力の限り持ち上げようとしたが全くと言っていいほど微動だにしなかった。
その事実に動揺しながらもありったけの力を使う。
何が足りない!
もっと力を込めればいいの!?
もっと魔力を込めれば良いの!?
もっと最適な道具があれば良いの!?
もっともっともっと!?
「リーティエ。」
背後からレーナの声がしたので振り返らずに助けを求める。
「レーナ!手伝って!この人生きてる。」
だが、彼女は何も言わずにただ背後にいる。
「レーナ!!」
私が彼女の名前を叫ぶのと同時に私の首に何か刺される。
「なに、を」
戸惑って聞く間も無く世界が揺れる。
視界が揺さぶられ、次第に喉の奥からこみ上げてくる物があり、我慢できずに吐き出した。
「レ……ナ」
なんで?
どうして?
そんな疑問を口から出す事も出来ず、地面へと倒れた。
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「うぅ……?」
揺れる視界。
ガンガンと叩かれるように痛む頭。
なんだ?これは?
「あぁ。起きましたか。」
レーナの声がする。
私は頭を抑えながら上半身を起こす。
ここは……どうやらレーナの家なのだろう。
それより。
「なぜ……助けなかった?」
もし、あの時レーナが手伝ってくれればあの人は助けれてた筈。
私は彼女を見つめて問い詰める。
「…………あの時はあーするしかありませんでした。突然屋敷が爆発し、いつ襲撃があるか分からずあの場を脱するのに精一杯でした。」
「そうか……。」
彼女なりに私を助けてくれたのだろう。
「…………この話は終わりです。それではここにお約束の本を置いておきます。」
そう言い机の上に置いてある本を軽く叩く。
私は寝かされてた床から立ち上がり本を手に取る。
これでこの先、何がわか-
「なにこれ?」
私は無我夢中でページを捲る。
「誰がやったか書いてない……?」
薄い本の全ページを捲るも犯人が書いてある所はインクで塗りつぶされてて読めないようになっている。
私はその事実に呆然としている。
「さぁ、これかも共に活動しましょう。」
呆然としてた意識からレーナに言われて意識を取り戻す。
「いや。どこで何かあるのか分かって-」
「本当にそんな事が出来ると思ってるんですか?」
底冷えするような冷たい物が背筋を走った。
「貴方はあそこで目立った。例え顔を隠していてもあそこで目立ってしまった。そして貴方が現れたせいで屋敷は爆発した。」
「それは!」
「それでも。あの屋敷で生き残った人はそうとは思わないでしょう。そしてあの場にはそれぞれ家族、兄弟、姉妹。貴方が殺したと思った人々は大切な人の無念を晴らす為に躍起になってるでしょう。」
呼吸が荒くなる。
初めはこんな事になるなんて思わなかった。
「…………そんな!そんな!」
私はこの現実に耐えきれず泣く。
私はやってないのになんで!
「大丈夫ですよ。」
泣く私をレーナが抱きしめてくれた。
「貴方には貴方しか出来ない事があります。それを私が教えてあげますよ。」
私は何かせき止められていた物が無くなったかのように胸に顔を埋めて泣いた。




