11-1
雷竜がゴロゴロと雷鳴を鳴らしながら雲海を飛び回っている魔界。
ある日側近デルフォードは一人、魔王城の廊下を歩いていた。
「おや、部屋のドアが開きっぱなしになってますね」
几帳面な側近はそのだらしなさに顔をしかめてその部屋へと近づく。
すると突然部屋から何やら騒々しい音が聞こえてきた。
何やら慌てているような、そんな音。
「誰ですか?」
不審に思い、用心しながら暗い部屋を覗き込むと何やらガサゴソと書物の山を漁っている影が。
長い赤髪にほこりを被らせたその影は、一度ビクリと翼を震わせた後ぎこちない笑みで側近に片手を上げて挨拶をした。
「お、おお。やはりデルの気配じゃったか」
「また珍しい所にいらっしゃいますね、大魔王様。文字の列を長時間見続けると頭痛を起こす貴女様が第三資料室にどのようなご用でしょうか」
「い、いやちょっとふらりと立ち寄ってみただけじゃ。もう出るところじゃから気にせずともよいぞ、ははは! ではの!」
大魔王エリエルはそう一気にまくし立てると一目散に駆け出し、部屋を飛び出した。
「あれは……城の見取り図?」
側近は自分の横を通り過ぎる時に大魔王が手に持っていた物を抜け目なく捉えていた。どうやら大魔王が漁っていたのは測量・地形・地図の棚だったらしい。
「ん……何やら棚に空きが一つありますね。今持ち出したのでしょうか。まったく、後で確かめておかないと」
側近はため息をつきながら部屋の乱れた資料を整理し、部屋を出て扉を閉める。
そしてまた今後の予定を思い出しながら執務室へと向かっていく。
後に側近はここですぐ問い詰めなかった事を、簀巻きの中で激しく後悔する事になった。
☆☆☆☆☆
さて。
大魔王が何やらコソコソとするより以前の日。
「さて。今日もまずは基礎体力メニューからじゃ」
「おう!」
「はい!」
毎日恒例の10kmランニングin山&谷。
今は冬なので遠泳はしていない。
中に重りを仕込んだ50kgの丸太を背負うのは勇者ノヴァと師匠エリエル。なお丸太は十代半ば頃の女子の体重と置き換えても良し。
その隣には重りなしのセアがシャツとハーフパンツという健康的な姿でいた。セミロングのプラチナブロンドを今はうなじの辺りでヒモでくくり、両手に拳をつくって胸の前で握り締めている。気合は十分だ。
3つの影が谷へとハイペースで快走していく。
エリエルが鼻歌でも歌いそうなくらい余裕綽々なのは当然として、今では勇者も平気な顔でエリエルにぴったりとついて行っている。
そしてその後ろをぜいぜい息を切らしながら追いかけるセア。
20分少々でランニングが終わったら、次はハイキング。
モンスターが蔓延る広大な山と森の中を、モンスターに見つかる事無く踏破するのが目的だ。
時には息を潜めて匍匐前進し、木々や岩陰に隠れながら進み、風の流れを読み、モンスターの臭いを嗅ぎ分け、縄張りのマーキングや糞尿からどのようなモンスターの行動圏か見極め、草と泥を体中になすり付けて臭いを消し、慎重に勇者とセアは符丁を交わしながら気配を押し殺して進んで行く。
無事ハイキングが終わると、次は師匠と勇者の模擬戦。
既に受け稽古から次の段階へと進んでいた。
上下左右、頭上からとありとあらゆる方向から縦横無尽に動き回るエリエルの剣が降り注ぐ。
洞窟といった屋内ではすり足を使うが、広い屋外の野戦ではこうした足を使った多角攻撃を好んでいた。
「ほほう。中々儂の剣に耐えれるようになってきたではないか」
「へっ、いつまでもやられっぱなしでいられるかよ!」
「よし、ではもう一段階速度を上げようぞ。さあ、ついてこれるかの?」
活きのいい獲物をいたぶるような笑みを浮かべ、エリエルの剣が一息3連撃から4連撃へと増える。
