序章
「群青の配達屋」の続きになります。今回は依頼を受けていないので、のんびり感覚が漂っています。
炎を自在に操る民たちは、その恩恵を深紅の髪に宿した。燃え盛る火のような朱色の瞳は、微細な熱の加減を欠片も見逃さず、あたかも空気の流れさえ思うがままに操るようだった。
火源を生み出し、その熱を更に燃え上がらせる。周囲を巻き込み、暗く地を這う臙脂色から、実りの季節に木々を染める朱色、晴れ渡った空のような淡青色まで、あらゆる色の炎を作り出していく。それを自分の手足を操るように自在にこなした。
炎の民は、土の民の生活のすぐそばにいた。
それがいつの頃から続いていたのか、それは彼らも預かり知らぬところだった。それが日常で、不思議に思うようなことは何もなかった。
土からの恩恵を、炎の彼らが完成させた。まるで二人三脚。土と炎の恩恵は切っても切り離せないものだった。いつしかお互いの恩恵が当たり前のようになっていった。
しかし、いつしか当たり前は当たり前ではなくなった。
炎の民は停滞できない。燃え上がった炎は潰えるのが宿命。その源を活かし続けるためには、更に種を求める必要があった。
炎はそれ単独では存在できない。火は燃え上がり、しかしあとには何も残らない。
炎の民は源泉を求めた。自らの価値を費やさないために、灯した炎を絶やさぬために。
求めには森の民が応じた。炎の源泉を彼らは熟知していた。望む温度を出せる種を提供するのに、労力は要さなかった。
炎の民は協定を結んだ。決して、種を根絶やしにはさせないことを。代わりに土地を育み、害を除去し、種を育てる適切な地を提供することを。
協定は誓約となり、時を超える。刻み込まれた約束は違えることなく、受け継がれていく。