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ショタ勇者さま育成計画  作者: めそ
43/51

16-2






 押し寄せるモンスターの前に崩壊しつつある前線にて。


「集落の避難状況は!?」

「ほぼ完了です! 早く長も撤退を!」

「分かった……! くそ、儀式を目前になんという事だ」


 屈強な肉体を鎧で包んだ30歳過ぎの男性ヘリオスが背の矢筒から素早く矢を取り出し、射る。風を切りながら飛んだ雷鳴の矢は狙ったモンスターを射抜いたまま更にその後ろの1体をも貫く。

 だがそれももはや焼け石に水だ。森の奥から次々と押し寄せてくるモンスター。如何に戦闘を生業とする集落、その精鋭の彼らをしてももはや押し止めるのも限界だった。


「父上、早く! 包囲網が狭まって……!」


 道を切り開こうと曲刀ファルシオンを片手に若い娘が奮戦している。

 ヘリオスの娘ディアナはまだこの前成人したばかりの15歳。顔に刺青を入れ、編んだ長い髪を振り乱しながらも大人顔負けの戦いぶりを見せていた。

 今もまた一体の大鬼(オーガ)を切り伏せる。


「いかん、ディアナ! 後ろだ!」

「え……」


 ディアナの周りに影が落ちる。大きな影が。

 父ヘリオスの叫びに振り返ると、崖上に金属の大金棒を手にした鎧兜姿の単眼巨人がいた。


「サイクロプス……! そんな、この辺りにはいないはずなのに!」

「ほほう。こいつは潰しがいのありそうな連中だ。兄者に渡さず、ここでワシが食ろうとするかな」


 周りの木々の背を追い越すほどの巨体。退路を防ぐ形で後ろから現れたその巨人が飛び降りてくると重い地響きがした。そして大きく口を歪めて笑った。


「ぃっ……やあああああ!」

「ダメだ! 下がれディアナ!」


 勇敢にも斬りかかっていったディアナはサイクロプスの蹴り一つで吹き飛ばされ、動けなくなる。

 そこへ伸びる大きな手。人一人の体を鷲掴みにできるその手がディアナを掴み上げる。嗜虐心のままに口元がだらしなく緩む。サイクロプスはこの力を込める瞬間がたまらなく好きだった。


