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 その声に、リフィがゆっくりと振り向く。俺の姿を認めた瞬間、その顔からすっと笑みが消えた。


「えっ……? あ……どう、して。メリル……なんで、こんなところ……」


 リフィのうろたえたか細い声が、耳に届く。

 その声は動揺のせいか震えていた。


「……リフィ。俺は」


 名前を呟いたきり、何も言えないまま見つめ合う。

 なにか言わなきゃと思うのに、言葉が出てこない。


「その……俺は……。君に会いたくて……話を……」


 あんなに覚悟したはずだったのに、あんなに最後のチャンスなんだからちゃんと気持ちを一つ残らず伝えるんだって決めてここにきたのに。


 なんで言葉が出てこないんだ。


 とぎれとぎれにしか言葉がでてこない自分に苛立ちを感じながら、拳を握りしめた。



 過去に戻れる手鏡を女神にもらっても、だめだった。

 結果は二度とも変わらなかった。

 なら、直に会ってなんとかするしかないじゃないか。


 それしか、ないじゃないか。


 君を、取り戻すには――。


 なのに、ここにきても俺はまだ。




 けれどその時、皆の顔が脳裏に浮かんだ。


 そしてガーランの言ってくれた言葉も。

 ありのまま心の中にある気持ち全部を、カッコ悪いとか好かれたいとか余計なことを考えずに真っ直ぐ伝えろと、ガーランは言ってくれた。


 そうだ。俺にできるのはそんなことくらいだ。上手にカッコつけてなんて、できない。


 なら――。


 俺はぐっと拳を握りしめると、言葉を振り絞った。

 渾身の勇気を込めて。


「リフィ、お願いがあるんだ。君とどうしても話がしたい……。少し時間をくれないか!」


 震える声をごまかそうとしたらつい大きな声が出て、周囲の視線が集まる。しまったと思った時にはもう遅くて。


 そっとリフィの様子をうかがえば、きれいな薄茶色の目をまん丸にしてこちらを見ていた。


 その顔には、驚きと困惑が入り交じった表情が浮かんでいて。手に持ったハンカチを、せわしなく握りしめている。


 どうかうなずいてくれ、と祈る。

 ほんの少しでいいから話す時間をくれ、と。


 もしこれで君と話ができるのが最後だとしても、ちゃんとこの気持ちを君に伝えたいんだ。ずっと大好きだったって、今も大好きだって。


 返事を待つ時間を永遠のように感じながら、そう心の中で祈る。



 永遠に続くと思われた沈黙を打ち破ったのは、リフィでもなく俺でもなかった。




「いい加減、君も白黒はっきりつけたほうがいいんじゃないかな。あきらめるにしてもやり直すにしてもさ。リフィ」


 声の主は、リフィの遠縁だというその青年だった。


「君、メリル君だろ? 俺はリフィの遠縁で、リフィの父親に頼まれてお守り役を任されてるんだけど。そろそろ俺も家に戻らないといけないしさ、いい加減リフィも自分で答えを出すときだと思うんだよね。それは多分、君も同じだろ?」


 青年にそう問いかけられ、俺は拍子抜けしたような気分になっていた。


「俺はしばらく散歩でもしてくるからさ、二人でちゃんと話し合ったほうがいい。あ、それと君がこんなところまでリフィを追いかけきたことは、リフィの親父さんには内緒にしておくよ。あの人頑固だからさ。……その代わり、しっかりリフィのことつかまえろよ。本気で手放したくないならさ」


 これはもしかして、背中を押してくれているのか。

 ってことは、本当にこいつはただの親戚で落ち込んだリフィを励ますために行動をともにしていただけの関係なのか。


 なら、リフィにはまだ次の婚約話なんて――。


 差し込んだ一筋の光に、俺は力づけられた気がした。


「わかった。その……ありがとう」


 青年に礼をいい、そして今にも泣きそうな顔をしたリフィに向き直る。


「リフィ。その……久しぶり。突然会いにきて、驚かせてごめん。でもどうしても君に会って話がしたかったんだ。だから、ほんの少しでいいんだ。時間をくれないか?」

「わ、……私……」


 次の瞬間、リフィが怯えたようにじり、と後ずさった。

 けれど踵が草に引っかかって体のバランスを崩し、転びそうになる。


 とっさに俺は腕を伸ばし、倒れそうになるリフィを抱きとめた。



 その瞬間ふわり、とミコノスに良く似た甘い懐かしい香りがして。


 甘いミコノスのようなリフィから立ち上る香りに、幸せな、でもどこか切ないその香りに。

 くらり、とめまいを感じていた。





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