魔法少女の出会い
「グルゥァア!」
黒い人型は呻き声と共に拳を地面に振り下ろす。強烈な振動が地を揺らし、拳を中心に窪みが出来上がる。人型はさらに周囲の壁や電柱などを叩き壊していた。
「……何あれ」
「あれがこの街に起きている脅威や。すまんがひかり、もう一刻の猶予もない!無理矢理やけども変身してもらうで!」
「え?わぁ!」
ぬいぐるみは輝きひかりの腕にくっついた。輝きがおさまるとそこにはオレンジ色の腕時計が付いていた。
『ひかり!ワイの画面に触れながら"リリース"と言ってくれ!』
「えっと、リリース……?」
言われるがままに呟いた。すると。
「グゥ?」
人型は暴れることをやめた。何か眩しいものが近くにいる。本能でそれは危険だと気付いた。
「グウゥアア!」
光に向かって威嚇を行う。やがてその光がなくなる時、そこに立っていたのは──。
『Limit Release承認!第1Limit解除!適性クラス確認! Ranger Release!』
「え、ええー!何この格好!?」
レザーアーマーを身に纏ったひかりの姿があった。
『ひかり、ワイもパートナー探しで消耗していてな、今日でアイツをやるのは無理や!今日は時間を稼ぐんや!』
腕時計から聞こえる声は先ほどのぬいぐるみの声だ。
「もう全然意味がわからないよ!一体どうすれば……」
「グゥァァァア!」
「えっうわっ!……うわわわわ!」
混乱しているひかりなどお構いなしに人型は突撃してくる。驚いて下がったひかりは更に驚く事となった。
「今わたし、すごいジャンプしなかった?」
ひかりは2m程の高さまで跳び上がりながら後退していた。
『そうや、それが魔法戦士としての力や。身体能力は数倍以上に上がってる。とはいえ1リミしか解除出来ないとは思わんかったで。身体能力だけじゃアイツには勝てへん。まあこれでも収穫はあった。ここから出るで!』
ボフン。とひかりを中心に煙が広がる。人型は煙を注意深く見つめていた。やがて煙が晴れた時にひかりの姿はなかった。
「……はっ!」
気がつけばそこはぬいぐるみを拾った道だった。しかしおかしい。先ほどまで見た事ない化け物が暴れていた筈だが。
「何も壊れてない……」
化け物が暴れていた形跡など1つもなく、壁も地面もなんの変哲もない綺麗な道だった。
「……歩きながら寝ちゃったのかな?変な夢だったなぁ」
『夢とちゃうで、ひかり』
「うわぁ!」
頭の中に直接響く声。腕にはオレンジ色の腕時計が。
「……さっきまでの事、本当だったんだ」
呆然とした様にひかりは呟いた。
「ねえキン、魔法戦士って可愛くないから魔法少女に改名していい?」
「かまへんよ。しかし、思ったよりも乗り気やねひかり」
家について自分の部屋に戻ってからひかりは腕時計に質問攻めをしていた。
名前はキンという事。別の魔法が発達した世界からきたという事。腕時計かクマのぬいぐるみに変化できるらしい事。(今はぬいぐるみの姿だ)
化け物の事。どうやら妙にこの町に化け物が現れやすい事、また、自分達と同じ魔法の力を使った痕跡があり、それを調べるため任務を受けてここにきた事など、沢山の話を聞いた。
「こんな話簡単に信じるなんて普通あり得へんけどなぁ」
「だってもうこの目で見ちゃったもん。それにわたしだって悪い事してる相手は見逃せないもん」
「なるほどなぁ、ひかりはええ子やなぁ」
「そう?照れるなー、えへへ」
ただし、とキンは付け加える。
「だけどな、心だけじゃこの先やってはいけへん。まだ今日のアイツも倒せてないしな」
「うぅ……」
「落ち込まんでええでひかり。作戦は考えてある」
「本当?どんな作戦なの?」
「ひかりは知らなくて当然やけどな、この任務、もう1人受けたやつがいるねん──」