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外ロケ


「魔王様、極論ですが外ロケが少な過ぎるのです」

 ここ数回、玉座の間からほとんど出ていない。食堂のシーンや魔王城内を歩き回るシーンすらない。もはや引きこもりというより、リクライニング玉座で寝たっきり魔王様状態ではないか。

「え、リクライニングするの? この玉座」

 一生懸命リモコンを探すでない。倒れる訳がないだろう。そんな古めかしい宝石が散りばめられた玉座が。

「なんだ。宝石などはいらぬからリクライニングしたらいいのになあ……。せめて、カチカチカチと三段階に倒れればいいのに」

 安い金属音のカチカチカチーー。一番手前まで倒すと、ガチガチガチ~と一気に元に戻るやつ~!

「贅沢でございます」

 魔王妃はパイプ椅子でも文句言わずに座っているので御座います。話に飽きるとすぐに立ち上がってどこかへ行ってしまうのが日課だが。


「さらに、魔王様は魔王城から出たとしても活動範囲が狭すぎるのです」

「予は世界一周したこともあるぞよ」

 頭が痛いぞ。思い出したくもない世界一周。

「ですが、あれは魔王城ごとではありませんか。魔王様は玉座の間から一歩も出ていない」

 空飛ぶ魔王城から私を一人突き落としただけ。シクシク。生きて帰れ本当に良かった。

「なので、少し運動がてら出掛けてはいかがでしょうか」

 魔王様は玉座から立ち上がられた。

「仕方がない。外ロケに行くとするか」


 ローブを翻して颯爽と玉座の間を出る魔王様に、私と魔王妃は気乗りしないが付いていくことにした。


 城の玄関で靴を外履きに履き替える魔王様と魔王妃。私は全身金属製鎧だから……いつも土足で城内に上がっている。上がる前にはきちんと玄関マットで泥や埃を落としているから安心してほしい。

「ではデュラハンよ、チャリを準備するがよい」

「チャリ……でございますか」

 チャリって……剣と魔法の世界で使ってもいいのだろうか。

 オグラートに包んで、「ケッタマシーン」の方がいいのではないだろうか。

「余裕でセーフよ。わたしは電動アシスト自転車を使うけれどね」

 電動アシスト自転車――!

「おやめください。電動はやっぱりマズいです」

 世界観が壊れます。充電器とかバッテリーとかは。

「せめて電動ではなく……魔動自転車でいかがでしょう」

 魔力でアシストして進むので魔動。ってことにしましょう。

「凄く速そうね、魔動自転車って」

 そりゃあ、アシストを「登り坂モード」に設定して立ちこぎすれば、滅茶苦茶速いだろう。

 私は専用ママチャリを使うことにした。「魔魔チャリ」と呼ぶと、これもちょっとカッコイイぞ。


 魔王城の駐輪場から自転車を出す。どうして駐輪場って蜘蛛の巣があちこちにあったり、ヤモリがじっと張り付いていたりするのだろう。

 サドルの上には埃がたまっていた。久しぶりに乗るからタイヤに空気をカッチカチになるまで入れた。

 途中でもしパンクしたら、もう乗ってはならない。パンクしたまま乗り続けると、チューブやタイヤがボロボロになり、ホイールが歪んでしまうからだ。

 魔自転車屋さんに怒られてしまう。

 本当は儲かって嬉しいくせに、怒られてしまう~!


「自転車に乗るならドレスのスカートを着替えてくるわ。チェーンに巻き込まれると黒く汚れたりするし、めくれたら恥ずかしいから」

「……」

 また玄関で靴を履き替える。だったら先に着替えてこいと言いたかった。それに、ライトノベルで気にしないといけないことなのだろうか。自転車のチェーンとか、スカートだからとか。

「ドレスのスカートはマズいぞよ」

「魔王様も細かいところが気になるのですね」

 チェーンの汚れが着いたら、たしかに洗っても簡単には落ちない。破れれば補修するのも大変といえば大変だ。

「いや、全部かっさらわれるぞよ。魔王妃に」

 ……。

「そうですね」

 私や魔王様の自転車に乗るくだらないシーンが、すべて魔王妃に持っていかれてしまうと危惧されるのですね。さすが魔王様だ。

 ですが、主人公は……私だ。


「おまた」

 ――!

