VoiceData──World.primitive.epic
古い音声データだ。破損が酷く、いつものものかもわからない。
再生しますか?
▶︎はい
いいえ
──██っ、██っ!!
なにをいってるか、わからない。まっしろなものが、いっぱいある。
おみずがのみたいよ。瑤█。ぱぱのおむらいす、またたべたいね。
──行くなっ!きっと助かるかもって、父さんも言ってたじゃないか!!あんな真似、する必要ないじゃないか!!
ぼく、なにかいったっけ。なんでおこってるの?
なにか、つめたいものがおちてきた。おみず?のませてよ。
──ごめんな。██。ごめん、母さん、ごめん
あやまらないで。ぱぱ、ぼくはいきてるよ。
──もう、ダメだ。脈がとれない。瑤█、怒っていないで██の手をとりなさい。
だめ?なにがだめなの?
ぱぱ、ぱぱ。
──██、どうしてなんだよ。どうして、僕の言ってることがわからなくなっちゃったんだよ。そうじゃなきゃ、こんな……
まっしろになってきた。きえないで。ぱぱ、瑤⬛︎
──いいかい、⬛︎⬛︎。君は、パパの大事な息子だよ。それだけはっ、お願いだ、覚えてくれたらっ……
ぱぱ。ぱぱ。
──ここは、なにもない。どこ?まっしろだよ。
──ねえ、パパ、瑤⬛︎?なんで、おへんじしてくれないの?
──◼️◼️、僕の声、聞こえてる?◼️◼️は耳がいいから、僕の声が届くはずだけど。
1回、声の主が言葉を切る。何かが落ちていく、重い音が響き渡った。
──届いていると思って、今から僕は独り言を言うね。
──君がこうなってから、今日で10年経った。そう、君の誕生日だ。
──今、君が見ているのはどんな景色だろうか。パパがくれた本みたいな感じかな。いつか見れたらいいな。
──まあ、見えないんだけどね。
──こっちの様子は知りたい?■■は知りたいって言ってたけど……■■が知ると、ショックを受けるだろうしやめておこう。
──こんな日には……盛大に君の好物を食べさせてあげたいな。
──……嘘ついた。ごめん。本当だったら、さ……。
嗚咽が混じっていて、声が聞き取れない。轟音がひとつ、ふたつ、彼の言葉を遮るように鳴る。
──こんなことになるんだったら、もっと食べられたら、よかったのにね。
──可哀想だと、君のことは思わないよ、■■。だって、そう言ったら君の覚悟と笑顔を裏切ることになるでしょ?
──でもさ……
──なんでこうも、人ってさ。嫌なのが多いんだろうね。
──救世主様なんて、いいことばかりじゃないのに。なんでだよ、⬛︎⬛︎。
──もっと大好きなものに囲まれて、もっともっと話せばよかったのに。
──そうじゃなきゃ、こんなことに、なって、ないんだ……!
大きな爆発音が鳴る。
音声はここで途切れている。
貴方はこれを知る人間のひとりだ。ここで音声データを聞いたのも、何かの縁だろう。