魔法少女と秘匿性
「はぁっはぁっ……」
彼女は恐怖から逃れるように走る。買い物帰り、いつもの道、知っている街並み。その筈なのに何かが違う、得もいわれぬ不安感に蝕まれている。
「きゃあ!」
思わず足が絡れその場に倒れる。すぐに立ちあがろうとする彼女の動きを固まらせたモノが恐怖の正体だった。
ズルズルと体を引き摺りながらくる黒いナニか。長い紐のような身体の先にある口と思われる場所から涎のようなものが滴っている。それは恐れで動けない彼女へゆっくりと近づく。そしてゆっくり口を開いた──。
「ふん!」
「ギャ!」
上空から落ちてきたしょうじょが目の前のナニかを思い切り殴り飛ばした。ナニかは壁に打ち付けられた後に消滅した。少女の右手にはガントレットが。ひかりだ。
「大丈夫ですか!?こちらに!」
この日、狭間の世界には異常があった。
「は、はい。ありがとうございます」
ひかりは女性の手を掴む。
『おし!ゲート開くで!』
「こちらに入ってください!気をつけて!」
「はいー」
女性は礼を言いながらゲートに入る。
『これで3人目、残るは後10人。伶は事態を把握しとるやろか?』
「伶さんなら大丈夫だよ!わたしはわたしで出来ることをこなさなきゃ……!」
ひかりは焦っていた。その理由は、少し前に遡る。
「ひかり!今日はウチらとかえろー!」
「あ、ユウちゃん。苦しいよぉ」
「まぁまぁ、最近はひかりが一条と帰ることが多くて妬いてたんだ。許してやってくれ。かくいう私も妬いていたんだが」
「うぐー、フミちゃんまで……」
ユウ、フミと呼ばれた少女達にひかりは挟まれ苦しそうな声をあげていた。
放課後、生徒会の仕事が尋常じゃなく、今日は訓練を無しにしたい、と伶から連絡が来ていたひかりは帰ろうとした所を友人2人に捕まっていた。
とにかく明るく、髪を金髪に染めている事から周囲から誤解されがちだが優しい少女、ユウ。
綺麗な黒色の長い髪は知的な雰囲気を醸し出し、常に冷静さを欠かさない事からクラスでの信頼が厚い少女、フミ。正反対に見える2人は長い間ひかりと一緒にいる親友であった。
「最近ひかり一条さんのトコばっか行ってて寂しいなって話してたんだよ!」
「うむ、私としても一条とひかりの接点がよく分からなくて疑問に思っていた。いつの間にあんなに仲良くなったんだ?」
「あはは……秘密?」
いくら親友と言えども魔法少女繋がりです!などと正直に言った所で信じてもらえないのは明らかだ。
「うーんやっぱり駅前のクレープは最高だねぇ!」
「新商品も見事な出来映え、店主がまた腕を上げたな」
「私も久しぶりに食べたけどやっぱりコレって感じがして美味しい!」
3人は寄り道をしながら帰る。
「──でさぁ、フミが珍しく変な事言い出してね!」
「待ってほしい、私だって別に好きで発言したわけでは──」
2人の話をひかりは楽しく聞いていた。思えば3人で帰るのは久しぶりだ。
魔法少女として街を守るのに手一杯だった。漸く他の事にも気をつかえるほどの余裕ができたのかもしれない。
そんな事を考えながらふと足元を見れば靴紐が緩んでいる事に気づいた。
「あ、ごめんちょっと靴紐直すね」
はーい、と軽い返事を受けながら慌ててひかりは靴紐を直す。顔を上げれば2人はちょうど道の角を曲がった所だ。
「……よし!」
ひかりは小走りで2人の所に向かう。角を曲がり2人に追い──。
「待ってよ2人と──え?」
曲がった先に2人はいなかった。
「!この感じは……」
ひかりその感覚に覚えがあった。あの時は感じ取れなかったが魔法少女となった今違和感にしっかり気づいていた。
『どうなっとるんやこれは……!?』
腕時計からキンの声がする。キンも気づいたらしい。
『ひかり、ここは──』
「うん、そうだよね、ここは──」
ひかり達は口を揃える。
『「狭間の世界……」』
ひかり達は気がつけば狭間の世界に入っていた。