「さあ、こいつはどんな声で鳴くのか」

「……ひっ」

「やめろ!」


 ディアナが必死に弱弱しく身をよじる。

 サイクロプスはそれを意にも介さず握りつぶそうと力を込め、すると勢いよく噴き出した血が辺りの草に降り注いだ。




 ボトリと、サイクロプス自慢の腕が落下していく。


 切断された腕から血が勢いよく飛び散っていた。




「ガアアアアアアアア!?」


 サイクロプスが半ばから断ち切られた己の腕を抱え、天へと絶叫を上げる。

 続いて横手の森の奥から巨大な目に見えない何かが再びサイクロプスへと向かってきた。

 サイクロプスは転げるようにして迫る『それ』の圧力から逃れようとする。だがわずかに遅く、今度は脇腹に線が入りザックリと口を開く。


 それを目の当たりにしたヘリオスが瞠目した。


「真空刃、音超えの技だと!?」


 それはレベル40の技。

 修められる者がごく限られるそれは最高峰たる戦士の証。


 その真空刃に追走するように飛び出す人影があった。

 渦巻く風を身に纏い、モンスターの囲みをまったく障害にもせずに蹴散らしながら飛び出してくる影が。


 腕に掴まれたまま目を閉じて放り出されるディアナを、飛び込んできた人影が盾を持つ腕で上手く抱きとめる。

 そして叫んだ。


「エルッ!」

「まかせろ!」


 もう一つの人影が木々の間から颯爽と現れる。

 人影――エルスは憤怒の表情のまま隼のように空を滑空し、稲妻のようなとび蹴りをサイクロプスの鳩尾に見舞う。

 しかもそれだけでは終わらない。

 地に降り立ってすぐエルスはほぼ垂直に飛び上がり、掌底でアッパーを顎に放った。


 サイクロプスの顎が完全に砕ける。そこでサイクロプスの意識は途絶える。そしてそのまま木々をへし折りながら後ろに倒れていった。

 あっという間の出来事だった。ドラゴン種族にも劣らぬと言われる強力な巨人種族がこうも容易く撃破された事に長は信じられない思いで一杯だった。


「大丈夫か。今自由にするから」


 ディアナは恐る恐るうっすらと目を開きながら気付く。声はまだ若い男性のものだった。


「え……まさかあなたが、あの真空刃を?」


 ようやく自らを抱き上げている人物の顔を見上げる。そこにあったのは彼女とさして変わらぬ年頃の少年或いは青年の顔だった。


 これでもディアナは強い。レベルは15に近く、成人したばかりの年を考えれば若手の中でも頭一つ飛び出している。正真正銘のエリートだ。

 斬岩には未だ至らねど、彼女ならそれも遠い夢ではないと周りから期待されていた。


 その彼女とさほど年の変わらぬ青年が目の前にいた。世界屈指の勇者の証たる技を振るったばかりの者が。


 レベル45。E国勇者ノヴァ。

 つい先日、風天(ヴァーユ)の称号を大国の武帝より授けられたばかりの勇者。


 その武は世界でも類を見ない独特のもの。突如世界に現れ、誰も見知らず、ノヴァだけが扱う特異な剣術。一代、つまり未だ10年にも満たない剣のはずなのに、若々しさの中にどこか老練さを感じさせる剣。

 だがそれこそが勇者の才能であると民衆は感嘆していた。


 空を自在に舞い、斬り伏せる。

 武帝はその姿に見惚れ、その場で高らかに『風天』の銘を贈ったという。


 現在『天』を冠せられている勇者は世界に二人しかいない。

 元々『天』とは最高級の『偉大なる者』の意。人間の間では魔王を打破し得る勇者に与えられるもの。一時代にわずか数人にしか与えられない最高の誉れ。


 ディアナは目の前の青年が『風天』の勇者である事は知らない。それでも自分とそう変わらない年で音超えの技を修めているという衝撃は大きかった。


 武術を鍛え上げ戦闘を生業とする集落、その中でも将来有望とされていた自分。それが目の前の青年と比べて如何に井の中の蛙であったか。

 片やレベル20の斬岩にも至らぬ自分。片やレベル40の音超えの剣。

 ディアナは自然と萎縮してしまった。


「よし、開いた」

「あ、ありがとう……ございます」


 ディアナの体を掴み話さなかったサイクロプスの大きな手をノヴァがこじ開ける。

 そしてようやくディアナは自分の足で地面に降り立った。


 普段は長の娘という事で上座でかしづかれているため、こうして家族以外の異性と間近で顔を見合わせるのはもうここ数年なかった。

 そのため、ディアナは離れた途端に今までの距離に気恥ずかしさを覚え、俯いてしまう。


 そこへ軽い足取りでエルスが戻って来た。


「いや、最初の屠龍脚(とりゅうきゃく)で仕留められなかったのは、さすがは単眼巨人ってところだったな。会心の一発だったんだけど」


 その間もエルスは遠巻きに眺めながら二の足を踏んでいるモンスターらを睨み、牽制していた。

 やがて長ヘリオスと負傷した数名の戦士らも合流する。


「領主殿の依頼により加勢に参りました、E国勇者ノヴァです。その額の刺青、領主殿から伺っていた聖地の守護者の長殿とお見受けしましたが、いかがでしょうか」

「如何にも。しかし、そうか……E国の。なるほど、納得した」

「友軍としてそちらの指揮下に入ります。まずは撤退を?」

「うむ。突然の襲撃だったため住民の避難を優先させたい」

「避難する方には既に領主殿の兵と一緒にメンバーを二人向かわせています。ここの殿(しんがり)は俺達が務めます。土地勘のある者を一人付けてくれれば十分です」


 向かった二人とはオウジュとスィールだ。

 そして残りの2人、セアとフレアと言えば。


(ザイン)

(ハガラズ) (ソウイル)


 その声が聞こえてきた途端、森に異変が起こる。

 ノヴァ達を神の結界が覆い包んだ上で、突如森を激しい熱波が襲う。


 それは炎の洪水。灼熱の海。

 辺り一帯に満たされた炎は囲んでいたモンスターらを緑と共に灼き尽くして行く。

 肉の焦げた臭いと木々の焼かれる音。

 集落の者達は結界に守られながらそれを呆然と眺めるしかない。一種の小さな天変地異を目の当たりにして言葉もなかった。これほど大規模な魔法は未だ見た事がなかった。


 再び静寂が戻る頃には延焼もなく、黒ずんだ塊と立ち昇る煙だけがあちこちに残されていた。


「待たせたわね」

「皆さん、ご無事ですか」


 森歩きでややへばり気味のフレアと毅然としながらも楚々としたセアがやって来た。

 パーティの中で一番体力がないのがフレアだった。一見華奢に見えるセアはそこいらの騎士や戦士顔負けの体力を誇っている。大魔王エリエルの地獄の修行についていったのは伊達ではない。