「くそっ、上等だこのやろー! かかってこい!」
「さあ、儂に一撃入れてみせよ。さすれば目一杯頭を撫でてやろうかの」
「そ、そんなのいるかー!」
足を動かし続けながら激しい剣の応酬を繰り広げる二人。
その後ろではセアが一人、膝を大地につけて両手を胸の前で組み静かに神へ祈りを捧げていた。
祈りを捧げるセアの周りに優しい力が満ちる。
警戒心の強い野生のウサギを初め、鳥やキツネなど色々な動物がその空気に惹かれるように彼女の周りに集まっていた。
穏やかで温かな気配が周囲に漂い、場となす。そこでは草花が瑞々しい活気を見せ、ケガをした小動物の治癒が促進され、荒れた感情が鎮まっていく。
セアの中に流れる伝説の大神官の血は、ノヴァと出会ってから急速にその力を伸ばしている。
毎日捧げられる祈りは、目覚しい勢いで着実にその力を強めていった。
模擬戦の次はモンスターの群れとの集団戦闘。
レベル13。生きている鎧。
戦いに優れたベテラン兵の魂が宿った動く鎧だ。その剣や槍を振るう技は熟練者のそれ。
それを10体まとめてセアと二人で相手取る。
止まっていてはすぐに囲まれ、押し潰される。
だから二人は常に足並みを揃えて離れずに動き続け、互いの背中を守り合い、共に敵を打ち倒していく。
複数との敵と戦う場合、一体の敵を相手にし続けてはいけない。そのため、剣を振るう時は必ず一撃必殺を狙う。研ぎ澄まされた渾身の一撃を放ち、正確に弱点を突く。チャンスがあれば決して逃さない。
でなければいつまで経っても相手の勢いは衰えず、やがては数の波状攻撃で疲労が蓄積されて動きが鈍り、捕まってしまう。
「Z!」
セアが障壁を作って敵の攻撃を受け止め、或いは逸らしてできた隙に勇者が斬撃を叩き込む。
一拍で2連撃。
一撃目で武器を持つ腕の関節を切り飛ばし、二撃目で胴を切り離した。
師匠がいない間、模擬戦ができない時間はひたすら剣術と体術の型の反復練習に当てている。
こればかりは時間の蓄積になるので、まだ体に完全に馴染むほど修練を積んでいないが、少しずつ剣技に滑らかさが見えてきていた。
そしてセアもまた、神官としては規格外のスタミナを身につけて勇者に息を切らすことなくついていく。
二人で息を合わせ、セアは勇者が動きやすいように、戦いやすいようにただサポートに徹する。
「Ch V……!」
敵の配置を常に頭に叩き込み、邪魔になりそうな敵がいれば神の力を借りた鎖を作り出して縛って動きを止め、突進してきた敵に不可視の力の塊の聖弾をぶつけて押し返し、勇者が快適に戦える状況を作り出す。
勇者と敵の動き両方を読み続け、戦況を睨みながらセアは道を作り続ける。
勇者の侍従はその栄光のために全てを捧げ、その力を尽くす。
二人はパーティとして一つの美しい花を咲かせようとしていた。
集団戦の修行が終われば、次は何回と繰り返した勇者とガーゴイルとの一騎討ち。目標は一撃も食らわずにノーミスで倒す事。
だが、ここで勇者はいつもと違っていた。
「師匠。もう守備力増強魔法はいらない」
「む?」
「今日、ぼくは絶対にガーゴイルを倒してみせる。だから魔法はいらない」
勇者がエリエルを真っ直ぐ見つめる。
そこには獅子の如き気迫があった。
「そうか。あい分かった。ならば気を引き締めて行くがよいぞ。奴の爪は坊やの腕を簡単にスライスできるという事を忘れるでない」
「うん」
「……いい顔をするようになったの」
エリエルの金色の瞳がゆっくりと細められる。
それはいつか勇者が見た、よく分からないと感じた笑みだった。
一見この上なく幸せそうな笑みに見えるそれであり、何故か分からずとも勇者が心胆をひどく冷やした笑みだった。
