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引きこもりは褒め言葉ですから――


「最近は家にいても通信手段が豊富だから仕事もできれば友達と会話もできる」

 魔王様の友達なんて、一度も拝見したことはないのだが……。

「引きこもっていても問題ないってことですか」

「さよう。もはや引きこもりは褒め言葉ぞよ」


 ――引きこもりが褒め言葉――!


「いまはステイホームなのだ。引きこもりこそ世のため人のため自分のためでWin-Winぞよ」

「……ステイホーム」

 たしかに不要な外出は避けた方がよいのだが……いいのだろうか、別の意味で。

 軽い現実逃避を求めてライトノベルを手にした筈なのに……ごっそり現実世界に引き戻されるような恐怖。

「ザ・コ□ナウィルス!」

 ごっそり言うな~! ご乱心されたか。

「おやめください! 剣と魔法の世界にソーシャルディスタンスとワクチンの世界感をねじ込もうとしないでください」

 冷や汗が出る。いったい何回ワクチン接種せねばならぬのかと。無料ならともかく、有料になれば誰も打たないだろう。

 全身金属製鎧だから、針が刺さらないのにどうやってワクチン接種しているのかと苦情が来そうだ。


「ちなみに、ホームステイではないぞ」

 ホームステイって……なんだ。剣と魔法の世界にもあるのだろうか。留学先でのホームステイ。

「ステイホームとホームステイ。似ているようで全然違うぞよ」

「そうですね」

 正反対ともいえる行動量の差。

「カナダまで3週間六五万円ぞよ」

「おやめください」

 冷や汗が出る。円で言わないでください、円で。


「おはよう。二人共早いわね」

 玉座の間の大扉が開き、朝日を背に魔王妃が入ってきた。もう九時半をとっくに過ぎている。それなのに寝癖がピンと立っているのが……この人の場合は裏がありそうであなどれない。

「おはよう」

「おはようぼざいます。魔王妃様」

 優雅なドレスが大理石の床を滑るように進む。

 ドレスは立派だ。

「失礼ですよ。ドレスも立派ですと言い直しなさいデュラハン」

 言い直すもなにも、私は何も言っていないというのに……。

「ドレスも立派ですドレスも立派です」

「二回も言わなくていい。照れるわ」

 口元を抑えてニッコリ嬉しそうに微笑む。

「……」

 言い直させておいて照れないで。二回言った側が照れてしまうから――。……なんか損した気分だ。

「なんのお話をしていたの魔王様」

 魔王妃はいつものように魔王様がお座りになる玉座の横にパイプ椅子を広げて足を組んで座る。

 ドレスと同じ若草色のヒールが癇に障る。若草色ってガラではない。バッタ色で十分だ。

「デュラハンが、予のことを『引きこもり』と呼んでバカにしよるのだ」

 バカにしてはおりませぬ。せめて、小バカにしていると加減してほしいところだぞ。

「う、うん? え、まあ、それは……どうなのかしら。……そうね。きっとそうかもねオホホホホ」

 魔王妃はどっちの味方だ――。凄く困り顔でチラチラこちらを見てくる。オホホホとか言って笑うタイプじゃないだろうに。

「予は魔王ぞよ。魔王が魔王城にいるのは、宿命なのだ」

「宿命ですか」

 民宿の主が民宿にいなければ……普通の家だ。ってことだろうか。

「もし、魔王が魔王城にいなければ、勇者一行が攻めてきたらどうなるのだ」

 魔王様が人差し指をクルクルと宙で回しながら問いかける。

「どうなるって、正々堂々と戦ってやっつけますとも」

 四天王であるこの私が自ら剣を取って戦いましょう。

「違う違う。世間一般の話しぞよ」

 ――世間一般! つまりはRPGとかの魔王とか、ラスボスのことか。

「魔王が帰ってくるのを敵の本拠地である魔王城玉座の間で、ただひたすら待つのか」

「ラスボスが不在では……たしかに勝敗はつきませぬ」

「ラッキー、不戦勝だ! って喜ぶかもね」

 それはない。

「魔王を倒してこそ初めて勝者となり王様から褒美とハーレムを貰ってハッピーエンドを迎えるのでしょう」

 「せっかく魔王城まで行ったのに、魔王は外出中でしたよ」とノコノコ帰ってきた勇者一行を誰も出迎えないだろう。世間の目は勇者に厳しいものだ。

 世間の目が政治家に対して厳しいのとちょっと似ているのかもしれない。

「真の勇者であれば、魔王が城へ戻ってくるまでじーっと待つと考えます」

 これは正論です。そして帰ってきた魔王と正々堂々と戦ってこそ、真の勇者です。

「ならば、飢え死にするまで予は城に帰らぬ策を取るであろう」

 ――勇者を餓死させる策!

