知恵と死蔵の迷宮 その8
「嘘でしょう……。」
私は目の前の光景に目を疑った。
何せ、私の知る彼女は理知的でどこか離れた所から見守るリーちゃんだが、今の彼女は暴力的で狂気を覗かせている。
あ、さっき斬った腕をもぎ取った。
「クラリス!」
私を呼ぶ声に振り向く。
少し離れた所からトーマスが走って来ている。
「無事か!?」
「うん。大丈夫。そっちも大丈夫そうで良かった。それより。どうしようか?」
私はリーちゃんの方を見る。
リーちゃんは振り下ろされる剣やツルハシに跳び乗りながら躱しており、レーちゃんに関してはリーちゃんが目立っているのでその隙に再度登っている。
これなら杖と弩に気を付ければ-
そう安堵を覚えた時、敵が全ての腕を自らを抱くように抱き締める。
疑問に思う間も無く目の前から軽く押されるような衝撃と共に頭の本が弾けた。
「何!?」
疑問を口にすると何かが私の隣に立っていたトーマスにぶつかる。
トーマスは飛翔物と共に地面に倒れた。
「いつつ。」
「痛いですね。」
痛みを訴えるトーマスと飛翔物-レーちゃんの方へ駆け寄る。
「大丈夫?」
心配と早くトーマスの上から退いてほしいと言う思いを込めて彼女に手を差し出す。
「...ええ、大丈夫です。」
レーちゃんは私の手を借りずに立ち上がった。
「あ、貴方が無事なら良かった。」
レーちゃんの下敷きになっていたトーマスが彼の手で顔を拭ってから上半身を起こす。
「大丈夫?」
彼にも心配の意味を込めて手を差し出す。
「あぁ、なんとかな。」
彼をその大きな手で私の手を掴んだので体を後ろに倒すようにして彼を立ち上がらせる。
「……それで今はどういう状態ですか?」
レーちゃんが見つめる先を私も見る。
その先にあったのはさっきまで倒れてたリーちゃんが起き上がり、獣のような咆哮を上げている。
これだけでも異様な光景だが、それよりも異様なのがさっきまで本が顔であった敵がその本が無い-首無しの状態で剣を振るっているのだ。
「あぁ、さっき軽い衝撃波が来て、それと共に本が弾けて今に至るて所だね。」
「……衝撃波だけですか?」
レーちゃんが不思議そうな顔をトーマスに向ける。
「うん。トーマスの言ったことに間違いは無いよ。」
「そうですか。...分かりました。それではお聞きしたい事があるのですが。」
レーちゃんが腑に落ちないと言う表情で私達に尋ねてくる。
「本棚に挟まっている黒い物は見えますか?」
本棚に挟まっている?
私は周りを見回して見たがそんな物は見えない。
トーマスに見えるのか確認の為、視線を向けると彼も何やら戸惑っているようだ。
「…………そうですか。とにかくあの黒いのをなんとかするのでその間見守っていただけますか?」
「わ、分かった。クラリスも頼めるか?」
「う、うん。分かった。」
トーマスに返事をして弩の残弾を確認して敵の方へ視線を向ける。
あっちの方では六本腕の敵相手にリーちゃんが戦っている。
その姿に心配感を感じる。
背後でバサバサという何かが落ちる音が聞こえると頭の中で何かが響くような声が聞こえた。
「汝ら、罪を犯した。」
「何!今の!?」
頭に響く痛みを紛らわしたく戸惑いを口に出す。
「分からない!?でも、今は凄くまずい状況だ!」
トーマスの視線の先を見ると敵の杖と弩の向ける先がこちらに向く。
「避けろー!!」
トーマスの叫び声に咄嗟に脇へ飛び退く。
避けた瞬間、背後から体全体を押される衝撃。
それにより宙を舞って地面に転がる。
「いったい。」
体中の痛みを堪えながら上半身を起こし周りを見回す。
私の背後には床に何か削れたような黒い跡があり、その跡を挟んだ向こう側にトーマスとレーちゃんがいた。
2人は上半身を上げて咳き込んだりしているので生きてはいるのだろう。
良かった。
そう僅かな安堵を覚えつつも敵の方を見る。
今はリーちゃんが力強い踏み込みでツルハシをを反らしつつ杖を持つ腕に飛びかかり、剣に阻まれている。
あんな化け物を相手出来るなんてリーちゃんは凄いなと思っていると遠くの方から声が聞こえてきた。
「クラリス!レーナさんが秘策があるから僕達で敵の注意を引くよ!」
トーマスからの頼み事だ。
秘策とはなんだろうか?