 まさかの上半身ドレス、下半身モンペ姿には頭の中がグニャリと歪みそうになった。

「モンペがめっちゃ似合っているぞよ! さすが、予の妻ぞよ」

 藍色のモンペには無数の「#」模様! 目の付けどころがシャープだ!

「えへへ。似合っている?」

 古臭そうなのは似合っているぞ――。でも、モンペって、今の若者にどれくらい想像できるのかが不安だぞ。冷や汗が出る

「モンペより、ブルマの方がよかったかしら」

「おやめなさい!」

 剣と魔法の世界にブルマはタブーです。

 熱狂的なブルマ世代層の人気を、一人残らずかっさらうでしょう――。



「ヒャッホーい。やっぱり外の空気は気持ちいいですね」

 道は当然だがガタガタ道だ。アスファルトなど剣と魔法の世界にはご法度だから。口を開けていると舌を噛みそうになる。

「首から上は無いのだが。アーハッハッハ!」

 立ちこぎするのが気持ちいい。まだ残暑が少し厳しいが自転車で走ると風が心地よい。

 空は青く、ポップコーンのような入道雲が可愛らしい。洗濯物は屋上に干してきたが、雨の心配はないだろう。

「んん~じつにスガスガしい気分だ~!」

「尻汗が気持ち悪いぞよ」

「……」

 魔王様、暑苦しいローブはいらないでしょう。サイクリングに。

「脇汗も気持ち悪いわ」

「……」

 あの時、上のドレスも着替えてこいと言えばよかった。若草色のドレスはゴージャスな長袖なのだ。

やっぱ、城から出るなお前ら。と言いそうになった。


「それで、どこに行くおつもりですか」

 こんなことだろうと思ってはいましたとも。ちょっと近くを走って直ぐに帰りましょう。

「噂では、人間共の最前線が、魔王城から二十キロのところまで近づいているそうだ」

「なんですって! 初耳です」

 魔王城から二十キロと言えば、至近です!

「魔王城の位置はまだ気付かれていないようだが、小さな建物を建てたとの噂だ」

「どのような建物でございましょうか」

 難攻不落の要塞のような建物だと……やっかいでございます。

「コンビニぞよ」

 ……。

「コンビニですか」

 人間共に戦う気はあるのでしょうか。

「誰の噂ですか」

「ソーサラモナーぞよ」

 ……。

 あいつは引きこもりの魔法使いだが……やけに情報に詳しい。法律ギリギリの偵察魔法を使いまくっているのが腹が立つ。

 決して嫉妬している訳ではない。


「そのコンビニまで直線距離で二十キロの近道があるのだ」

「近道ですか」

 この辺りに道らしい道といえば、国道くらいしかないはずだ。

「フッフッフ、予しか知らない秘密のトンネルぞよ」

「え、トンネルですって」

 目の前には岩肌しか見えない。

 キキキ―っと錆び付いたブレーキ音が響き渡り、岩肌をこだまする。キキキ―、キキキ―、キキキ―。

「ここぞよ」

(せま)!」

 人が一人やっと通れるような狭さだ。本当にこれがトンネルなのですか。

「ここを一列になり、二十キロ進むとコンビニのすぐ裏に出るのだ」

 ――人一人がようやく通れるような狭いトンネルを、二十キロも進むのでございますか! それでサイクリングの楽しさが味わえるのですか!

 トンネルの奥に光は見えない。直線ではないのだろう。

 本当にこんな穴に自転車で入っていって大丈夫なのだろうか。空気とかもちゃんとあるのだろうか。冷や汗が流れる。首から上は無いのだが。

「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと先陣切って進みなさいよ」

 魔王妃はいささかご機嫌が斜めだ。脇汗が滲んでいるのは言わないでおこう。肩で息をしている。一人だけ電動アシスト自転車のくせに。


読んでいただきありがとうございます!


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