0話 英雄
崩壊する大地。
剣の砕ける音。
視界を覆い尽くす様に放たれた極光。
音は消え去り。
体中の感覚がどんどんとなくっていく。
英雄と呼ばれたその男の体が魔王の放つ光に呑み込まれていった
。
全てが終わった。
英雄が魔王に敗れた。
『guhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa』
人類の破滅を告げる様に魔王の咆哮が響く。
英雄の敗北を皮切りに世界中の人間の体にヒビが入った。
人類の敗北。
人と言う概念そのものが世界から破壊され消滅するのも時間の問題だろう。
ある種族は次は自分たちの番だと体を震わせ。
超越者達はどうでもいいと各々の遊びにふける。
そんな中、今にも消滅しそうな人という種族だけがまだ信じていた。
英雄の勝利を。
例え、世界を灰燼と化す終末の極光に呑み込まれようと。
あの男ならやってしまうのではないかと。
魔王の極光が更に眩くなったその時。
低い男の声が響き渡った。
「勝つのは俺だ・・・」
人類は歓喜する。
やはりあの男は真の英雄だと。
「故にもう一度言おう・・・まだだ!」
極光に小さな亀裂が走る。
終末の極光が2つに裂けていく。
一人の男が大気を踏み砕きながら、極光をものともせずに魔王のもとへと駆けている。
最早使い物にならぬ折れた剣を放り捨てて、握り拳をつくる。
全身全霊、英雄の最期の一撃。
今にも灰となって飛び散りそうな体を気合と根性、信念のみで繋ぎ止め、魔王の顔前へと躍り出た。
英雄が魔王に拳を叩きつける。
次の瞬間、魔王の頭部が爆ぜた。
英雄もとい人類の勝利。
世界が課した人類に対する最初で最後の試練は幕を閉じた。
ように思われた。
世界が修復されていく。
だが、一つ余計なものまで修復されていっている。
魔王の頭部が時間でも巻き戻っているかのように治っていく。
ソレはやがてもとに戻り。
魔王のものとは違う無機質な声で告げた。
『両者の同時消滅により引き分けだ。故にもう一度試練を行う。
期限は300年、300年以内に魔王を倒さなければ人類は滅びる。
諸君の検討を祈ろう。』