「今のであらかた敵は掃討できたと思うのだけれど、まだ後ろに敵が残っているかもしれないわ。新手が来る前に早く――」


 そこでフレアの言葉が途切れる。

 同時に被せられるように大音声が木々の葉を揺らした。


「おお! おお! おい、どうした弟よ、やられてしまっているではないか! どいつだ、こんな事をしたヤツは!」


 地を揺るがす駆け足と共に、遠くから猪のように恐ろしいまでのスピードで突撃してくる新手のサイクロプスがいた。

 そのサイクロプスには右腕が半ばから断ち切られたような痕があり、そこから先には義手代わりの鉤爪がある。更にもう一つ、単眼のすぐ横を掠めるような古い傷跡が一直線につけられていた。

 胴を覆う金属鎧ハーフ・プレートアーマー脚甲(グリーブ)を身に付け、巨大なハンマーを左手一つで木の棒のように振り回して木々を打ち払っている。


 ヘリオスやディアナを始め、集落の戦士達はその迫力と威圧感でわずかな間、棒立ちになっていた。

 そしてそのわずかな間だけでサイクロプスはあっという間に距離を詰めて来ていた。

 サイクロプスの通った後にはまるで雑草を踏み分けたような道が一直線にできていた。


 その勢いを前に、ディアナは戦車(チャリオット)を前にしたネズミを幻視する。

 集落の戦士らは誰もが動けなかった。


「させるか!」


 飛び上がったノヴァが、空中で急加速してサイクロプスへと真正面からぶつかる。

 その質量差を前に他愛無く跳ね返されるとディアナは思ったが、現実は違った。


 ノヴァは剣一本でサイクロプスの突進を止めていた。

 巨大な金属同士が衝突したかのような大きな耳をつんざく音が木々を揺らした。


「ぬう! ワシを止めるか。この剛剣、ただ者ではないな!」

「こいつ、さっきのサイクロプスとは違う。強い」


 離れて再び距離を取ったノヴァをサイクロプスは追撃せず、重々しく身構えた。


「ゆ、勇者様……ご無事ですか」

「問題ない。ここは俺達が受け持ちます」


 長のヘリオス以下集落の者らが下がり、代わってノヴァパーティが前に出る。

 セアが集落の皆を守るように立ち、エルスがノヴァの隣に並び、フレアが後方から戦場全体を見渡す。


「ほほう、なるほど貴様勇者か」

「お前がこの襲撃の張本人か」

「如何にも! ガハハ! いや、いきなり魔界で次元のひずみが開いたかと思えば、捕らわれ地上に放りだされてここに弟共々落ちてきたのだが、これは良い手土産ができそうだ。ひとまずここいらのモンスターをまとめ上げていたら中々大物そうな勇者が釣れたわい」