……うんん。考えるのは後だ。
「分かった!やって見る!」
私は痛む体に鞭を打って立ち上がり、強張ってずっと握りっぱなしであった弩を確認する。
故障はしてなさそうだ。
私は敵に弩を向ける。
胴体は……リーちゃんが近くにいて当たりそうだ。
なら、難しくはあるものの胸より上を狙おう。
その結論に至り、一発一発落ち着いて狙って撃つ。
「こっち!こっち!」
当てて気を引けば良いのだろうがもう球が残り少なく、やむを得ず声を出して気を引くしかない。
駄目だ。全くこちらに反応せず、杖と弩はトーマス達2人に向いている。
どうすれば。
そこで先程頭に響いた言葉が引っ掛かる。
どうして、急に罪を犯したなんて言葉が頭に響いたのだろうか?
疑問の霧の向こうを見る為、あの時の事を思い出す。
確かあの時、バサバサという落ちる音が……
「……」
確証は無いが何か分かった気がし本棚の本指を掛ける。
私の予測が正しいのなら……この後は命がけとなるだろう。
私は決意を固めて本を引き出し床に落とす。
「汝ら、罪を犯した。」
また、頭に声が響く。
頭を押さえて蹲りたい衝動に駆られたがそれを堪えてすぐにその場から走り出した。
その瞬間。背後で爆発が起きた。
やはり、こっちを襲って来た。
確かここに入る際に本を傷つけるなという注意があったはず。
それで今襲われたのだろう。
「クラリス!」
トーマスが不安を含んだ呼びかけをする。
伝えないと。
「本落として!注意引ける!」
走りながらの為、辿々しいが彼に伝える為に大声で伝える。
「汝ら、罪を犯した。」
何もして無いのに向こうから爆発音がする。
どうやら伝わったようだ。
なら!
私は本を乱暴に床にばら撒いていく。
「な「汝「汝ら、罪を「汝ら、罪を犯した。」。」。」」
強い不快感を感じながらも爆発から逃げながらばら撒いていく。
これならなんとか注意を引ける。
そう思っていたが反対側から来るトーマスが見えて来た。
まずい。このままだと合流してしまう。
そう思っていると突然爆発が止む。
疑問に思い、辺りを見回すと離れた所で本棚がメラメラと燃えていた。
いったい何が起きてるのか疑問に持っていると炎の側にいたレーちゃんが私達に伝えるように叫んだ。
「燃やして下さい!本を!部屋を!早く!」
そう叫び終わると炎から火のついた本をいくつか掴み投げ出した。
何が何だか分からないで戸惑っていると敵が急に針が止まった時計のように動かなくなる。
何だろう。と思ってる急にでたらめな動きをしだし、天井や床等を滅茶苦茶に攻撃しだした。
「きゃ!」
狙いを定めてない攻撃が私の近くで炸裂した。
「な、なんだか分からないけど早く彼女の言った通りにしよう!」
「.........うん!分かった!」
この状況に躊躇いがあるがトーマスの提案に頷く。
彼に先導され、様々な所が弾ける危険な状況の中、燃える本棚に掛け、炎の中から火の付いた本を掴み辺りに投げだし火の手を広げる。
これで状況が良くなるか分からないがただがむしゃらに投げる。
すると‐
「見てくれ!」
トーマスが驚くような声を出し、敵の方へ指を刺す。
指の先を見ると敵は全ての腕を広げ、頭には燃え盛る本の頭が再び現れた。
「があああああああああああああああああああああ!」
本の頭が現れた時にこのタイミングを狙っていたのかリーちゃんが体を頭まで駆け上り、振り上げた剣で本を真っ二つに叩き斬った。




