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第一話 餓死


 拝啓 お父様、お母様、そして兄弟たち……私、雪口(ゆきぐち)火華(ひばな)はもうダメみたいです。


 炎天下、ともいえない5月の晴天。なんとなく汗をかくくらいの暑さ。

 だけど、ちょっとだけ見えた日蔭を目指して重い足を無理矢理に動かす。


 市街地、その片隅にある小さな公園。木陰になっているベンチに腰を下ろすと「あぁぁぁー。」となさけない声が出た。


 ああ、もうダメだ。二度と立ち上がれなさそう。



 もう何日、食べてないっけ? というか、今日は何日だっけ?


 ちょっと腕をあげて、腕時計を見れば日付が表示されてるはず。今の俺にはそれさえ億劫だけど。


 数分かけて何とか時計を見れば、最後にご飯を食べた日から9日が経っている。9日、9日かあ。


 一週間しか経ってないと思ったんだけど、どうやら何日夜を過ごしたかすら覚えられないほど、今の僕には思考力が足りてない。



 どうしてこうなったんだっけな、と、ちょっと思う。

 何度考えても自分のせいだろと、決まりきった結論しか出てこない。


 家出ーーーそう、家出だ。

 ちょっとしたことから家を飛び出して、金を使い切って、一文無しになってーーーそれでも何もしなかった。

 だから当てもなくさまよって、彷徨って、サ迷って。

 こうして餓死しそうになってるってわけだ。



 まごうことなき自業自得。

 完膚なきまでに自己責任。



 だって、生きたければいくらでも方法はあった。

 親に泣きつくでもいい。警察に駆け込むでもいい。誰か見知らぬ人に土下座して恵んでもらってもいい。最悪、犯罪に手を染めれば何か食べることくらいはできただろうに。


 でも、何もしなかった。

 できなかったんじゃない。しなかった。


 そう、こうなること(餓死)を望んでた。


 死にたかった?

 いや、死にたくはなかった。

 ーーーでも、生きたくもなかった。


 死ぬのは怖い。でも、生きるのは面倒臭い。

 生きたくないわけじゃない。でも、死にたくないわけじゃない。


 アホだろって思う。

 なんて愚かな生き様だって、自分で馬鹿らしくなる。


 でも、これしかできなかった。

 意外とーーー後悔はない。ないんだよなぁ。


 たぶん、もう一度人生をやり直してもどこかのタイミングで同じように家出して、同じように野垂れ死ぬんだろう。


 そう思うくらいには自分のことを馬鹿だって思う。

 そんな自分が嫌いじゃない。


 そう、だから、もうちょっとだけ、頑張ろう。

 どこに向かって歩いてるのか分かんないけど。もうちょっとだけ前へ進もう。


 体に活を入れて立ち上がる。

 そして一歩踏み出そうとしたところでーーー体から力が抜ける。

 地面が近づく。やけにスロー。


 そしてなんとなく、今までの人生が蘇る。走馬灯ってやつだろうか。



 雪口火華。

 雪口家の長男として誕生。女の子だったら華火(はなび)という名前になっていたらしい。今でも十分女の子じみた名前だなと思うが。


 家族構成は父、母、弟、妹のの5人家族。両祖父母とも健在。今まで葬式に参加したことないってのが話のネタだったりする。


 小さい頃は両親の転勤に合わせて全国を転々。中学生になる頃には転勤はなくなり、やや都会よりの街に定住。それからずっとその家で暮らす。

 中高と地元の学校。大学も家から通える国立に合格できた。

 友人関係も良好。やや閉鎖的ではあるけれど、ぼっちと言えるほど社交性が壊滅的というわけではない。

 大学に入ってからオタク系の文化にハマるも、特にのめり込むということはなく、軽い付き合い。

 就職活動も十分に進み、志望の業種から内定をもらい、順風満帆の人生ーーー


 だが、家を飛び出し、何一つ生産的なことをすることもなくダラダラと全財産を浪費し、最後には放浪生活。そして今ここに至るーーーと。




 ああ、うん。今までの人生を振り返ってこう思う。十分すぎるほどに満足だ、と。



 まるで力が入らない。ああ、もう地面はすぐそこだ。



 最後に眩しい光を感じながらも、僕の意識は途切れた。



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