 大きな牙とも見える犬歯が、サイクロプスの開かれた大口から覗く。

 そして単眼(ひとつめ)をギョロリと動かし、下の勇者らを睨む。そして手のハンマーを天へと振り上げた。


「ワシは魔王軍、デルフォード様直属の戦士! その首ここで貰い受ける!」

「……デルフォード。そうか」


 ピクリとノヴァの持つ盾と剣が小さく震える。

 後ろのディアナとヘリオスがその背に何かを感じ取ったのか、鋭く息をのんだ。


「あっ、バカ!」


 フレアのその呟きは果たしてノヴァとサイクロプスのどちらに向けられたものだったのか。

 ノヴァは冷たい怒りを胸の奥底に燃やし、全ての意識を目の前のサイクロプス打倒にのみ向ける。


 エルスもセアもフレアも。

 敵のサイクロプスさえも。


 その場全員を置き去りにしてノヴァが動いた。


 気がついた時にはサイクロプスの足元にノヴァの姿があった。


「おおっ!?」


 驚きの声を上げるサイクロプス。その片足へノヴァの剣が振るわれる。

 ディアナの目にはその動きも斬撃も何一つ目に映らなかった。


 サイクロプスはその巨体ゆえ、下から攻撃を受ける事が多い。そのため上体に比べて下半身を守る防具の方がより重要視されている。

 まあ全身をキッチリ防具で包もうとすると相当量の金属が必要になるという事情もあるのだが。


 その頑丈な脚甲が一息に破壊された。


 片足を襲った衝撃にサイクロプスはたまらず体勢を崩してしまう。

 だがその成果は捨て身の特攻に近いせいだ。


「勇者様!」


 セアの警告が飛ぶ。

 サイクロプスは崩された体勢のままノヴァを狙い、右の鉤爪を振るっていた。


 だが鉤爪が切り裂いたのはノヴァの影のみ。

 一瞬の差でノヴァは既に風と共に飛び上がり、死角へと回り込んでいた。


 それをサイクロプスは肌で感じ取り、咄嗟にその巨体を投げ出すように回避。起き上がると同時にその勢いのまま左手のハンマーを力一杯横薙ぎにスイングする。そこにはハンマーの間合いに捉えられたノヴァがいた。


 音速の勢いで振るわれたハンマー。

 衝撃波も合わさった一撃必倒のそれをノヴァは絶妙な盾捌きで受け流す。その家屋をも易々と打ち砕く衝撃に逆らわず、むしろ勢いをコントロールし乗りこなしていた。


 そして流れる動きで間隙に入り込み、ノヴァは真正面からサイクロプスと向かい合う。

 反射的にサイクロプスが右腕を前に持ってくるが、それは遅かった。


 剣が閃く。


 ノヴァが鳥のように優雅にサイクロプスの顔のすぐ横を飛び去る。


 サイクロプスの右腕に線が走る。続けて肩口から胸まで。

 線から血が噴き出し、やがてサイクロプスは過去と同じ、二回目の痛みに襲われた。

 その鉤爪の右腕が地面に大きな音を立てて転がる。


 セアも、フレアも、エルスも。

 ここまで手を出す事すらできなかった。


 サイクロプスはただただ一つだけの目を大きく見開き、呆然としていた。


「バカな……」


 その言葉は失ったばかりの右腕と胸の致命傷に対するものではなかった。

 激しい痛みはあった。だがそれ以上の衝撃が彼の胸で荒れ狂っていた。


 あの一瞬。

 ノヴァが振るった一連の剣の流れ。


 その時、彼の脳裏に過ぎ去ったのは一人の堕天使の後姿だった。


 かつて300年以上の昔、魔界で同族十体で一度に襲い掛かり、それらをあっさり跳ね除け突破された恐るべき女性の戦士。彼の右腕を切り落とし、たった一つの目を潰されかけた相手。


 そう。彼女こそ現在の大魔王。彼がその偉大な力に心酔した絶対の堕天使。

 その姿が目の前の青年と重なる。


「貴様、今の剣筋をどこで――!」


 サイクロプスは崩れ落ちたまま必死の形相で問いかける。

 対するノヴァは地上で未だ警戒を緩めないまま、怪訝そうに答えた。


「……師匠だ」

「な、に」

「俺の剣は師匠に教わった」


 その答えがサイクロプスに浸透するまでの間。その瞬間だけ、彼から全ての敵意や威圧感といったものが霧散した。

 ややあって、躊躇うように問いかけが重ねられる。


「……その師匠とは、もしや赤く長い髪をした、金色の目をした女、か?」

「知っているのか!?」


 思わぬサイクロプスの言葉に食いつくノヴァ。

 血相を変えたノヴァを前に、サイクロプスはやがて破顔して大きく口を開けた。


「………………っは」


 予想外に陽気な大音声が空気を震わせる。


「ガハハハハハハハハハハ! そうか! そういう事であったか! これはなんという痛快さ! 愉快さか! まいった、これはまいった! ハッハハハハハハ! まったく、あのお方にも困ったものだ!」