今もまた、勇者は心臓が止まるような恐怖を覚えるが、それを決して表に出さないよう飲み込んで言った。
「師匠。約束の鉄の剣、用意しておいてくれよ。今日もらって帰るからな」
「その意気や良し。見事儂から奪い取っていくがよい」
ガーゴイルを倒した時、エリエルは勇者に一つ約束をしていた。それが褒美として与えようと特注した鉄の剣だ。
既に鉄の剣は受け取り済みであり、後は勇者のガーゴイル打倒を待つのみ。
その鉄の剣を取り出したエリエルは大地に突きたて、勇者の帰りを待つ。
そして、勇者はガーゴイルの前へ立った。
「勇者様、最後まで頑張ってください!」
「おう! セアも見てろよ!」
勇者が銅の剣を抜くと、ガーゴイルが爪を振りかざして襲い掛かってきた。
落ち着いてそれを迎え撃ち、巻き打ちで敵の腕を跳ね上げた後に素早くガラ空きの胴体へ剣を振り下ろす。
硬い石の体をわずかに削り、すかさず勇者は離れた。
「来いよ。どんな攻撃でも、全部見切ってやる」
静謐な闘気を身に纏い、勇者は怪物と相対する。
それに圧されるようにガーゴイルは一度身体をギシリと軋ませた。
それをセアと共に眺めながらエリエルは笑う。
勇者の強い意志を受けた時からずっと笑い続けている。
嬉しくて、あまりにも嬉しくてたまらないとその目は語る。
分かる者が見れば、こう言っただろう。
あれは狂気の笑みだ、と。
そして、この日遂に勇者はエリエルの手から鉄の剣を受け取る事となる。
☆☆☆☆☆
E国から海を隔てた先の国にて。
その日、E国に向けて出航する大型船の姿があった。
多大な金をかけ、威信と誇りで豪華に飾られた軍船は帆にいっぱいの風を受け、大勢の船乗り達と数名の主人を乗せて海を渡る。
魔法で潮流を加速させ、風を束ねてより強く帆へと誘導する。
そんな贅沢な船の主人はF国の勇者パーティ。
現在世界最強との誉れ高い歴戦の雄だった。
豪華な船と乗組員はF国からの勇者への支援の一つであり、これだけでもF国の期待と活況の高さが窺える。
E国の勇者が受けている扱いとは天と地ほどの差があった。
船は順調に進み、3日目で暗雲に遭遇した。
「勇者様、これが海路を封鎖しているモンスターの仕業です」
「なるほど……これが海甲竜の呼ぶ嵐か、船長」
「はい。今まで数多の船が渦と嵐によって沈められてきました」
素人でも分かる、あきらかに異質な雰囲気の装備に身を包んだ男性は勇者と呼ばれていた。
青年から壮年への過渡期といった年頃で、いつもは穏やかな顔も今は厳しく引き締めている。ダークグレイの髪は短く、オールバックで後ろに流している。灰色の瞳は鷹のように鋭い。
金色で縁取られた青い鎧は鋭角的なフォルムに鳥のような意匠を施され、強い魔力の輝きを帯びている。頭には万年を超えた樹齢を刻むと謳われるトネリコの大霊樹の枝で編まれたサークレットを戴き、篭手は四大精霊より贈られた物で虹色の輝きを見せている。
手に持った武器はドワーフ族の秘宝である最高純度のミスリル銀より作られた剣だった。
その勇者は甲板に立ち、目の前の激しい嵐を前に悠然した構えを崩さない。
やがて遠い先の海面に巨大な怪物の影が浮かび上がり、恐ろしい勢いで近づいてくる。
海甲竜。
レベル46のモンスターであり、人間世界では間違いなくトップクラスの強さを誇るモンスターだ。畏敬を以って海の王者とも呼ばれている。
その全長は10mを超え、亀のような甲羅を背負った首の長い竜の姿をしている。
その体は頑強。力は絶大。その上魔力も世界有数の力を誇る。
口からは巨大な炎と竜巻を放ち、その雄叫びは雷雲を呼ぶという。
その炎は船の半分を呑み込み、竜巻は船体を砕き、降る雷は船を割った。
