運動少女と騎馬戦
「この時って!?」
「見ろ、一条さんの足元を」
「アレは!」
フミちゃんが指差した先には。
「うおぉぉ!?大丈夫かぁ!」
「うぐぐぐぐ」
「「「上手子ちゃん!!」」」
ラグビーシスターズの妹の方、上手子ちゃんが苦しそうに膝をついてる所だった。
「ラグビーシスターズの身長は私達よりも高い。騎馬としては背の高い方が有利だが、今求められているのは帽子の取り合い。多少有利ポジションの確保の為私達より高くするとしても必然的に背の高さを合わせなければならない」
フミちゃんがノリノリで解説している。後ろを支えてくれているため見えないがきっと悪い顔をしているだろうなぁ。
「本来なら一条さんはこちらが攻めるのを待てば良いだけだが、周りのファンの期待は一条さんが直々に帽子を勝ち取る所だ。それに応えるべくあちらから攻めてくるのは明白。その時にラグビーシスターズの体勢は、まるで空気椅子だ。そんな体勢を長時間維持できるはずがない」
とはいえ、普段から鍛えている相手だから崩れる時間が掛かってしまったがな。とフミちゃんは言う。
「なるほど、つまりさっきの意味のないような後退も」
「ああ、空気椅子状態でジリジリ動いて負担がないわけないからな、私なら3秒でひっくり返る」
「なんとも恥ずかしい自慢ねフミ」
「うるさいぞ。──さて、ひかり。狙うのは一瞬のチャンスだ。もうすぐ姉の方も体勢を崩すだろう。その瞬間に前に出るから一条がバランスを取り直すまでの間に
帽子を奪うぞ」
「うん!……でもそのタイミングって伶さんも感づいてるんじゃないかな?」
「そうだとしても崩れた体勢は直さなくてはいけない。それを逃したらもう勝ち目は見えないぞ」
「一条さんすいません、自分ももう……」
「そう、これ以上の無理はだめね」
「うっす、すいません」
「謝るのは私のほうよ」
「?」
「──気にしないで頂戴、5秒後に崩してもらっても良いかしら?」
「うっす、任せてください」
伶さんが何か話している。そしてその後、
「──崩れた!今だ!」
ぐらりと騎馬が揺れ、伶さんのバランスが崩れる。そこに一気に攻め込み、そのまま帽子に手を……!
「…………!」
「──っ!」
ぞくりと背筋に寒気が伝う。まだ伶さんは諦めてない……!伸ばした右手を思いっきり弾かれる。そしてそのまま伶さんもわたしの帽子に手を伸ばす。
「っうおおぉ!」
「なっ!?」
パシィン。乾いた音が響き渡る。
わたしも残った左手で伶さんの手を無理やり払う。2人とも両手を弾き、弾かれ、体が伸び切った状態。
……なんかこの前もこんな事があったような?
『私の勝ちね』
『……はーい』
思い出した。この前の模擬戦と似たような状況だ。そう思うと少し対抗心が昇ってきた。
あの時は負けちゃったけど今回は!
ひと息で体勢を持ち直して、手を伸ばす!
「「!」」
「今日も私の勝ちよ」
「ぬわー!惜しかった!」
またもや負けてしまった。わたしは寝っ転がると変身を解いた。
「でも最近はかなり食らいつけてきてるで」
「えぇ、ひかり様は拳で戦う分リーチのある敵との戦いは常に不利ですもの。近頃の成長は著しいですわ」
キンとコンが駆け寄ってくる。
「そうかな?」
「そうね、正直今のは踏み込み1歩の差だったわ」
「ならだいぶ強くはなってるって事なんだね」
寝転がった私の横に伶さんがきた。どうぞ、と渡された飲み物を受け取る。
「ふぃー……」
「そういえば、これあげるわ」
「え?おお!これは!」
伶さんが渡してきたのは、食堂利用の無料券だ。
「貰ったはいいけど、私はほとんど使わないから。お友達と分けて使ってもらえるかしら?」
「うん!2人とも喜ぶよ!」
わたしはポケットに無料券をしまった。




