料理少女と学園の噂
「…………」
「どうしたひかり、そんなにソワソワして」
「フミちゃん。いや、そのね、今日伶さんのクラス調理実習じゃんか。それでね──お?」
ガタッ!横にいたユウちゃんが立ち上がりわたしの肩を掴む。
「ひかり!もしかして一条さんのクッキーを欲しいって言うの?」
「え、いやそんな」
「ひかり〜いつからそんな色気づいちゃったのよぉ」
「なんのこととととと……!?」
ガクガクと体を揺さぶられ言葉が震える。
「ユウ、多分ひかりは何も分かってなさそうだ」
何やら事情をわかってそうなフミちゃん。ならば助けを求めるしかない。
「フミちゃん助けててて……」
「──面白いからもっと揺らしていいぞ」
「フミちゃんんん!!!?」
「──はぁ、酷い目にあった」
「いやー焦ったわホント、ウチの可愛いひかりが知らない間に急成長したのかと」
「いつだって子は親の知らないところで大人になるものだからな……」
「何でそんな親目線なのさ……ところで、伶さんのクッキーがどうしたの?」
もしかして伶さんのクッキー作り練習がどこかでバレたりしてたのだろうか?
うむ、とフミちゃんが口を開く。
「なに、大したことじゃない。またアレが更新されたのだ」
「あれ?」
「そう、[調理実習で作ったクッキーを意中の人にあげると恋が叶う]」
わざとらしげに喋るフミちゃんを見て何のことかわたしも理解した。
「あー、学園七不思議ね」
夢見学園。
ひかりと伶が通っているこの学園。小中高一貫教育を目的としているこの超巨大な学園は土地だけはあるが他には特に何もない田舎の町、夢見町の大きなアピールポイントになっている。
そんな大きな学校にもちろんあるのが七不思議。ただし、今となっては不思議だけではなく噂話や胡乱な伝説等も組み込まれていき7どころではない数の噂、伝説が生まれては消え、消えては生まれてきている。
その中でどうやら今最もホットな物がこれのようだ。
「そう、だからほら、周り見てみ?」
ユウちゃんに促され周囲を見ると。
「今日のためにクッキー保管用の金庫買った」
「俺は昨日滝行してきたぜ」
「新しいリップ買いましたわ」
「私はデートプランを考えているの」
「みんなソワソワしてるでしょ?」
「これをソワソワで済ませていいのかなぁ」
なんかすでに付き合ってる事を全体に話を進めている人もいてもはや恐怖すら覚える。
「そう言うわけで今日は皆落ち着きがないのだ」
「2人はソワソワしないの?」
「別に?ウチはひかりから貰うし?」
「うむ、所詮噂は噂だ。それに私もひかりから貰えればそれでいいと思っている」
「わたし達同じ班だから貰うも何もないんじゃないかな?」
そうして話しながら、時間が過ぎていって。
「ひかり、これあげるわ」
「わーいありがとう伶さん」
クッキーを貰った。
「それにしても焦ったよ伶さん」
「どうして?」
「ほら、今流行ってる噂話あるからさ」
「……ああ、そうね。もちろん知ってるわ。だからちゃんと対策してきたの」
そういう伶さんはまるでサンタクロースのように大きな袋を担いでいた。
「かなり無理言ったけど多めに設備を貸してもらえてね。これだけ作れば全員……とまではいかないけどある程度欲しい人に渡す事が可能よ。更にこれだけ配れば妙な噂も立たないでしょう」
あ、と伶さんは小声で付け加える。
「……ひかりに言われたとおりゆっくり丁寧に作ったわ。生徒会長が凄過ぎてどこか気負ってたみたいね、私。今回は味も大丈夫なはずよ」
確かに貰ったクッキーを見れば厚みも焼き色も均一されていて明らかに前回とは違うのが分かる。
「教えてくれてありがとうひかり。それじゃ、次の場所にも行ってくるわ」
「うん、頑張ってね!」
そうして伶さんは教室を後にしていった。




