運動少女と騎馬戦
『運動会特別イベント、騎馬戦を始めます!この騎馬戦は我が校の伝統!互いの絆と勝利への渇望を思う存分競い合ってください』
「さあ!勝って食券をもらうわよ!」
「もうすでに勝ったつもりでは駄目だぞ」
「そうだね、伶さんは本気だって言ってたし」
騎馬戦は下の学年から、1学年ごとに行う。次はとうとうひかり達の学年だ。
不安げなひかりをよそにユウが軽いノリで話しかける。
「まあまあ、フミの作戦とやらでなんとかなるでしょ──」
「なんだアレは!?」
「まさか、アイツらまで出場するのか!?」
「ん?」
ざわめきの方向を見る。
「え、凄い……」
ひかりは絶句した。横ではユウも唖然としている。
「皆さん、今日はよろしくお願いします。負ける気はないので、そのつもりで」
「うっス」
「うっス」
視線の先には伶がいた。筋骨隆々の2人を引き連れて。
「やはり一条のとこにいたか、《無敗のラグビーシスターズ》……!」
「え、なにそれこわい」
「あら、フミさん、だったわね。知っているのね」
伶がフミを一瞥する。
「ああ、彼女達はその余りの強さに高校ラグビー界で殿堂入りと称して試合に入れるのを禁止されそうになった過去を持つと聞いた事がある」
「そんな強いの!?」
「そうよ」
驚くひかり達の前にラグビーシスターズがヌッと前に出る。余りの存在感に圧倒される。
「うっス、姉の羅惧美偉上手実っス」
「妹の上手子っス。生徒会の方には私達が試合に出れるように尽力してもらった恩があるので今回参加させて貰いました。よろしくっス」
「それじゃあひかり、楽しみにしてるわ」
スタスタと立ち去る伶の後ろ姿を呆然と眺めていたひかりとユウであったが、暫くしてゆっくりと口を開いた。
「「勝てるの?あれに?」」
「ふむ、予想通りの反応だな」
既に自分達含めた周囲から敗北感が漂っている。
「だが安心しろ、ラグシスが出場する可能性は考えていた。その対策もな」
そういうフミはニヤリと笑っていた。
「ラグシス?」
「何その略し方」
「……うるさいな」
『それでは次の学年の方、位置についてください』
ひかり達は校庭の騎馬戦を行う広く丸いエリアの端に入る。
「うー、なんでわたしが上なのさ」
「だってフミがそうしろって」
「これも作戦だ、そういう事だ」
前で支えるのがユウ、後ろで支えるのはフミが、そして大将がひかり。そわそわと辺りを見回すと自分達以外の参加者も続々と配置につき始めていた。
『位置について、ヨーイ、ドン!』
パァン、とスターターピストルの乾いた音と共に一斉に騎馬たちは動き始める。向かう先は
「フミちゃん!なんか全員伶さんのとこ行ってるよ!?」
全ての騎馬が伶の方向へ殺到する。
「当然だ、競技開始前に私が提案したんだ。まずは全員で一条を狙おうとな」
「なるほど、じゃあわたし達も!」
「いいや、止まるぞ、危ないからな」
「えっ」
「──提案ついでに少し話を盛ってな?『一条は自分より強い人がが好みらしい。やはり女性は守って貰いたいものなんだな。騎馬戦で勝つのはわかりやすい指標になるかもな』って言ってみたんだ」
「その結果がアレね……」
「どけ!俺が強さを示す!」「ふざけるな!この学園最強と名高いことに今なった俺が先に行く!」「一条様が望むならワタクシだって強さを見せつけますわよ!」
男女入り混じり鬼気迫る騎馬達が出来上がっていた。
「これがプランA、ある程度時間稼ぎをして、弱ったところを──」
「「ウワー!」」
言い切る前に伶に群がっていた騎馬達が弾け飛んだ。
「圧倒的パワーと体幹の前には無力っス」
伶の騎馬は無数の相手を瞬く間に弾き飛ばしたようだ。
「……フミさん?」
「これは流石に想定外だ……」
動揺する3人。
「あら?」
「!!目があったよこっち来るよこれ!」
エリアには既に自分達しかいない。
「しょうがない!もしもの時のプランBに移行する!向こうに行くぞ!」
「了解!」
ゆっくりと迫り来る伶達から逃げるように移動を始めた。
「このままだと伶様の圧倒的勝利ですわよ?」
「うむむ、まだや!根性見せてやれひかり!」
誰もいない生徒会室ではキンとコンが応援していた。