知恵と死蔵の迷宮 後書きと
敵が黒い手で作り上げられた体が崩れていく。
リーちゃんが本を真っ二つにした事がとどめとなったのかボロボロと崩れていく。
どうやら終わったようだ。
その事に心からの安堵を覚える。
だが-
「ぐおおおおおおおおおお!」
リーちゃんの獣のような咆哮が言い表せぬ恐怖へと引きずり下ろす。
咆哮を上げ終えると少し離れたここからでも聞こえる唸り声を上げながら首を忙しなく動かし辺りを見回す。
その姿に恐怖を感じながら見てると彼女と目線が合う。
その赤い瞳は見慣れた瞳に狂気を映したような妖しく理性を感じないような色が混ざっている。
「うおおおおおおおおおお!」
リーちゃんが咆哮を上げたこちらへと駆けて来る。
死。
そういう身近であまり実感が湧かない事象が頭を支配して何も考えられない。
「クラリス!」
私が固まっているとトーマスが手を広げて前に出た。
やめて!
そんな思いが喉から出るより先に手を伸ばすが届かず、リーちゃんが剣を振り被りながらトーマスへと飛び掛っていくのがゆっくりとした流れの中見え-
「あーそういうのいいから。」
どこからかその声が聞こえた後、突然リーちゃんが空中で見えない壁に押し潰されたような体勢になった。
「ウグゲッ!」
リーちゃんは潰され、うめき声を上げた後、剣を手から落とし倒れる。
「リーちゃん!?」
私とトーマスは倒れているリーちゃんへと駆け寄る。
外傷は……所々怪我をしているが重い怪我はなさそうだ。
「リーちゃん!リーちゃん!」
私はリーちゃんに呼び掛けながら体を揺する。
するとリーちゃんは弱々しくも瞼を開ける。
「あ、あれ?私は何を?」
「良かった!」
私は思いっきりリーちゃんを抱き締めた。
それからはただただ彼女がどこかへと行ってしまうのでは無いかという思いを消す為に抱き締めた。
「…………そろそろ良いか?」
その声が響いたのは意識も何もしていない突然だった。
溜息の後に尋ねる男性の声。
それはこの場の誰の声でも無い声であった。
「では、次へ行こう。」
その声が響くと地面が突然傾き出した。
それは通常ではあり得ない事だ。
何せ少し離れた所にいたレーちゃんが私の目の前に居るのだから。
傾きの下側を見るとそこは折れ目が付いていてさらに底が見えない渦が形成されていた。
「まずい!何かにつかま-」
トーマスが言い終わる間も無く転げ落ちてしまった。
「クッ!脚に力が、」
今度はリーちゃんが落ちていく。
「ツルハシが刺さらない!?うわぁぁ!!」
続いてレーちゃんが落ちてしまった。
最後に私が残ったがほぼ壁に近い角度になり、踏ん張れなくなり自分でも何を言ってるか分からない悲鳴を上げながら落ちていった。
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私は暗い底から水面へ上がるように意識を覚ます。
激しい呼吸の後辺りを見回す。
目の前には小振りなステージ。
そして私は今、椅子に座らされ右には空席の席。
左にはトーマス。その奥にはレーちゃん、リーちゃんが俯き眠った状態で座っている。
「ねぇ!起きて!起きてよ!」
私は眠っているトーマスを揺すって起こす。
「んん?なんだ?」
良かった。目覚めてくれた。
「とりあえず起きて。」
私はそう告げてから立ち上がりレーちゃんとリーちゃんを起こす。
レーちゃんは目を覚ますとどこかボーとし、リーちゃんは顔を乱暴に手の平で拭い、悔しそうにクソぅ。と小声を呟いた。
「なぁ。ここは……どこなんだ?」
トーマスは状況が未だ掴めないのか尋ねた。
「……分からない。私もさっき起きたばかりだから。」
リーちゃんの呟きを聞こえないふりをしつつそう答える。
ここは奇妙だ。
小劇場という場所なのだろう。
席は1列6席の2列だけのステージだけ、出入り口も無いおかしな場所だ。
どうやって出ようかそう考えていた時に突然照明がステージのみの暗い状態になった。
感覚で分かる。
これから何か劇が始まると。
「よく生き残ってくれた。」
ステージの天井側より男性の声を響かせながら異形の人形がゆっくりと降りて来た。
その人形は一言で言い表すなら悪趣味であった。
体は清潔感と気品を感じさせるスーツと磨き上げられた事が一目で分かる輝く革靴を身に着け、薄手の手袋を付けている。
ここまでなら品のある人物に見えるが首に当たる部分から上が人形の手首が絡まり、広げた両手で顔を表す人とは明らかに違う個所で不気味さを醸し出している。
「よくその歳で生き残れたね。褒めてあげよう。」
どこから声を出しているか分からないがステージにいる人形が私達を褒めた。
「貴方は……誰ですか?」
「あぁ、そういえば自己紹介がまだでしたね。」
トーマスが尋ねると姿勢を正し、品の良い挨拶を始めた。
「私はこのダンジョンの主だ。館長と呼んでくれたまえ。」
ダンジョンの主。……まさか-
「貴方は精霊さんなのですか?」
私の疑問は留める事が出来ず口から溢れる。
聞いた事がある。
ダンジョンは力がある精霊が主として最奥にいると。
「さよう。私は大きな括りで言う所の精霊だ。」
館長と名乗った精霊は肯定し、話を続けた。
「だが、知っての通り私は他のダンジョンの主と違い願いは叶えない。あくまでふさわしいかどうかの試練を与えるだけの者だからさ。」
…………どういう事?
