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『へぇ。まぁ所詮は、家同士の政略みたいなもんだもんな。てっきりメリルも、他の奴らみたいにぞっこんなんだと思ってたよ。けど、違ったんだな。意外だったよ』


 リードの思いもしない反応に、俺は見事に固まった。


『え? それ、どういう意味だよ。俺はちゃんとリフィのこと……』


 友人たちの中で、未だ婚約者がいないのはリードだけだ。そのせいか、婚約者のいる俺たちに対して少々ひがみっぽくなる時がある。

 もしかしたらそのせいかもしれないなんて、ついうがった見方をしてしまうくらいにはカチンときた。


 リードがそんな嫌なことをわざと言う奴だなんて、思っていたわけじゃないけど。


『俺はそんなことを思ったことは一度も……!』


 とっさに言い返したけれど、リードはきょとんとしていた。


 それじゃまるで、俺がリフィのことをなんとも思っていないみたいじゃないか。家のために仕方なく婚約しているみたいにさ。

 そんなわけ、あるはずがない。


 だってリフィは俺にとって、正真正銘初めての――。


 俺はリフィのことが好きなんだ、とつい気恥ずかしさも忘れて叫びそうになった瞬間。



 背後でガシャン、と何かが割れるような音がした。

 その音に弾かれたように振り返った俺が、その先で見たものは。



 蒼白な顔をしたリフィと。

 そして、その足元に散らばる買ったばかりであろうかわいらしいティーカップの残骸だった。


『リフィ……? どうして君がここに……?』

 まさか会話のやりとりをすべて聞かれていたなんて夢にも思わず、俺は間抜けな顔をしてリフィに問いかけた。


『わ……私……』


 みるみるリフィの両目に涙が盛り上がり、頬を伝わって地面に落ちる。


『えっ! リ、リフィ?』


 リフィは涙に濡れる真っ青な顔を両手で覆い、そして身を翻して逃げ出した。


 一体何が起きたのか分からず、その場で固まった。

 走り去っていくリフィを引き止めることも出来ず、間抜けにぼうっと突っ立ったまま。


 その俺の前に、大きな体が立ちはだかった。


『メリル君……。君という男は……! もういい、お前のようなヘタレには娘はやらんっ! 今この場を持って、娘との婚約は解消してもらう! わかったな』


 その大きな体を恐る恐る見上げてみれば、そこにいたのはともに買い物にきていたリフィの父親だった。


『……え? い、今、なんて……?』


 きっとあきれるくらい、間抜けな顔をしていたはずだ。 

 あまりにも突然のことに、頭が真っ白だったから。


『いいなっ! 今日この時をもって、お前とリフィの婚約は解消とするっ! 二度と娘に近づくことは許さんっ』

『婚約……解消……? ええええっっ?』


 思わず大声で叫んでいた。


 なぜ突然に、婚約解消なんて話になったんだ。

 そもそも俺の父親とリフィの父親が友人で、互いの娘と息子が結婚したらいいな、なんて思いつきで取りまとめた婚約なのに。


 それを今になって、解消だなんてーー。


『なぜですかっ! 俺は……いや、私はリフィのことを……』

『黙らんかっ! 今の発言でよく分かった。お前にはリフィはもったいない。気持ち一つ婚約者に伝えることもできず、あまつさえあの子の良ささえ語れず、しかもこの五年もの間あの子をつなぎとめる努力さえしておらんとはっ! 許しがたいっ。お前になど、あの宝をやれるかっ! 婚約は解消だっ』


 そうして一方的に、弁解の余地さえ与えられないまま俺とリフィの婚約は解消されたのだった。



 その日以来、リフィには一度も会っていない。


 そしてリフィとの未来を閉ざされた俺は、その日から亡霊のようにひたすらに引きこもった。



 そして、ただ時が過ぎるのをぼんやりとみているだけの抜け殻になったのだった。



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