幾度となく海路を封鎖された国々が軍船を派遣し、或いは勇者達が挑んでいったがこれまでそれら全てが海の藻屑と沈んで消えていった。
今日、この日までは。
「では、討伐を開始するか。船長、かなり揺れる事になる。船は頼んだ」
「は、はいっ!」
勇者ザイフリート、神官グンター、女魔法使いブリュンヒルトの3人が前へ出る。
それぞれがまだ20代であろう若者達。
グンターは落ち着いた大柄な壮年の男性。白と金の法衣服に身を包み、その細い目はまるでいつも目を閉じているように見える。
ブリュンヒルトは派手な意匠がいたるところに施された真っ赤なローブを着て、全身いたる所に装飾品で身を飾る魔女だ。
「よーし、じゃあグンター、ブリュンヒルト。やろうか」
「ええ。任せてください、ザイフリート」
「こんな久しぶりの大物、腕がなるわね。久しぶりに弾けるわよー!」
そして後ろでのんびりと並んでお気楽観戦態勢に入っているのが女騎士クリームヒルト、探検家ヒルデブラント、格闘家エッツェルの3人。
クリームヒルトは若く明るい女性。生真面目で、よく優等生なお嬢さんと仲間内で可愛がられている。胸が残念な事にちょっぴりコンプレックス。豊かな姉のブリュンヒルトを一部敵視している。
ヒルデブラントは童顔で背の低い軽装の男性。既に30歳を超えているはずだが、見た目は10代にしか見えない。一番の食いしん坊で、なんでも食べる。
エッツェルは寡黙で無骨な大男の武人。鍛え上げられた肉体は重厚な鎧と化し、ざんばら髪と無精ヒゲが野性味を際立たせている。その腰にヒョウタンを下げ、武道着一つでよく酒をあおっていた。
「私たちはお預けかぁ。ザイフリート、しっかりやんなさいよー」
「海甲竜のお肉って美味しいのかなぁ? あぁ、網焼きもいいけどやっぱりお鍋にして食べてみたいなぁ。ダシを取ったらどんな味になるのかなぁ。お腹すいたー」
「……こうして酒が飲めるなら文句はない」
そうこうしている間に、いよいよ海甲竜が目前まで迫ってきた。
長い首を海面から出し、船に向けて巨大な火球を3つ連続で吐き出してくる。
一発で大型船を丸ごと焼き尽くすその火球は、グンターの作り出した神の力の障壁に阻まれた。火球が衝突した瞬間ですら障壁には一切の揺らぎもなく、その強固さが窺える。恐らくは噴火の直撃ですら耐えうるであろう。
「L H E T U」
続いてブリュンヒルトの朗々とした詠唱が嵐の空の下に響き渡る。
気圧が急激に下がり、耳鳴りが船乗り達を襲う。
「さあ、いくわよ……竜巻!」
途端、潮流の流れが変化し海甲竜を中心とした大渦が現れる。
己の周囲の異変と魔力に気付いた海甲竜はすぐさま魔法に干渉する。精霊の支配権を奪い返すべく、世界最強種としての力を出し惜しみなくぶつける。
しかし、その抵抗はあまりにも呆気なく千切られた。
彼我の力量差に一瞬、茫然自失となる海甲竜。海の王者と称えられた存在が、相手にもならない力がそこにあった。
大渦の流れは変わる事無くそのまま海甲竜を捕らえゆく。
身動きのとれなくなった偉大な海甲竜は天へ向けて悲鳴を上げた。
やがて大渦は勢いを増し、小さな島をも削り砕く勢いへと成長を続ける。
それでもなお海甲竜の身体は健在。恐るべき頑強さだった。
逆に言えば、この海甲竜を倒すには小さな島を破壊し尽くす以上の力を要するという事だ。
そして、その力を秘めた者達が今、海甲竜の前に現れている。
全身を捻り切ろうとする圧力に耐える海甲竜。
大渦は更に回転を続け、やがてはその中心から天へと落ちていく。
落ちる大渦は海流の柱となり、そして竜巻となる。
小さな島をすっぽりと覆う巨大な竜巻を前にして、それを創り上げたブリュンヒルトは泰然としたまま甲板で魔法を紡ぎ続ける。