「まさに魔王様!」

 「卑劣」「卑怯」「人でなし」の3Hだ。

 裏山から双眼鏡で覗いていて、勇者が諦めて帰ったのを確認してから城へ戻るような魔王様は、もはや魔王様ではない。チキン野郎だ――ニワトリともいう。

「最高の褒め言葉だわ」

「照れるぞよ」

 ――断じて褒めてはいない――。チキンとニワトリって……ひょっとして、ブロイラーか。

「作戦名、『カラ出張』ぞよ」

「おやめください」

 カラ出張って、なんだ。さらに魔王様は出張旅費を請求して儲けるって魂胆か。


 だが、よくよく考えてみると魔王城でたくさんの魔族が戦って散っていくのを……黙って裏山に隠れて見ている魔王様って……ちょい悪で格好いいのかもしれない。

 それでこそ真の魔王様なのかもしれない。


「ですが、勇者一行もただでは帰りますまい。魔王城内にあるすべての宝箱を開けて、根こそぎ宝を持ち帰ることでしょう」

 とんだ遠出をさせやがってえ! と怒りシンシンでしょう。まあ、宝箱の中には燃えるゴミや燃えないゴミが分別されずに入っている物もあるのだが……。

「もし勇者が魔王を倒さずに魔王城の宝箱を開けて宝を持ち帰れば、すなわちそれただの泥棒ぞよ」

「ただの泥棒! 勇者がシーフ!」

 剣を持って不法侵入からの~金品強奪してとんずら。生ゴミや瓶、ペット、トレーの分別ゴミは絶対に持ち帰らないだろう。

「魔王を倒してこそ宝を持ち帰ることが許されるのだぞよ」

「……そうなのでしょうか」

 よくよく考えると魔王を倒して宝を奪った方が罪は重い気がする。勇者が正々堂々と強盗致死傷罪? ぶっ殺して宝を奪いハッピーエンドでエンドロール。さらには、強くてニューゲーム。


 RPGって、なんて残虐な物語なのだ――。


「桃太郎もほぼほぼそれぞよ」

「おやめください」

 小さなお子様が困惑してしまいます。正義ってなにかと。

「なので予は、仕方なく魔王城にとどまっておるのだ」

「「……」」

 引きこもりの正当化も、ここまでいけば素晴らしい。


「では逆に問おう。魔王妃はキャンプは好きか」

「え、もちろん好きよ」

 パイプ椅子が一瞬、ガタッと音を立てた。

「夏休み毎日キャンプはどうだ」

「それはタブー。せめて……一泊二日ね」

 一泊二日のキャンプって……短い気がするぞ。

「なぜだ。キャンプは楽しいではないか」

 降り注ぐ日差しとほとばしる汗。あとは、人肌くらいのぬるい缶ビールがあれば最高だ。喉が渇く渇く――。

「えー、日焼けするのも嫌だし、小さな虫がウザいし、クーラーもないからジメジメするし」

 それがキャンプの醍醐味ではないか。

「テントは狭いし、声は筒抜けで外に聞こえるし」

「……」

 なにも問題発言はしていない。

「え、そっちのテント~? みたいな」

「お黙りください」

 つまりは、キャンプ嫌いってことだろ。

「であろう。もし予が引きこもりではなく、正反対級の肉食系アウトドア派であれば、今頃、魔王城内の全員で夏の山登り野宿ツアーぞよ」

「「夏の山登り野宿ツアー!」」

 行きたくない~! 野宿ツアーってワードに鳥肌が立つくらいに行きたくない~!

「魅力的なようで、ぜったい女子が嫌いなヤツーー!」

「トイレは野ションぞよ」

「キャー!」

 魔王妃が頬を赤らめて顔を隠す。

 いや、あんたなら平気でできそうな気がする。そう思ったのは私だけではないだろう。

「小麦色を超えて焙煎珈琲豆色の黒光りする肌」

 黒光りするほど焼けた肌。

「ムリムリムリムリ」

 魔王様の青白い顔からは遠く想像できないぞ。遠回しに日焼けするのが羨ましいぞ。私は全身金属製鎧のモンスターだから……日焼けしない。日焼け止めクリームも必要ない。

「ごめんなさい。魔王様は引きこもりの方が素敵です」

 それでいいのか、魔王妃よ。

「であろう。予の魅力をまた一つ見つけたな、こいつーう」

 指で魔王妃のおでこをツンと突く。

「ゴホン。おのろけは二人だけのときにしてください」

 ここは神聖なる玉座の間なのですぞ。

「なら出ておいき」

「……」

 ……鬼だぞ、この魔王妃は。

 本当に出て行ってやろうかと考えたぞ! 腹立つわあ。


読んでいただきありがとうございます!


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