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思いの外大きな声で愛を告白してしまっていたことに気がついて、恥ずかしさに全身が赤く染まるのが分かった。
今さら気がついてもあとの祭りだけど。
リフィの反応を見るのが怖い。
でも、気になって恐る恐る視線を向けてみると。
リフィは、口をぽかんと開いたままこちらを見ていた。
息をしているのかどうか心配になるくらい、ぽかんと。
「え、っと……。リフィ……?」
ためらいながらもそう呼びかけると。
「っ……! あっ……えと、私……。その、私は……」
みるみるリフィの顔が真っ赤に染まっていく。
「好きって……本当? 私のこと、本当に……?」
大きく見開かれたリフィの目から、大粒の涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「私……ずっとメリルに好かれてないって思ってた……。だって一緒にいてもいつも無口だし、視線だって合わせてくれないし。嫌われてはいないかもしれないけど、妹みたいにしか思ってくれてないんじゃないかって……」
リフィとようやく視線が合った。
どこか信じられないといった困惑と疑いが混ざりあったその表情に、俺はさらに自分のこれまでの行動を後悔した。
やっぱり何も伝わっていなかった。
好きだって気持ちも、花束の意味も。
「いや……そんなはず。でも、そうだよね。一度もどう思ってるか伝えたことなかったし……。本当にごめん」
「あ! 違うの。大事にしてくれているのは、分かってたの。でも……私が子どもっぽいから、女性としては特別に思ってくれてないんだって……。メリルがくれる贈り物も、いつも子どもっぽいピンクやかわいいものばかりだったし」
リフィが悲しげに顔を伏せる。
「そんな……俺はそんなこと!」
ふと、二回目に過去に戻った時にリフィが叫んだ言葉を思い出した。
そういえばあの時四歳の妹と同じだと言ったリードを、ガーランがそれじゃ子どもっぽいって言ってるみたいじゃないかってたしなめた。
それに、リフィはひどく怒った。私は四歳の子どもじゃないし、ピンクなんて好きじゃないって。
じゃあもしかして、あの時怒ったのは俺に子ども扱いされてると思ったからなのか。
そう思ったら、なんとなく腑に落ちた気がした。
もし、リフィが子ども扱いや妹として見られてることにもやもやしていたのなら、怒ったのも分かる。
「そっか……。だからあの時リフィは怒ったのか。子ども扱いされたと思って……」
「え? あの時って……?」
訝しげな顔でたずねるリフィの声に、思わず口に出してつぶやいていたことに気づく。
「あ、いや。なんでもない」
俺は、慌てて首を振った。
そうだった。あれは俺が女神の手鏡で過去に戻った時に交わした会話なんだから、リフィが知るわけない。現実が書き換わってない以上、きっとあの過去はリフィの記憶にはないはずなんだ。多分。
リフィは不思議そうな顔をしながらも、話を続ける。
「だから私、必死に大人っぽい格好をして、踵の高い靴を履いてみたりしていたの。……でも、全然ダメだった。さっきみたいに転んじゃうし、似合わないし……」
それを聞いた瞬間、俺はふと固まった。
え? じゃあ今日の大人っぽいドレスと苦手なはずの踵の高い靴も、俺に子どもっぽいと思われたくないから?
ということは、それってつまり俺に少しは気持ちがあるって――。
「似合わなくなんてないよ。すごくきれいだよ。……俺がついピンクを選んでしまうのは」
リフィが震える目で不安そうに、こちらを見つめている。
「俺がピンクを選んでしまうのは……初めて出会った時のリフィがかわいくて忘れられないからだよ」
「……え?」
リフィが、驚きの声を上げる。
「あの時リフィが着てたふわふわのピンクのドレスがあんまりリフィにぴったりで、甘い砂糖菓子みたいだし、花束みたいで……。その時の印象が強すぎて、つい――。かわいいものばかり贈ってしまうのだって、それはリフィがかわいすぎるからだし……」
こんなことを言ったら、気持ち悪いとか思われないだろうか。
あんなずっと昔のことをこんなにしつこく覚えていて、今も忘れられずにいるなんて。
思わずそっとリフィをうかがえば――。
リフィは顔を真っ赤に染めていたのだった。




