3
過去への逆行、二回目。
今度こそ仕切り直しだ。
「お前は? どうなんだ、えっと……リディ、いや違う。リフィちゃんだっけ? うまくいってるのか?」
メリルは、よしきた、とばかりにぐっと口元を引き締めた。
この友人との会話も二回目ともなると、大きな動揺はない。
前回は久しぶりにリフィに出会えた喜びと緊張で失敗してしまったが、今度こそ落ち着いてリフィがどんな子か説明するんだ。
コホンッ、と小さく咳払いをして、俺は友人の顔を見つめながら口を開いた。
「リフィは、俺より二つ年下で物静かだけどすごくいい子で、ピンクのドレスとかミコノスの花が良く似合う、すごくかわいい子なんだ。あと、ホットチョコレートとかもふもふの動物も好きだ」
これはみんな、やりとりをした手紙に書いてあったことだ。本人がそう書いているのだから情報にあやまりはないはずだし、これで皆にもリフィがどんな子なのか少しは分かってもらえるだろう。
俺は、自信満々に友人たちの顔を見渡した。
「へぇ。そうか、お前そういう子が好みだったんだな。うん、お前は確かにそういうかわいい感じのおとなしめな子が合ってるかもな」
「そうだな。メリルっておしゃべりな子とか気の強いしっかり者タイプは合わなそうだよな」
そんなことを言いつつ、うんうんとうなずきあうガーランとジーニア。
その様子から、なんとか良いイメージでちゃんと説明できたことに安堵する。
でも。
やっぱりここにきて、リードはやらかしてくれた。
「……ふうん。俺の四才の妹に似てるな。妹もピンクが好きでいつもその色のドレスを着て、動物のぬいぐるみを抱いてるんだ。それに、機嫌が悪いときにもホットチョコレートを飲むと、とたんに静かになるし」
まだ何かを続けようとしたリードを、トリアスが止めた。
「おい、リード。お前なぁ、四才のお前の妹と比べるなよ。それじゃまるでメリルの婚約者が子どもっぽいって言ってるみたい……」
トリアスがリードをたしなめようとした次の瞬間、背後に人の気配がして。
ガチャン!
今の音は多分――、いや、間違いなくティーカップが割れた音だ。
振り向かなくてもわかる。
「……リフィ?」
それでも恐る恐る振り返ってみれば、そこには思った通り、両目に涙をたっぷりとたたえたリフィが立っていた。
「えっ? もしかして、君メリルの……? えっと、ごめん。俺別にそんな意味でいったんじゃ……」
後ろで涙目で立ち尽くす少女が俺の婚約者だと気づいたリードが、焦り顔で後ずさった。
慌てて言い訳するも、その言葉が何の意味をなしていないのは明らかだった。
リードは、根の悪い奴じゃない。ただちょっといつもずれてて、失言しがちってだけで。
それでも俺はリードのタイミングの悪さに歯噛みして、恐る恐るリフィに顔に視線を向けた。
そして、過去二回にはなかった変化を見つけた。
「……リ、リフィ?」
両目に涙をためて立ち尽くしているのは同じだけど、よく見ると今回は顔を赤く染めて両手をふるふると握りしめている。
「え……もしかして、ちょっと怒ってる……? リフィ?」
そう問いかけてみると、リフィはきっと涙に濡れた赤く染まった顔を上げリードと俺をにらみつけた。
「私は……! 四才の子どもじゃないし、ピンクなんて大っ嫌いです! ホットチョコレートももふもふも、大嫌いよっ!」
そう大きな声で叫ぶと、両手で顔を覆いその場から走り去っていった。
その後の展開は、まぁ説明はいらないかと思う。
そうして、やっぱり二回目も婚約は解消され、リフィとの縁はあえなく絶たれたのだった。
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