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ショタ勇者さま育成計画  作者: めそ
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ex1 真実の泉でフレアが見たもの






 二人は生まれる前からの婚約者だった。


 それぞれの両親が男児と女児が生まれたら結婚させようと酒を酌み交わしながら笑い合っていたのが全ての発端。

 そして現実に男女の子供が生まれ、嬉々として婚約は成立した。


 E国の大神官の家系と上級貴族の家系。

 ラダメスとアイーダの二人の子供は同い年という事もあって仲良く共に成長していった。




 大神殿へと続く道、そこから少し外れた見晴らしの良い原っぱ。

 そこに一組の少年少女がいた。


「ラダメス、サンドイッチ作ってきたの。一緒に食べましょう」

「いつもありがとう、アイーダ」


 胸の前まで持ち上げて見せたバスケットをラダメスが受け取る。それから手を繋いで食べるのにちょうどいい場所を探した。

 白のブラウスに赤のスカート姿のアイーダが嬉しそうに頬を染めてその横を歩く。

 その純粋な笑顔にラダメスもまた幸せな気持ちが胸いっぱいに広がる。


「ねえねえ、どう、美味しい?」

「美味しいよ。ほら、アイーダも食べなよ」

「良かったぁ。じゃあ私もいただきます」


 幼い頃から互いに結婚する事を前提として長年付き合っているが、二人の仲の良さは折り紙つきだった。

 このまま大きくなって、ずっとずっと一緒。

 そんな将来に何ら疑問ももたず、また不満もなかった。


 やがて14歳になる頃には互いに忙しくなってきた。

 ラダメスは大神官となるための教育を受け、ひたすら必要な知識を身につけて様々な教養を学ぶ。大勢の人と会い、交流を持つために色々な場所に積極的に出向いた。

 アイーダはそんなラダメスの妻となるべく、礼儀作法を始めとした淑女に必要な振る舞いの作法。家を盛り立て、取り仕切るために必要な心得。そして何よりもラダメスの支えに、心安らかな場所を整えられるようになろうとしていた。