ブリュンヒルトの魔力はもはや人間という範疇に収まらず、或いは人類全ての恐怖の象徴たる魔王軍八魔将に匹敵するとまで言われていた。
そう。かの魔王軍No.2(笑)であり、八魔将筆頭(笑)、魔界最強の大魔導士(笑)、金色の悪鬼(笑)、悪魔種の頂点に立つデーモンロード(笑)のデルフォードに対抗できる唯一の人物とさえ目されているのだ。
数十t級以上の自重を持つ海甲竜の巨体が持ち上がり、海柱の竜巻の中を昇っていく。
かつて大海に君臨した絶対の王者たる海甲竜はその現実に絶望する。
やがて10mを超す巨体が竜巻の中、ザイフリートの目の高さまで無理矢理上がらされた。
激しく揺れる甲板の上で、ザイフリートが剣を抜く。
黄金の柄に青い宝玉が埋め込まれた、幅広の剣だ。
青白い火花が散り、ミスリル銀の刀身は濡れたような光を帯びる。静謐な底知れぬ魔力の輝きは人を強く惹きつける妖しい魔性の魅力があった。
剣を後ろに引いて構えるザイフリート。
その鍛え上げられた身体から闘気が暴風となってあふれ出す。
まるで船の上に台風が突如できたかのよう。
「海甲竜、お前は暴れすぎた。今まで海に散った兵士達と勇者達、その魂に賭けてお前はここで俺が倒す」
神官が勇者に守備力増強魔法をかけ、不可視の膜が勇者の全身を覆う。更に続けて筋力増強魔法で身体能力の向上。
更にザイフリートの身体と剣にいくつもの紫電が這い回る。
海甲竜もこのままむざむざ殺されるものかと、遠のく意識の中で雷雲に向けて呼びかける。
4条の尖塔の如き大きさの強力な雷が降り注ぐ。それは王者の意地だった。
だが、それらは全てグンターの力により逸らされ、分解されて散り散りに消えた。
それが海甲竜の最後の抵抗だった。
「ジギ、一撃で仕留めなさいよ!」
恋人のクリームヒルトの声援を背に受け、ザイフリートは無言で頷く。
高い魔法の素養を持つ者は見えたであろう。ザイフリートの剣に巨大な怪鳥が舞い降りているのを。
サンダーバード。
そのフェニックスと並ぶ上位の雷精を剣に纏わせ、ザイフリートは一つ大きく息をつく。もはや剣からは近づくだけで船が消し炭になるであろう雷が、激しく重い雷鳴と共に狂喜乱舞していた。
そしてそれほどの雷を纏わせても何ら軋みや負荷を見てとることのできないミスリル銀の剣は、やはり世界の宝剣の類であった。
ザイフリートが剣を真一文字に振り切る。
その雷撃は強烈な稲光と共に巨大な海上竜巻ごと海甲竜を真っ二つに断ち斬った。
更に断ち切られた海甲竜に向けて全方位から雷が乱れ飛ぶ。
無数の雷は失明するほどの光と衝撃すら伴う音を発しながら敵を撃ち続ける。
耳をつんざく雷の轟音が海域一帯に鳴り響き、空気を激しく打ち震わせて、やがて静まる。
あまりの音の大きさに船乗り達はまるで打ち据えられたようにあちこちでひっくり返っていた。
やがて恐る恐る顔を上げた船乗り達は、もはや海甲竜が肉片一つ残らぬ消し炭となって海に消えた事を知る。そしてザイフリートを畏敬と憧憬の目で見た。
そこに、人類最大の英雄たる真の勇者の姿を見たのだ。
平均レベル62。
全員がレベル60以上の怪物であり、『群れ』としても優秀な連携を誇る名実共に最強のパーティ。
この勇者ザイフリートが率いるパーティは大魔王級に匹敵すると謳われて久しい。
なお、余談ではあるが『聖拳老師』もまたレベル60を超えており、ザイフリート達をして『化け物』『大妖怪』『枯れ木の死神』『東洋の不条理』『生き物やめてる』『もうやだ』と言わしめる存在である。
「これで終わりだな。さあ、皆。E国に行こうか」
嵐は消え、船の前には穏やかな海が広がる。
輝く太陽に祝福されながら、人類最大の希望を乗せた船はゆっくりと海を渡って行った。




