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油断と隙


 開いた穴の前に人間どものコンビニがポツンと立っていた。やっと着いた……。


「早く入って冷たい飲み物でも買いましょうよ」

 水を得た魚のように魔王妃の目が輝く。

 魔王妃のモンペが藍色から汗で紺色に染まっているのは言わないでおこう。魔王様も汗だくだ。帰ったらすぐに洗濯しないと汗臭くなる。カビる。

 乾いた汗……あれこそまさに青春の香りだ。

「変態発言しておらずに、早く入るぞよ」

 ……。軽蔑の眼差しはおやめください。

「ああ、お待ちください魔王様」

 自転車のスタンドを立て魔王様を追いコンビニへと入った。


「いらっしゃいマッホー」

「――!」

 店員の挨拶が微妙に古い。冷や汗が出る。

 中はエアコンが効いていて寒いくらいに涼しい。これこそコンビニだ! 夏の避暑地ナンバーワンだだ。

「人間どものコンビニはこれほど商品が充実しておるのか」

 魔王様は悔しそうに陳列された商品を一つ一つ手にとって見る。あまり触っちゃ駄目ですよとは言わない。

 ここは、言わば敵の最前線にある道具屋なのだ。倒産してしまう方が魔王軍の安全のためなのだ。直線距離二十キロは近すぎる。一夜にして攻めて来られる距離なのだ。

「あまり怪しげな行動をとると、我々が魔族だとバレてしまいますよ、魔王様」

 小さな声でそう伝えた。

「構わぬ」

 さすが魔王様。堂々としていらっしゃる。人間などを怖いと思っていらっしゃらない。

「そもそも、首から上が無い全身金属製鎧の化け物と一緒なのだから、最初から魔族とバレバレぞよ」

「……」

 化け物って、酷いよお~。

「プーップップップ」

 笑うな魔王妃よ。

「どけ、邪魔だ」

「……」

 魔王妃も負けずに酷いぞ……腹立つわあ……。


 レジの近くに置いてある正体不明のボックスに気が付いた。

「こ、これは!」

 箱の上にある透明なプラッチックの中には焙煎された珈琲豆が入っている。

「グヌヌヌヌ、小癪な。引きたての珈琲が飲める装置を作っていたなんて」

 中に人でも入っているのだろう。

「そんな訳あるかーい」

 魔王様が突っ込んでくれた。

「そうよ。中には人ではなく奴隷が入っているのよ」

「……」

「奴隷って……」

 ――奴隷も人として見てあげて――。


「チョコミントスムージーを3つください」

 店員に向かって突然のオーダーをする魔王様。

「今日は予の奢りぞよ」

「「――!」」

 チョコミントスムージーってなんだ! さらに3本って、私達の分も含まれているのか~!

「チョミンスムでございますね。3本で660円になります」

 逆に喉が乾くぞ。

「……普通、ここはスポエネでしょ」

 魔王妃の眉毛が「ル」の字に曲がっているのを初めて見た。

「さらには、スポエネって……」

 言いたいことは分かるが、少々古いぞ。今も売っているのだろうか、スポエネ。


「さあ二人とも、これは予の奢りぞよ。存分に味わって飲むがよい」

「ありがたき幸せ」

「……ありがと」

 口の中いっぱいに広がる甘ったるいチョコスムージーとサッパリミントの爽やかさ。好き嫌いが別れそうな微妙な味わいだぞ。

 汗だくのときには微妙だぞ。


 さらには、帰りの水やお茶を一切買わない魔王様は、やはり魔王様だぞ……。



 コンビニから出て帰ろうとしたとき、事件が起きた。

「――な、ない!」

 私の魔魔チャリだけが……忽然と姿を消している。

「チャリがない! どこにもない!」

「はあー」

 魔王妃のため息が……ズキューンと胸に刺さる。


 悪いのは……私ではない、――自転車泥棒だ。


「おのれ……、この魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンのチャリを盗むとは、命知らずめ! 見つけ出して滅多切りにしてくれるわ!」

 思わず白金の剣を抜いて構えた。

「剣を抜いて遊んでないで、早く自転車泥棒を見つけなさいよ。まだ近くにいるはずよ」

「そ、そうでした」

 剣を鞘へ納めた。見渡す限り山と田んぼばかりだが自転車に乗った人間の姿はもう見当たらない。

「地面に耳を付けて音を辿ってみたらどうかしら」

「その手があった!」

 うつ伏せになり、地面に耳を当てて目を閉じる。小さな音までよく聞こえる。


 シャー。


「――! 聞こえるぞ」

 これはたしかに自転車のペダルをこぐ音だ――!

「こっちの方角だ!」

 立ち上がって目を開けると、魔王様がスタンドを立てたまま自転車のペダルを空こぎし、スムージーを吸っている。

「……なにをされているのですか」

「予はこいでいるだけぞよ」

 わざわざ今、ペダルをこがなくてもいいでしょう。スタンドを立てたままこぐ必要はどこにもないでしょう。

「私が音を聞いているのを知っていてですか」

「うん」

 うんって

「……」

 ではワザとなのですね。ワザと妨害しているのでございますね。また剣を抜いてやろうかと思った……。

 完全に自転車泥棒に逃げられてしまった。

「デュラハンったら、どんくさいわね」

「それに、卿には耳も目もないやん」

「……」

 そうでした。そうでしたとも。首から上は無いのにあるように振舞っていました。

「ごめんな……さい」


読んでいただきありがとうございます!


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