魔法少女と得られる力
狙ったのは悪意の芽の接合部分。結果を見ずに目を逸らしたのは私のミス。
だが、そこにもう一つの疑問が浮かぶ。
聞こえてきたのは誰かの悲鳴ではなく、ガキンという金属音だ。
私はゆっくり前を見る。
「──!」
そこには私の剣を受け止める1人の魔法少女の姿があった。
「ひかり何を──!」
「っ!」
ひかりの顔が強張る。それと同時に背後からの気配に気づく。追いつかれた。さらに正面、つまりはひかりの背後からお母様が手を伸ばしているのが見える。
危ない。私がそう言うより早くひかりが私の腰に手を回した。そしてそのまま私を抱えて高く跳躍した。
「ひかり!?」
「……っ!」
返事はない。この跳躍の高さ、おそらく力の配分を足に回したのだろう。強烈な勢いを感じながらそう思った。そして、遠ざかる相手が無事な事について考えていた。
遠くに行く2人にマリスは声をあげた。
「おーいどこいくんだ!逃げるのか?」
「作戦会議!すぐ戻ってくるから覚悟してろ!」
ひかりのほぼ怒号に近い叫びを聞きマリスは少し考える素振りを見せる。
「ふーん?まあ仲直り前の葛藤、それからの別れは感動してドラマティックだからね。──追わなくていいかな。いいでしょう、10分待ってあげるよ」
マリスは1人で何か納得したようにウンウンと頷いていた。
「ふぅ、これで落ち着いて話ができるね」
ある程度離れたビルの屋上。ひかりはそこで私を降ろした。少し落ち着いたような雰囲気ではあるが私はそれどころではなかった。
「なんで」
「え?」
私はひかりの胸ぐらを掴んでいた。あまりの怒りに目の前が滲んでいるのが分かる。
「何で邪魔したの……!?貴女が止めなければ今頃──!」
なぜか言葉がつかえる。ひかりは機嫌が悪そうな顔をしている。何故そんな顔をしているの?
胸ぐらを掴まれたままひかりは口を開く。
「今頃、何だって?」
「……!今頃、マリスも倒せてたわ!」
「そう!……今ので確信したよ。この、分からずやが ──!」
ひかりは私の手を払うと勢いよく平手を打とうとしてきた。
咄嗟に私は手首を掴み止める。
「……ここは大人しくビンタされるべきシーンじゃないかな?」
「…………申し訳ないけど理由無く平手打ちされたくはないわ」
止められて尚チカラが入り続けている右手を抑えながら聞く。
「理由があればいいんだ?」
「ええそうね。教えてちょうだい、私の作戦は、……完璧ではなかったかもしれないけど、悪くはなかったはずよ」
分からない。何故ひかりが止めたのか。何故今ひかりが怒っていたのか。
「そうだね、片方を倒せばよくて、倒す手段は伶さんしか持ってなくて、隙を作れば確実に倒せると判断していたからそう考えたんだろうね。でもね。1つ忘れてるよ」
まだひかりの右手には力が入り続けている。
「何かしら?」
「その作戦。そこに伶さんの気持ちがないんだ」
しっかりと此方を見ながら言われる。思わず顔をそらす。何故かその目を直視できなかった。
「何言ってるの、そんなことは」
「それならどうして──」
「伶さんは泣いているの?」
「え」
そう言われて気づいた。頬に手を当てるとそこには確かに涙がある。
「ど、どうして?」
困惑する。涙が流れる理由が分からなかった。
「その涙はわたしへの怒り?それとも倒し損なったことへの悲しみ?」
「ちが、う」
即座に出た否定の言葉。それで気づいた。気付かされた。
「この涙は──」
この涙は怒りでも悲しみでもなく。
「お父様が無事だったから」
──安堵の涙だ。なるべく意識しないように今まで避けていた名前を出す。敵や相手だと思う事で隠していた気持ちはここに暴かれてしまった。簡単な話だ。私はただ、大事な家族を傷つけたくないだけだったのだ。
「よかった……剣を振り下ろせなくて。ひかりが止めてくれて、よかった……」
気づいた感情は決壊した。涙が溢れて止まらない。
ひかりの手を受け止めていた左手から力が抜ける。ひかりの手にももう力は入っていない。彼女はただ、静かに、優しく私を見つめていた。
伶さんは暫く泣いていた。わたしはそれを声をかけることもなく泣き止むのを待っていた。自分の気持ちに気づいた伶さん。少しの間だけでも心を整理する時間は必要だと思う。
「…………ごめんなさい。迷惑かけたわね」
次に顔を上げた時、すでに伶さんの目に涙は無かった。
「ううん、全然いいよ」
「それで、悪いのだけど、ついでにもう1つ迷惑をかけてもいいかしら?」
「どんな?」
内容は分かっていた。けど、少しだけイジワルに聞く事にした。多分それに伶さんも気づいたのだろう。少し照れくさそうに話す。
「私、お母様も、お父様も、大切だから──2人とも助けたいの。一緒に手伝って貰える?」
「……!わかった、任せて!」
「ありがとう、ひかり」
笑顔で応えたわたしに伶さんもまた微かな笑みを浮かべている。
伶さんの決意も新たになり、漸くいつもの伶さんが戻ってきた。
心なしか伶さんが光って見える────うん?
「って!?伶さん!?ほんとに光ってる!」
「え?」
なんか伶さんの全身から光が溢れていた。
「え?何かしらこれ?うわっ」
伶さんが珍しく素っ頓狂な声をあげたと思ったら光はさらに眩しくなり。
「オワァー!?」
もはや目も開けられないほど眩しくなった。
『──limit4に、到達』