 そしてアイーダは美しく成長していく。それこそE国でも飛びぬけた美貌と謳われるほどに。

 数多の男子の注目を浴び、様々な贈り物をされ、それでもアイーダはラダメス以外には振り向く事はなかった。


 そして4歳年上の第一王子アムネリウス。人を人とも思わぬ冷血漢にして、美に傾倒した価値観を持つ青年。

 彼もまたアイーダの美貌に目をつけた一人だった。

 彼はアイーダこそ自分の求める理想の生きた芸術であると信じ、熱い視線を送っていた。

 だが既に婚約を交わしている二人においそれと手は出せず、周囲と同じように眺めているだけにとどまった。


 そして二人が16歳の時。

 ラダメスは遠い聖都へと留学していた。神官全てを束ねる聖地で、神学の権威ともいえる大学もある。

 将来E国の大神殿を背負って立つとあらば聖都で学ぶ事は必須とも言えた。


 事件はその隙に起きた。

 王子アムネリウスの主催するパーティに出席すべくアイーダとその家族が城に到着し、会場へと入った途端に彼女らは物々しい雰囲気と共にやってきた十数名の兵に囲まれた。

 率いていたのは王子の息のかかった軍の上層部の一人であり、兵らも通常の警備兵ではなく彼直属の兵だった。


「このような扱いをされる覚えはないぞ! 説明してもらおうか!」


 アイーダの父はそれでも堂々とした態度を崩さず、目の前の兵らを取りまとめている男を睨んだ。

 だが男はそれに取り合わず、無言のまま家族とその従者を別室へと連行して口を開いた。


「王子への贈り物の中身を検めさせてもらう」

「な、なにを……?」


 パーティに持参した贈り物はアイーダの父のお抱え商人がぜひにと言って持ってきた物だった。

 信用している商人がいつになく熱心に勧めてきた事もあって、必ず気に入られるであろうと自信をもって持ってきたワイン。

 それを奪われ、兵が持って出て行く。

 そして再び戻ってきた兵の手には黒くなった銀のスプーンがあった。

 砒素毒に反応した証だった。


「王子の毒殺未遂犯としてそなたらを拘束する」

「馬鹿な!」


 無論、彼らは毒殺する意思などなかった。

 父も購入する前にワインの中身を確かめ、ボトルの封は完全だった。

 毒など入っているはずがなかった。


「待て、私の前でもう一度試してくれ!」

「必要ない」


 父の要求はにべも無く断たれる。

 歯噛みする父の後ろで美しく着飾ったアイーダもまた顔を蒼白にし、震えていた。

 家族もろとも人目につかぬよう密かに連行され、バラバラに部屋に閉じ込められる。

 そうしてブルーアイズに涙を浮かべて座り込んでいたアイーダの元に再び男が現れた。

 先ほどの兵らを取り仕切っていた男だった。


「このまま裁判となれば(みな)死刑となるだろう」

「そんな!」

「だが、殿下はこの騒動に心を痛めておられる。一つ条件を飲めば毒殺未遂を無かった事にしてもいいと仰られておる。幸いまだ大事になっておらず、表には漏れていないゆえに」

「ほ、本当ですか! 教えてください、殿下は何と!」


 縋るように見上げるアイーダに、内心ほくそ笑んだ男はたっぷりと時間をかけて言った。


「ラダメス殿との婚約を破棄し、殿下の妻となる事。それが条件である」

「え……」

「何、心配はいらない。一連の手続きや婚約破棄に伴う諸々の負担も殿下が引き受けて下さるとの事だ。何も心配する事はない。ただ貴女がNai(はい)と頷くだけでいい。そうすれば殿下の力で何もかもが良いように取り計らって下さるであろう。それに貴女にとっても殿下の望みは悪い話ではないだろう。ただ時間は余り無い。今こうしている間も処理は進んでいるのでな。返事は手遅れになる前にしてくれ」


 次々と押し寄せる状況変化。

 毒殺。拘束。死刑。婚約破棄。

 わずかな間にあまりにも重い言葉が並び、更には即決を迫る。それも孤立した状態で。


 瞳が激しく揺れ、プラチナブロンドの美しい髪が俯いた顔を隠す。

 そしてか細い声でアイーダは言った。


「分かり……ました。お受けいたします。だから皆を、どうか助けてください」


 その言葉は震えていた。




 ☆☆☆☆☆☆




 アイーダの婚約破棄、そしてその後に王子との婚約発表。

 聖都に留学していた元婚約者のラダメスは無論それを聞いた。

 彼は激怒して馬を飛ばし、E国に帰国した。


「どういう事だ!」


 まず大神殿の上層部に怒鳴り込む。

 次にアイーダからは謝罪の手紙だけで、本人に会うことは叶わなかった。

 全ては王子の強権によって進められ、無茶すら捻じ伏せられていた。


「ふざけるな!」


 激情のまま心を同じくしてくれている数名の友人らと己の力で動かせる手勢を率いて王城に乗り込もうとするも、それは神殿上層部及び家族総出で止められた。王家と大神殿との協力関係にヒビを入れるのを嫌ったためだ。

