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ショタ勇者さま育成計画  作者: めそ
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15-1-A






 武闘大会の大騒動より2週間後。


「ごめんなさい」

「申し訳ございませんでした」


 人気のない小さな裏通りの広場。そこで黒髪ショートカットの武闘着姿の子供、エルスが神妙な顔をして頭を下げていた。同様に他の弟子4人も頭を下げている。

 頭を下げた先にはシャツにスラックス姿というラフな姿のエリエルがいる。いつもより少しばかり凛々しさがアップしていた。


 エルスとノヴァが初邂逅を果たした時にノヴァの師匠であるエリエルを侮辱した事。それについて今日改めてエルス達が謝りに来ていた。


 2週間も間が空いたのは武闘大会の大事件の後処理や負傷の治療、何より大活躍を果たしたノヴァの立場の変動による影響が大きい。

 というかまだゴタゴタは現在進行形だ。


 権力闘争に顔がきき、かつ心得のある第三王女フレアが夜会のパーティなどで押し寄せる有力者からの防波堤になって完全に忙殺されている。昨日などはちょっとキレ気味に据わった目をしながら擦り切れた精神を落ち着けるべく甘味の代名詞であるハチミツをひたすら貪っていた。まるで冬眠明けの熊みたいだったとはノヴァの言。

 そんなフレアを、権力闘争とはまったく無縁のノヴァとセアは何故そんなにやつれているのか分からず不思議そうに、そして心配そうに首をかしげていた。

 なお、パーティに出席したセアが王妃の元へ挨拶しに行くと、何故かすごい一生懸命に構ってくれる。


 まあそれはさておき。

 神妙に頭を下げるエルス達に美しい流れの女剣士は至って気にした様子もなく手を振って、明るく笑って言う。


「かまわん。それより今後ともぜひ坊やと仲良くしておくれ」

「は、はい!」


 緊張に強張った表情でエルスはただカクカクと頷いていた。


 ノヴァはこれまでの事やこれからの事をエリエルと嬉しそうに話し、エリエルと別れてまたエルスと一緒に王城への帰途へつく。他の4人の弟子達は滋養に良い食べ物を探しに市場へ買い物に向かったり、細々とした用事を片付けに散った。

 師匠も王城に一緒に行こう、とノヴァが熱心に手を引いて誘うも、エリエルは首を縦には振らなかった。どうもあまり城は好きではないらしい。


「いやー、すげえなお前の師匠。うちの聖拳老師(じーちゃん)以外であんな底の見えねー気配を持ってる人なんて見た事なかったぞ」

「当ったり前だろ! なんたって僕の師匠は大滝の瀑布もスッパリ端から端まで斬っちまうんだぞ!」

「それマジか……するとたぶんレベル40越えはしてるんじゃないか? でも名前は全然聞いた事ないんだよなぁ……うーん?」


 2週間の間にすっかり打ち解けた様子の二人が並んで外を歩く。

 自慢の師匠を見直されるのが嬉しいのか、ノヴァはちょっぴり胸を張って子供らしいご満悦顔だ。

 ただそれに張り合うようにエルスも聖拳老師の数々の逸話を語りだしたりと、互いの師匠が如何にすごいかの自慢合戦になったりした一幕もあった。一時は顔を突き合わせて猛犬のように唸りながら睨み合っていたが、二人としてはじゃれ合いの範疇を越えてはいない。


 元々エルスはカラっと晴れた空のような元気一杯の明るい気質だ。前へ、前へと進むエルスには長々と腐るという事はない。まあそれが悪い風に働けば増長して天狗になってしまうという欠点になってしまうのだが。

 その上、エルスは強い人を好む。それがこれまでまったくいなかった同年代であれば尚更だ。

 そんなわけで、エルスの中でノヴァはとにかく「すごい!」となって懐いていた。セアとフレアに対しても同様だった。よほど楽しいのだろう、ヒマさえあれば、というかなくても3人の所に突撃している。

 なんというか……野生動物?


 そんな気持ちの良い気風のエルスに初めはどう扱っていいものか戸惑っていたノヴァとフレアだが、すぐ仲良くなるのは子供の特徴。あっという間に受け入れていった。


 そしてノヴァとエルスの間にはもう気の合う友人、或いは悪友といった空気が流れていた。


 途中、大通りを歩くだけで民衆が遠巻きに窺う視線が四方八方から突き刺さり、大きなざわめきが起きたため今は人目につきにくい薄暗い路地を堂々と歩いていた。

 珍しい黒髪の男の子、それだけで一発で身元が分かってしまうのは評価が上がる前も後も困りものだった。今までの悪意ある視線が好奇心に変わってしまい、どうにもノヴァには慣れず、落ち着かなかった。




