クローンズ
わたしたちのせかいはまっくろ
わたしたちはじっけんでうまれたの
わたしたちはふたりでひとつ
わたしたちはせいこうなの
地下の実験室からは
夥しい死体と血と薬物が混ざった香りがあふれている。
白衣を着た女や男が、少女らを見ていた。
そして、口元を上げていた。
たのしそうだったよね
うん。よろこんでるっていうんだよ
よろこんでいた
長年僕もこの研究に携わってきた。
何人もの実験台を試し、殺してきた。
そんななか、成功したのがこの二人だ。
名前はない。決める必要は無い。
だって、実験だったから。
つめたいね
さむいね
なんてなまえ?
なんてなまえ?
しらないんだ
彼女らの遺伝子は最高なものを使っている。
頭脳、形、色、すべてにおいて最高なもの。
色は白く可憐に。
目は碧眼。
髪は金髪ときたものだ。
きれいだね
きれいだね
きらきらしてるよ?
つやつやしてるよ?
きれいきれい
頭のよさも、IQ120を超えているだろう。
そんじゃ、そこらの人間とは大違いだ。
もともと植えつけられたものだから、
忘れることなどないのだ。
まるでコンピューター。
生きた機械。
これはなに?
これはなに?
これはね、虹っていうんだって
これはね、光の屈折とかでできるんだ
ものしりだね
これを世に知らしめるには
ちょっと厳しいものがある。
なぜなら今までの犠牲が、指だけでは数えられない数だから。
世間的にどうだろうか。
けれど、これは美しく素晴らしいことだと思う。
牛や羊は成功したけれど、人間は初めてだから。
あしたはね
あしたはね
おそとにいくんだって
がっかいにはっぴょうするんだって
こわいかな
こわいかも
たのしいかな
たのしいかも
でもね
おわりかもね
小さな箱に詰めた。
重さはそれほどない。
もともと3歳くらいの体系だから。
地下の実験室から外に出るのは、何ヶ月ぶりだろう。
外の空気はすがすがしい。
もちろん、この子らは外を知らない。
しかし、外には青い空があり白い雲があり
太陽の周りを公転と自転を繰り返しながら回っている
惑星に住んでいることを知っている。
あの子らの外はそんな感じ。
せまいね
ゆれるね
がたごとがとこと
がっくんがっくん
とまった
とまった
ここでおしまい
長いテーブルと
研究員、学者、医者、マスコミにまみれた会場は
酸素が薄かった。
「では、ここでお見せします。人間のクローンです!!」
袖口から出てきた少女ら二人に
関係者は釘付けだった。
まったく同じな二人。
行動も考えることも、瞬きの瞬間も。
「ではここで詳しく説明します。」
自分の上司がこれまでの研究結果を
上辺だけ話す。
追求されたら困るようなことは、決して言わない。
にこやかに話す上司の隣のクローンが
同じタイミングで、倒れた。
会場はざわめき。
自分らは対処に負われた。
少女らの体は痙攣し、
瞳孔が開き、冷や汗をかいて
唇は真っ青だった。
おなじように動く2人は気持ちが悪かった。
数分後
少女らの症状は治まった。
上司は説明をまた始めた。
あせったように…
でも、僕は見てしまった。
あの子たちが死ぬ3秒前。
3秒後には小さな口から大量の血をこぼし死んだ。
あの会場で。
血を流す前に言っていた。
最初で最期のことば。
声は無いが見えた。
にんげんはね
かみさまになんて
なれないんだよ?
end 20080506