 その時のラダメスは王子であろうと斬り殺す勢いだった。


 翌年、王子アムネリウスはE国国王に即位すると同時に王妃としてアイーダを迎えた。

 ラダメスもまた弱冠17歳でありながら大神殿の長、大神官へと聖都から任命された。


 そしてラダメスは決して治まらない怒りを抱えたまま、表面上は落ち着いた様子で日々慌しく大神官の責務を果たしていた。


 7年の歳月が流れ、E国に一つの非常事態が起きていた。

 天候不順による作物の不作、及びそれに伴う市場の混乱。

 それに早期に対処しようとした国王アムネリウスは、しかし貯蔵されているはずの食料蔵の量が規定より大幅に少ない事と動かせるはずの金がないという報告を受ける。

 調査の末、役人の癒着と担当大臣の長年の横領が発覚。

 ここでアムネリウスは頭を痛める事になった。


 その最中、国王は大神官ラダメスから非公式に声がかけられた。

 曰く、援助を行う用意がある、と。

 無論国王とてラダメスとの確執は承知に上だ。それが善意によるものでない事は分かりきっていた。

 事実、ラダメスは続けて次の条件を突きつけてきた。


「王妃アイーダの身柄を寄越せ」


 弱る時をずっと狙っていたのだろう。

 国王はそれを二ヶ月という条件付ですんなりと受け入れた。

 彼はアイーダの芸術的な美貌を愛でてはいたが、その人格や感情や心といった人間性に価値を見出してはいなかった。

 故に一年ほど他の男の手に渡っても特に痛痒は感じなかった。


 こうして双方の密約は成立し、王妃はしばし王都から離れた地へと下がり、一旦王宮から姿を消す。

 それと同時にラダメスは大神殿上層部に話を通さずに大神官の地位と権力を使い、独断で大神殿の金に手をつけ、国に支援をした。

 そして、ラダメスとアイーダはようやく手を重ねられた。


 ラダメスは変装して何度もアイーダのいる屋敷へと足を運んだ。

 短い間だけだったが、二人は安らかな時間を過ごしていた。


 約束の期日が過ぎた頃、アイーダの懐妊の報が国王の元に運ばれた。

 当然相手は大神官ラダメス。

 報せを受けた国王アムネリウスは懐妊を隠し、そのまま王妃アイーダは病気にかかったと発表。その療養の名目で出産までの約一年を離れの地で過ごすよう命じた。

 無論、人の出入りは全て絶った。

 離れの使用人や出入りする人物についても厳重に取り締まった。


 監獄に近い環境で、アイーダはひっそりと一人の女児を産んだ。

 その赤子はアイーダと同じプラチナブロンドと美しいブルーアイズをしていた。

 嬉しそうに赤子を腕に抱くアイーダだったが、外は更にややこしい状態に陥っていた。


 まず、人の口に戸は立てられないという言葉がある。

 王妃の侍女や大神官の付き人などから噂が漏れ、ほんのわずかずつラダメスの行動が洗い出され、今回の醜聞が発覚。

 次に、ラダメスは私利私欲で大神殿の力を動かした事でその地位を追われ、大罪人の烙印を押された。

 更に、紛糾した赤子の扱いについては、主に大神殿側のすったもんだの末に母アイーダの手を離れ、その血や素性を隠された上で大神殿に引き取られる事になった。

 以後、アイーダが赤子に近づく事は禁じられた。




 こうして三者による嵐は一旦終息する。


 なりふり構わぬ男はたった一つを求め続け、けれど手は届く事はなく。

 これまで築いてきたもの全てを壊し、檻へと繋がれる。

 だがそれでも代わりにたった一つ掴めたものがあった。


 大神殿の奥には一人の大罪人が監視の下で住んでいる。

 もはや陽の目を見る事は叶わぬ男は、だが幸せそうに頬を緩める。

 泣き止まない赤子を苦労しながらもあやすその姿は、もう一切の曇りも暗さもない。


「セア、それが君の名前だよ」


 母親譲りの美しい覚めるようなブルーアイズをした愛娘が伸ばす小さな手を取り、元大神官ラダメスは満たされた思いを胸に子守唄を歌っていた。




 ☆☆☆☆☆☆




 後年、真実の泉でこの経緯を知ったアムネリウスの娘、第三王女フレアは大魔王討伐後にE国に帰還すると旅の間で作ったコネを総動員してE国に一大派閥を作りあげ、国王アムネリウスを玉座から追い落とし、軟禁した。

 ぶっちゃけキレていた。

 国王として尊敬していた父であっても、さすがにこの所業は許せなかった。

 そして密かにセアとその両親にできる限りの便宜を図ったという。






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