魔法少女と得られた力
「伶さん行っちゃった」
ゲートが閉じるのを確認し、静かになった狭間の世界。私もそろそろ帰ろう。でもその前に。
「──キン、もう少しだけ帰るの待ってもいいかな?」
「ん、ええで」
最近新しく始めた事がある。今日の訓練の反省だ。
伶さんは日に日に強くなっていく。それに追いつくためには伶さんよりも努力する必要がある。
「ひかり、そろそろええ時間や」
「うん、わかったよ」
一通り動きを見直した私はコンにゲートを開いてもらい帰る事にした。
新しく始めた、訓練の反省、伶さんよりも努力、とは言うが結局の所、1人でできる事は少ない。
それでもしないよりはマシだ。そう思い込む事にしている。
──週末、少しは何か良くなればいいな。
「お父様、今度の週末に友人を連れてこようと思うのですが」
「……そうか」
夕食の最中に伶が口を開いた。それに静かに返すのは現在の一条家の当主。つまりは伶の父親だ。蓄えた髭と何処となく顰めているような顔付きは見るものを無意識に威圧させる。
「あら、伶ちゃんがお友達連れて来るなんて何年振りかしらねぇ〜」
そんな横で柔和な表情を浮かべ、父親と全くの正反対の穏やかな空気を醸し出しているのが伶の母親。
「……別に構わん」
「それでお父様にお願いがあります」
「……なんだ」
「道場を使いたいのですが宜しいですか?」
「……うむ、許可しよう」
「ありがとうございます、それと」
「?」
「友人が来る時に顔を出さないでもらいたいです」
「そうか…………え、駄目?」
顰めっ面が途端に狼狽に変わる。
「駄目です」
「なんでも?」
「なんでもです。お父様が昔私の友達に何したか覚えてますか?」
「ぐ……」
「伶ちゃん私はー?」
「お母様は構いません」
「やったぁ!」
「そんなぁ!」
嬉しそうな母親と絶望の底のような父親。大体予想通りの反応だなと伶は思った。
「それにしても、本当に久しぶり。もしかして好きな子?」
──予想外の発言だった。
「「!?」」
伶とその父親。2人揃ってゲホゲホと盛大にむせた。
「そうなのか!?伶!」
「だってお父さん年頃の女の子が急に家に呼びたいと言えばやっぱり好きな子かなってお母さん思うわ」
「いえ、その」
「うおおおおん!」
「あらやだ立派な男泣き」
「いえ落ち着いてください!呼ぶのは女の子ですしそれに別に好きとか、まあ、そう言うのでは、ないですし」
「…………」
「な、なんでしょうか?」
「…………」
何か言いたそうな顔をしているのをひしひしと感じ取った伶はこれ以上ややこしくなる前に撤退する事を選んだ。
「──ごちそうさまでした!週末はそういう事でお願いします!」
ドタバタと自身の部屋に戻っていく伶。
「見たかしらお父さんあの子のあの顔。あれは恋する乙女に違いないわ」
「うぐっ……ふぐぅ……」
「もしかしたら女の子のふりをした男の子が来るかもしれないわねこれは」
「うううううう!」
「うー」
「照れっ照れでしたわね伶様」
「うるさいわ」
自室のベットに顔を埋め唸る伶を面白そうに眺めるコン。
「まぁ伶様はひかり様大好きですからしょうがないですわ。まるで恋する乙女ですもの」
「からかいすぎよ!全くもう」
こうなったコンは叱ったところでどこ吹く風だ。こんな時は怒るよりも真面目に諭す方がコンには効く。伶はそう思った。
「大体恋じゃないし、もし好きでも女の子同士の好きって奴だし、それに──」
少しの沈黙の後。
「それに、ひかりは私にとって、とても大切な友達なのよ。恋や好きなんて簡単な言葉で片付けたくないわ。前に話したでしょう?」
「そうでしたわね」
「分かってくれて嬉しいわ。──どうしたの?」
さっきまでの勢いがなくなっている。
「そこまではっきり言われると此方の方がちょっと気恥ずかしくなってしまいまして」
「そうなの?」
「そうですわ」
コンは顔を背けて寝る準備を始める。伶も大人しくなったコンに満足して同じく準備をする。
──週末、良い日になりますように。
そして、その日がやってきた。




