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 気がつけば、現実に戻っていた。

 自室の床に突っ伏したまま、動けない。


 何も変わらなかった。ほんの少し口に出した言葉が違っただけで、まったく同じ展開、同じ結末だ。


 せっかく過去に戻ったのに何の意味もなかったんだ、と打ちひしがれる。


「敗因は……久しぶりにリフィに会えて、つい舞い上がっちゃったことだよな。やっぱり……」


 深く長いため息を吐き出した。


 少し考えれば、十分に予想できたことではあった。

 会えなくなってからずっと、寝ても覚めても夢ですらみてきたんだ。リフィのあのかわいらしい微笑みを。


 そのリフィが近くにいるなんて思ったら、舞い上がって頭が真っ白になるくらい予想できたはずだ。なのにそんなこと考えもつかなかったなんて。


 それによくよく考えれば、俺はリフィのことを驚くほど知らない。どんな食べものが好きでどんな本を読むのか。ダンスは得意か、何をしている時が一番楽しいか、とか。

 会話らしい会話も満足にできたことなんてないんだから、当然だ。


 そんな俺がリフィがどんな子か、なんて端から語れるわけもなかったんだ。


 今さらながら、自分の体たらくにうんざりする。


「確かに、リフィの父親の言うとおりなのかもしれない……。俺は、リフィには不相応なのかもしれない。こんなどうしょうもない男なんて……。リフィにはもっと気の利くおしゃべりが上手でスマートにエスコートできるような、そんな男が似合いなのかも……」


 そんな男がリフィの隣に並んでいる光景をふと想像して、地面にめり込みそうになる。


「でも……俺は……。俺はどうしても……」


 自分にはリフィはもったいない、そう思ったってこの気持ちは消せない。


 どうしたって、好きなんだ。リフィのことが。


 あのふわりとしたやわらかい微笑みも。ちょっと遠慮がちで小さめな、でもとても優しい声も。小さなほっそりとした手も。

 困った時に眉毛がひゅっと下がって、首をこてん、と傾げる癖も。何もかもが好きなんだ。


 もしここであきらめたら、リフィは本当に他の男と婚約して結婚してしまうかもしれない。今この瞬間にだって、もしかしたら他の男が近づいているかもしれない。


 俺は、がばっと立ち上がり拳を握りしめた。 


「……まだあと二回ある! まだたった一回目だ。あきらめるのは早い……! 次こそやり直してみせる。絶対に……!」


 今度こそ過去を書き換えてみせる。


 そう意気込んだ俺が取り出したのは、これまでにリフィとやりとりしてきた、大量の手紙の束だった。





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