「ふむ?その表情。お前達、無知な罪人なのだな。」
さっきから話が見えない。一体どういう事なのだろう?
そう疑問に思っていると館長が手を挙げるとレーちゃんのあっ!という驚きの声と共にその手に1冊の薄い本が収まった。
「ここでは本を持ち出すには私の用意した試練を突破しないといけないきまりなのだ。そしてそこのお前。お前が本を持って外に出ようとしたから連れ共々試練を与えたのだ。」
私達はレーちゃんを睨んだ。
こんな目に遭ったのは彼女のせいなのか……
「まぁ良い。この本はお前にやろう。」
そう言って本をトーマスに投げ渡した。
「…………どうして僕に?」
「何。お前達には見えない流れでこちらは動いている。その流れにする為にお前に渡しただけだ。」
館長の表情は分からない。
だが、何かを楽しむように話しているのはその声から察せられた。
「さて、これで-」
「待て!」
館長が話を切り上げようとした時今まで黙っていたリーちゃんがこの小劇場に響く声を出した。
「知恵の集まるダンジョンの主なら答えろ!私の!私の故郷はどこだ!」
リーちゃんは苦しい気持ちを押さえつけるような絞り出す声で尋ねる。
「Ce n'est pas le moment.Mais nous le saurons bientôt.」
「な!?」
館長が何か分からない事を答えた。
なんて言ったのだろうか?
「さて、話は終わりだ。退館してもらおう。」
「accrochez-vous!Et ce n'est pas tout !」
話を切り上げようとする館長に手を伸ばして恐らく話を続けようとするリーちゃん。
だが、それは叶わなかった。
館長は突然人形のパーツが外れたように崩れ、ステージに山として積み上がった。
その光景に皆驚愕し、唖然としていると突然劇場が明るくなっていった。
ただ、照明が点いて明るくなったのでは無く、天井が捲れて光が入ったようだ。
私は慌てて上を見るとそこには巨人が私達のいる劇場を覗き込んでいた。
巨人は後ろから光が当たっているせいなのか暗く表情が見えないのがとても不気味だ。
そうこう考えてるうちに立っている事が出来ない揺れに襲われ、劇場全体が傾いていく。
しがみつきたくも揉みくちゃにされ、壁に打ち付けられそのまま天井から落ちていった。
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「ふわわわわぁー!」
「うげぇ!」
「ぐわぁ!」
「きゃ!」
今、私達は天井から落ち、レンガの床の上へ放り出された。
重い。
「いてて。ここに来てからずっと放り投げられてる気がする。」
「トーマス。受け止めてくれて助かったよ〜」
「私に荷重を掛けながら惚気ないでください。」
「さ、3人とも。潰れるから早く退いて。」
トーマス達3人に退くよう声を絞り出す。
ここは何処だろうか?
煉瓦の地面。
月の見える空。
「空?」
3人が退いたので寝返りをうって空を見上げる。
月に小さくとも確かに輝く星。
どうやら私達はダンジョンの外に出れたようだ。
「大丈夫か?」
トーマスが寝そべっている私に手を差し伸べる。
「うん。問題ない。」
私は答えて手を掴み立ち上がる。
「リーティエ。ありがとう。」
彼に突然感謝を述べられ、きょとんとした。
「私からもありがとう!」
クーちゃんにも感謝を述べられ、答える事にした。
「あぁ。助けるのは当然だ。独りぼっちの私を助けてくれたのだから。」
私は心からの感謝を述べた。
「さて、あの精霊が渡してきたというのだからせっかくだから今見ようか。」
トーマスに促され私とクーちゃんは本を覗き込む。
タイトルは-。
「議事堂爆発事件?」




