魔法少女と得られる力
「ごめんねー最初からこのつもりだったんだ」
透けている自身の手を興味深そうに眺めながらマリスは言う。
「もう核の魔力も無くなりかけでさ、どうしようもなかったんだよね。だからさ、最後まで楽しもうと思ったわけ」
「……その結果私はリミット4になった訳だけど?」
「うーん、そうだなぁ。実を言うとそこまで予定通りなんだ」
ここまであっさり負けるとは思ってなかったけど、少し悔しそうにマリスは続ける。
「……負け惜しみね」
「何とでもいいなよ。アタイから言えるのはそれだけ、とにかくアタイ達の想像通りに事は運んでくれた。──もちろん、アンタの方もね」
「え?」
そう言ってマリスはわたしの方を見た。何のことか分からなかったが、それを聞く事はできなかった。
マリスの体は更に透明になっていく。
「おっと、そろそろお別れの時間だ。どうする?景気付けにアタイの事倒しとくか?今ならまだギリ痛みもあるよ」
「……いえ、もういいわ」
伶さんは剣をしまう。
「そう?残念だな、斬られたらもっと罵ってやろうと思ってたのに」
「もう消える相手にそこまでひどい事できないわ」
「そう?じゃあそっちの方は?」
「……伶さんと同じく」
「おーおー優しいことで。……アンタ達みたいなのがいっぱいいればアタイもこうはならなかったんだけどね」
「何か?」
「──何でもない!それじゃあね!またアタイと出会わないことを祈っておけ!」
マリスは最後に無邪気な笑みを浮かべ、そして、消えていった。
「シャドウの気配、およびマリスの気配の消滅を確認したで」
「これは、私たちの勝ち、でいいんでしょうか……?」
キンの疑問。それに対して伶さんもわたしも明確な答えを返せなかった。結局の所わたし達はマリスに好きに振り回されていただけに過ぎないのかもしれない。
先ほどまでの喧騒がウソのように、静まり返った狭間の世界。
わたし達は帰路に着く。平和を脅かす相手を1人倒した。──それにしては浮かばない心を抱いたままで。
──数日後、わたしはまた伶さんの家に来ていた。
「あ、お邪魔してます」
「おお、いらっしゃい。ゆっくりしていくといい。また母さんにお茶請けでも持っていって貰うよ」
伶さんの両親は2人共無事だった。操られている間の記憶はないみたいで、わたし達のことも知られていない。狭間の世界に再度巻き込まれる事もないだろう。
「──ただまぁ、体に知らない内に傷ができてる事には不思議がってたわ」
とは伶さんの談である。流石に傷まではどうしようもできなかったけど、それぐらいで済んだ事を良しとしよう。
「伶は今道場の準備中だよ、案内しようか」
「ありがとうございます」
「……」
「…………」
伶さんの家に来るのももう何度目か忘れてしまった。とはいえ伶さんのお父さんと会うのは久しぶりだ。あの戦闘時を除けば、だが。
「夢星ひかりさん」
「え、はい?」
急に足を止め、名前を呼ばれる。何かあっただろうか。少しの沈黙の後、伶さんのお父さんは中庭を指差して一言。
「──鯉の餌やりでもしていかないかい?」
パシャパシャ。餌を撒くと水面に無数の鯉の顔が表れる。いやこれパシャパシャではなくバシャバシャだ。余りの勢いに面食らっているとキンが小さな声で話しかけてきた。
『おおぅ、本当にこんな集まってくるんやな……』
「わたしもびっくりだよ。そうだ、キンも試しに入ってみる?」
『なんて恐ろしい事言うんや!もみくちゃにされるで!』
隣に聞こえない程度の軽口を挟みながら鯉に餌をあげる。
──正直なところ、突然の誘いに困惑していた。
が、了承するべきと促したのはキンだった。
『もしかしたら狭間の記憶が残っとるのかもしれん。少し様子を見るべきかもしれんで』
確かに。わたしと一対一で話す内容はそれくらいしかないだろう。
『杞憂なら良し、もし違うなら、まぁワイも鯉の餌やり見てみたかったしそれで良しってことでな?』
ほんとはキンが鯉見たいだけなんじゃないのか?そう感じながらわたしは誘いを了承した。
「ひかりさん」
「!……はい!」
──きた。呼ばれて顔を見れば、真面目そうな顔をしながら鯉を見ている。
緊張が走る。話題がもし狭間の世界のことならば皆で対策を考える必要がある。
そう思っていたわたしにかけられたのは思いもしない言葉だった。
「ありがとう。伶の友人になってくれて」
「…………え?」
「伶が友人を家に呼ぶなんて何年ぶりだったか。……過去に私のせいで伶は家に友人を呼ぶのを躊躇うようになってしまってね」
「あー……」
そういえばそんな話を聞いた。
「ただ、その上で私と妻に友を家に呼んでいいか
決心して聞いてくれた。それほど大事な友が出来たこと、本当にありがたい」
「えーと、そんな大げさな」
「いや、些細なことかもしれないが、それでも私も妻も本当に嬉しかったんだ。娘があんなに嬉しそうに話しているのを見るのは」
「そ、そうですか、ありがとうございます?」
「──ちなみに最初は彼氏でも連れてくるのかと思ったよ。本気で潰そうかと思ったね」
「へ、へぇー……?」
はっはっはと笑いながら言っているが目が笑ってない。少し、いやかなり怖い。
「まあとにかく君には感謝している!困った事があったらいつでも来てほしい!一条家の総力を尽くして対応しよう!」
「あ、ありがとうございます」
肩をポンポンと叩かれながら愛想笑いを浮かべておく。とりあえず狭間の世界関連の事はないみたいなので安心した。ただまぁ彼氏さんができた時の伶さんは大変そうだなと思った。伶さん、強く生きてほしい。もう十分強いけど。
そう思っていると、通路から少し不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「お父様……今度は案内役の振りしているの?」
伶さんだ。ジトっとした目でこちらを見ている。
「いやぁ、ひかりさんと鯉の餌やりでもと思ってな」
「ひかりが困ってるじゃない」
「いやいやそんなことないよ!伶さんも一緒に餌あげようよ!」
「うんうんそうだぞそれがいい」
伶さんは呆れたようにため息をついた。
「お父様まで一緒になってもう。困ったものだわ」
そう言って池の方まで歩いてくる。そこに親子のわだかまりは無くなっていた。
(──それにしても)
わたしは少し考え事をする。
伶さんのリミットがまた上がった。それを予定通りと言うなら今回の闘いは全てマリスの掌の上で起きたことに過ぎなかったのだろうか?漠然とした不安がのこる。
それに、相手を強くする理由もわからない。そんなことしてなんの得がマリス達にあるのだろうか。
そして更にわたしにとってもう一つ引っかかるところが、
(──わたしの事って一体?)
マリスがわたしにも言った"想定通り"とは何なのだろうか?少なくとも今回わたしは強くなった訳でもなく、何があったというわけでも…………。
「……とりあえず後回しかな」
近づいてきた伶さんを迎え入れ共に鯉に餌をあげる。
与えられた餌に群がる彼らを見ながらもう一度、私の小さな悩みと共に餌を放り投げた。