「どういう事だ。お前、師匠の何を知っている」


 しばらくの間、サイクロプスはノヴァの問いかけに答えず、血を吐きながらも笑い続けていた。

 サイクロプスの生気と反比例してノヴァの目が険しくなってきた頃、ようやくサイクロプスは穏やかな顔で言った。


「生憎と、ワシがそれを教えるわけにはいかん。だが、まあ貴様が勇者であるならいずれ……いや、ここの聖地なら、或いはすぐにでも分かるだろう。ふ、ふふふふふ」


 そうしてサイクロプスの瞳がゆっくりと閉じられ、息も徐々に小さくなり、止まった。

 ノヴァに不可解なしこりと謎を残して。




 こうして聖地を突如襲った衝撃的な戦闘はわずか一日で収束した。

 そしてノヴァ達は特別に二週間後の聖地の儀式に参加する事を許された。




 聖地の名。




 其は真実の泉という。




 ☆☆☆★★★




 真実の泉とは、その名の通り真実を暴く泉である。

 特定の時期の満月の夜、泉を覗き込むとその水面に声と共に映像が浮かび上がるのだ。

 ただし、何が見えて聞こえるのか、どんな真実が現れるのかは分からない。それは人によって異なる。また、同じ水面を覗き込んでも見えるのは自分だけの真実であり、他人が見ている真実を見聞きする事は叶わない。


 そして現れる真実はその人が直接関わったものについてのみ。


 容易に辿り着けぬ秘境の奥地にありながらも、専属の護衛を置いてまで確保する価値は十分すぎるほどだった。




「真実の泉……」

「どうしたのよ」

「フレア。いや、昔どこかで聞き覚えがあったような……思い出せないな」


 小骨が喉に引っかかったような表情で唸るノヴァ。

 泉の前では今まさにディアナを中心に儀式が進行されていた。周りにはこの国の王侯貴族らと、大きな対価を支払って参加を許された他国の人らもいた。

 その中にノヴァパーティの姿がある。


 やがて泉の真上に満月が昇り、同時に泉が淡く発光する。

 いよいよ泉がその力を発揮するわずかな時間が始まった。


 ノヴァパーティの番がようやく巡って来る。

 ディアナに導かれて皆が泉の前でゆっくり膝をついた。


「何が見えるかな、ドキドキするよな!」


 エルスが鳶色の瞳を輝かせていた。


「真実は決して良い事ばかりとは限りません。皆さん、強く心をもって下さい」


 セアが神妙な面持ちで告げる。


「まぁ、(わたくし)は何が見えても驚かないわよ。王宮はそれこそろくでもない人たちばっかりだったしね」


 フレアがため息をつきながら冷めた顔をしていた。


「しっかし、本当不思議な泉だな。この底とかどうなってるんだろう。面白い所だよな!」


 無事避難する集落の民らを守り通したスィールが今にも泉の中に飛び込んでいきそうにしていた。


「俺は別にいいや。ここで待ってるからお前らだけで行ってこい」


 そう言ってこの場におらず、集落に一人残ったのはオウジュだった。


 皆が泉を前にして、そっと水面を覗き込む。




 そして。


 皆は見た。


 聞いた。




 或いは待望の。


 或いは優しい。


 或いは残酷な。




 真実を。




 勢いよくフレアが顔を上げる。その顔は泉に向かい合う前と一転し、蒼白になっていた。

 処理しきれない感情のまま戦慄きながら、フレアはきつく唇を噛み、隣のセアを見た。


 セアもまた、少し困ったように、それでいて納得するようにフレアを見ていた。

 そして小さく微笑みかけた。


 エルスは目を閉じていた。

 何かを噛み締めるように。悔いるように。

 その瞼の裏には小さな頃、一度だけ会話を交わした今は亡き勇敢で誇り高い勇者の姿があった。




 ノヴァは――


「………………………………」


 瞬きすらせず、食い入るように泉を見つめ続けていた。

 既にもう水面には何も映っていない。それでも目を離せなかった。


 泉が見せた光景。


 それはノヴァに大きな波紋を呼び起こしていた。


「……皆、すまない。俺はこれからすぐE国に戻る。確かめたい事ができた。4日後までには戻るから、皆は領主殿の街の宿で待ってて欲しい」

「え?」


 突然ノヴァが立ち上がる。

 その顔はどこまでも硬く、険しかった。


 仲間たちに有無を言う暇すら与えず、ノヴァはその場で風と共に天へと飛び上がり、一路E国の方角に向かって翔けた。


 全力で。




 ★★★★★★




 二日後。


 真夜中のE国の墓地にて一つの墓が暴かれた。




 泥の詰まった空の棺を前に何者かが大きな笑い声をあげていた。




 いつまでも。


 ずっと。


 ずっと――狂ったように笑い続けていた。







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