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まずは恋人たちのよりを戻そう(優先順位間違ってない?)

「問題点を明確にし、解決のための優先順位をつけるために、もう一度状況を整理いたしましょう」


 なんだか三カ月ほど前にも似たような台詞を聞いたような気がするけれど、遥かに所帯(しょたい)の増えた一同の顔を見回しながら、紅茶で一口喉を湿らせたルネが口火を切った。


「以前の最終目標はエドワード第一王子の卒業パーティでのアドリエンヌ様に対する、公衆の面前での婚約破棄という暴挙を回避させ、併せて軽はずみに賛同をして、同調する予定であるその取巻き――それによって、寝耳に水で面罵され辱められることになるであろう御令嬢の皆様を事前に救済することであり、途中でイレギュラーなアクシデントなどがあったとはいえ、現在までのところ、それはある程度達成されていると言っても過言ではないと思われます」


「そうですわね。その節はお世話になりました」

「うん。ロラン公子とルネちゃんたちにはどれだけ感謝しても足りないね」


 しみじみと頷いて同意を示すエディット嬢とベルナデット嬢。

 あとシビルさんとアンナが『イレギュラーなアクシデント』の部分で苦笑した。


「まあ、半ば幸運と星回りと……あとはちょっと強引な力業(ちからわざ)()うところが大きかったわけですけれどね」


 具体的には〈神剣ベルグランデ〉とか【暗黒魔竜ブリンゲルト】とか〈魔王・オニャンコポン〉とか。――あれ? 『ちょっと強引な力業』レベルかな? 謙遜したつもりだったけれど、気のせいかルネとエレナ以外の女性陣が逆にドン引きしているような気がする。


「――まあそのような些細な問題は置いておいて」

 そうルネが話を軌道修正しようとするも、「あれが些細な問題……?」「やっぱりオリオールって変だわ」「「うわー……」」と、なかなか四人ともこちら側へ帰ってこない。

「置いておいてっ」

 もう一度強く念を押すルネの気迫に飲まれて、「「「「あ、はい」」」」ようやく四人ともこちら側へ戻ってきた。


「失念していけないことは最終目標。すなわち、これを奇貨(きか)としてエドワード第一王子の奸計(かんけい)を完膚なきまでに破壊し、そしてお義兄様をこの国の王として擁立(ようりつ)。将来的には私たち全員が、後宮の香烟(こうえん)に包まれ寝て暮らせる安穏とした――」

「それ最終目標じゃない!」

 僕が毎度のツッコミを入れると、

「……え?」と、素で面食らった表情を浮かべたルネだけれど、「ああ。そういえばそうでしたわね。これは確定路線であって目的ではございません。いけないいけない、色々と混同しておりましたわ。申し訳ございません、お義兄様」

「……いや。それも違うんだけど……」

 反駁しても無駄なのは身に染みているけど、無駄な抵抗でそう一言絞り出すも、案の定全員に聞こえないふりをされた。


「……そうなると問題なのは、新たなイレギュラーであるミネラ公国からの留学生(ガブリエル)と、帰還予定のロズリーヌ第三王女をどのように位置づけて対処するか、ですか?」

「それと引き続きアドリエンヌとルシール、あとジェレミー第二王子の問題があるわね」


 小首を傾げるエディット嬢と、面倒臭そうに羽扇子を広げるベルナデット嬢。


「ついでにナディア様への対応と、オデット様の件もありますよね?」

 うっかり取りこぼしそうになった残る二名の問題を列挙するエレナ。


「あー……それもあったか」

 思わず天井を振り仰ぐ僕。


 思い出したくもない女装(ロレーナ)での軽率な約束と、他の御令嬢方に比べて影の薄いオデット嬢については、なんとなく無意識のうちに優先順位を下に見てあまり考えないようにしていたみたいだ。

 と言うか妄想暴走(ロズリーヌ第三)王女のインパクトが強すぎて、他の問題が吹き飛んでしまった感がある。


「ナディア様ですか。絶滅寸前の〈剣歯猫(サーベル・キャット)〉をお飼いになってらっしゃるとあっては、ぜひとも(よしみ)を通じておきたいものですね!」

 と、瞳を輝かせるのは魔物・珍獣に目のないエディット嬢である。


 ベルナデット嬢は気軽に肩をすくめて、

「そのうち何とかなるんじゃないの。なにしろロラン公子はナディア姫の筆頭侍女らしいから」

「それは断ったと言ったでしょう!」

「――まっ。お気に入りなのは確かだから、何とかだまくらかしたまま味方に引き入れることを期待ね。もっとも正体がバレたら最悪な気もするけど……」


 わざと僕にプレッシャーをかけて煽り立ててませんかね、この次期辺境伯様は⁉ 絶対に内心で面白がっているだろう!


「まあそちらに関しましては太后様のフォローもございますので、急務というわけではございませんので、いったんは棚上げいたしましょう。問題は色ボケ王女でございますわね」


 ロズリーヌ第三王女に関してはとことん辛辣なルネだった。


「――とは言え。政略結婚を含めて、どう動くかわからないロズリーヌ第三王女の件は、まだ日数もあることだし臨機応変に対応するしかないと思うよ」


 そもそも事態がどう推移するのかわからない状況で、あれこれ思案していても仕方がない。

 開き直っての僕の発言(現実逃避ともいう)に、ルネが渋い顔をしつつも消極的な同意を示した。


「……まあ、確かに『下手の考え休むに似たり』とも申しますが。いつまでも棚上げはできませんよ、お義兄様?」

「それはそうだけどさ。なーんか、ここのところ先走って動いて余計な騒ぎに巻き込まれているような気がするんだよねー」


 その途端に壁際に並んでいたシビルさん、アンナの新任メイドがきまり悪げに視線を逸らせた。で、逸らせた先にはいつもの鉄面皮のエレナがいて、『私は知りません』とばかり威風堂々と、絶対に僕らが知らないところで何かやったろう⁉ という僕の視線を弾き返すのだった


「まあそれはそれといたしまして、そうしますと今取り掛かるべき急務と言えば……これはもう、考えるまでもございませんわね」


 ルネが当然のようにそう言うと、他の面々も心得た表情で無言の頷きを返す。

 うん、そうだろう。問題なのはやはり明らかに間諜(スパイ)であるガブリエルだろう。その彼とクリステル嬢がどのようにつながっているのか。そこら辺を重点的に――


「オデット様の恋愛問題ですね」

「って……あれえええ!?」


 エレナが当然のように言って、それに迎合をしてエディット嬢とベルナデット嬢。アンナとシビルさんまでもが口を揃えて追従する。


「そうですね。あのふたりの恋愛問題をなんとかしないと」

「一番いまヤバいのがあのふたりだからねえ」

「アドリエンヌ様とルシール様からも依頼されているとあっては、これを第一の考えるべきでしょうね」

「そうよね。他の御令嬢は『婚約者、婚約辞めるんだって』で、どーにかなりそうだけど、あの方だけはショック死しそうだしね」


 国家の浮沈よりも身近な恋愛問題の方が重要だとばかり、今後の方針を喧々囂々と検討し合う御令嬢方。

 いいのかなー、これ……?


 微妙に釈然としない気持ちのまま、何となく話題に乗り遅れた気持ちで僕はひとり侘しく紅茶を啜るのだった。

『王子の取巻きAは悪役令嬢の味方です』書籍第一巻は6月頃発売予定です。

イラスト担当は吉田依世先生(『ゼロの大賢者』のイラストで御馴染み)となりました。

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