 あれから。


 武闘大会が終わった後、ノヴァとそのパーティメンバーは国王の指示により手厚く治療を受けた。そして立って歩ける程度に回復し次第、国王自ら足を運んで頭を下げ、これまでの扱いを謝罪した上でE国の勇者を継続してくれるように請われた。

 そしてノヴァはそれを快く引き受けた。


 その際、隣に居た仲間であり王女でもあるフレアが父王相手にも関わらず、笑顔で容赦なく全面的なバックアップをする約束を書面でキッチリ取り付けていた。


 結果、エース騎士パエトーンの勇者任命は白紙になり、自国と他国含めて王宮はお祭り騒ぎの真っ最中。どの派閥にも属していないノヴァの身柄を巡って色々と醜い争いが勃発している。

 ノヴァにあてがわれた王城の一室には客足が次から次へとやって来ている。が、フレアの鉄壁のガードにより、害にしかなりそうにない者は丁重に追い返され、信用に値する者からの援助のみ受け取っていた。


 パエトーンを推していた大貴族の周辺では何故か連続して不幸が重なったりしていた。何故か下級貴族の家の不祥事が発覚して取り潰されたり、謎の出火で屋敷が焼け落ちたりとか。

 パエトーン自身も顔に痣を作って王宮に出てきたり、僻地への長い派兵が決まったりしていたが彼は粛々と受け入れていた。そこに悲壮感はなく、むしろ晴れやかですらあった。

 これはノヴァに会いにきたパエトーンの言葉だ。


「今回の件ではつくづく(それがし)の未熟さと矮小さを思い知った。また王都に戻ってきた時は必ずや今よりもっと腕を磨き、この地を守れる騎士としてより高みを目指します」


 P国勇者エパポスとI国勇者ヘリアデスは治療中の間に今回の一件の立役者全員と親交を深めていた。

 エパポスはノヴァとエルスの頭を乱暴に撫で付けながら男臭い笑みで互いの活躍を祈って激励をかけてくれた。

 ヘリアデスは真っ先に戦線離脱し役に立てなかった事を悔いており、今後力になれる事があればぜひ尋ねて来て欲しいと伝え、春風のような優しい微笑みを見せた。

 二人は治療が終わってすぐ仲間と共にE国を発った。


 そしてエルスは周辺諸国へ顔出しに行っていた聖拳老師がE国に戻って来るのを待って、他の弟子らと東へ帰る事になっていた。


 ノヴァとセア、フレアが王城の門の前までエルスを見送りに行った時。

 エルスが珍しくわずかに逡巡しながら口を開いた。


「あのな……その」


 少しの間、口の中で言葉を転がしていたがすぐにいつものように真正面を向き、まるで挑みかかるような気迫で一歩踏み出して大声を一気に叩きつける。


「もしお前がE国を旅立つ時はオレも一緒に行きたい!」


 パーティに入れて欲しい。そうエルスは必死に訴えていた。

 真っ直ぐノヴァから目を逸らさず、震えないよう拳を握り締めて。

 そしてノヴァの答えは考えるまでもなかった。


「ああ、お前なら歓迎するぞ!」

「あ……ありがとう!」


 途端、エルスは一層明るい笑顔でノヴァに抱きつき、嬉しそうに笑いながら腕をノヴァの首に回して頬と頬をくっつける。全身で喜びを表現していた。

 ノヴァも慌ててエルスの体を抱きとめる。気の合う男友達の派手な肉体表現に、満更でもないように笑う。

 少年なら女顔、少女ならボーイッシュと評されるであろう中性的なエルスの顔が間近に迫っていた。


「……ん?」


 何か違和感がノヴァを襲った。

 エルスはそんなノヴァに気付かずそのままノヴァから体を離し、続けてセアやフレアとも強引に握手をしていった。


「皆、よろしくな! 絶対約束だからな!」

「はいはい。よろしくね。あとあなたはもうちょっとお淑やかになりなさい」

「よろしくお願いします。一緒に頑張りましょう」


 フレアが冷静にエルスの落ち着きの無さをたしなめながら、セアはノヴァの決定に異を挟むはずもなく可愛らしく微笑みかけた。

 満面の笑顔で飛び跳ねるエルス。ノヴァはそんなエルスを見て、先ほどのモヤモヤとした形にならない違和感が何なのか分からず首を捻っていた。


「今度会う時は追いついてみせるからな! 見てろよ!」


 そう、聳え立つ遥かな(いただ)きに挑戦するかの勢いでエルスは宣言した。

 今はまだ見上げるだけしかできないけれど、必ずその背に手を伸ばし、隣に並んで見せると心の中で決意する。


 こうしてエルスも東へと帰っていった。




 そして更に一月が経った。







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