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今後の傾向と対策(御令嬢会議召喚)

 屋敷に戻ると出迎えてくれた使用人の顔ぶれにエレナがいないのを確認をして、僕は背後に付き従ったまま、荷物と自分の両手剣をぶら下げたままの武装メイドであるシビルさんを伴って、いつも通り柔和な笑みで恭しく一礼をしたジーノの元へと足早に近寄って行った。


「おかえりなさいませ、若君」

「いま帰った。ところで、ルネとエレナはまだ図書室へ籠っているのかい?」

「はい。ずっと籠り切りで……付け加えるのでしたら、いまだエディット伯爵令嬢も詰めておりまして、ついでにアンナも付きっ切りでございます」

「……エディット嬢も? 随分と長期滞在しているみたいだけれど、何をしているのかジーノは知っているのかい?」


 そう尋ねると、珍しく一瞬口ごもったジーノは、微妙にはぐらかすような口調で応じる。


「さて――? 細かな内容までは不明ですが、先ほどまで全員で歌を唱和したり、何やら手分けをして絵を描いているようでございましたな」

「ふ~ん……つまり芸術か。うん、まあいかにも貴族の御令嬢らしい優雅で、かつ平和な趣味だね」


 こっちは色々と大変だったのに長閑(のどか)なものだなぁ、と思いながら最高級のギザ・コットン製のワイシャツの首元を緩める僕。

 そんな僕に曖昧な微笑を向けるジーノ。

 なんだろうこの慈しみに溢れた目つきは? 以前にルネが手作りのお菓子……という名の謎の錬金術で作ったような、得体の知れない物質を是非にと言われて食べた。あの時の僕を見詰める眼差しを髣髴(ほうふつ)とさせる慈愛に満ちたものなんだけれど……(ちなみに食後に僕は卒倒して、その後三日三晩生死の境を彷徨ったらしい。『妖精王(オベロン)の祝福』をモノともしないルネの料理は、その後オリオール家において封印されたのは言うまでもない)。


「けど、エディット嬢もいるならかえって好都合かも知れない。取り急ぎ相談したいことがあるので、早急に応接室へ来てもらえないか確認してもらえるかな?」


 その僕の要求に困惑した表情を浮かべるジーノ。

「――内部から要請がない限り、誰も通さないように仰せつかっているのですが」

 マナー的にもレディが籠りきりになっている部屋に、ずかずか足を踏み込むのは難しいというところだろう。


「ああ、それなら私が呼び出してきます」

 そこで伝令を買って出てくれたのはシビルさんだった。


「助かります。その間に僕は着替えてきますので」


 ジーノともども安堵しながらそう頼むと、シビルさんは荷物を別なメイドに預けて、ついでに背中に両手剣を背負い直し、あとなぜか両手にエプロンのポケットから取り出したナックルダスター(メリケンサック)を装備し始めた。


「……あの?」

 意味が分からず怪訝な顔になってしまった僕を、やたら清々しい顔で見返して、

「お任せください。多少手荒な真似をしてでも、あの腐った空間から叩き出して御覧に入れます」

「えーと……?」


 シュッシュッ! と、空中に向かって拳を切りながら(ちなみにナックルダスター(メリケンサック)は金属製で、ご丁寧に鋲が打たれてある)、意気揚々と図書室のある方角へ消えて行くシビルさんの後姿を見送りながら、

「お絵描きと歌を歌っているルネたちを呼びに行っただけだよね? ……何か間違った指示をしたっけかな、僕?」

「いえ、若君もシビルもきちんとした意思疎通がなされております。問題ございません」

 ジーノに確認をするも、微動だにせずきっぱりと言い切られた。


「ああ、うん、そう……なんだ?」


 狐につままれたような、何やら煙に巻かれたような気持ちのまま、僕は着替えをするためにその場を後にする。


 ❖


 三十分後――。

 どことなく精彩のないエレナと一緒に、なぜか羽扇子で顔を隠したルネとエディット嬢が応接室へとやってきた。


「ほほほ。諸般の事情によりこのままで失礼しますわ、お義兄様」

「現在ノーメイクのため、ロラン様に顔をお見せできないのが残念です」


 僕がツッコミを入れる前に先んじて、ふたりから口々に顔を隠している理由が述べられる。


「……あー、そう。そうなんだ~」

 何か男には理解できない女性ならではの理屈があるのだろう。

 なんだか帰ってきてから似たような合いの手しか入れてないなぁ、と思いながら曖昧に頷く僕。

 それからふと気になってふたりの背後に控えるエレナと、シビルさんに引き摺られるようにして連れてこられたアンナに視線を送る。


「……(すぴーっ)」

「うへうへ、うへへ……五十三時間ぶりの休みです。この際、隊長の総括援助でも地獄のブートキャンプでもどんとこいです」

 エレナは普段通りに見えるけど、よくよく見れば立って目を開けたまま眠っているし、アンナはなぜか部屋の壁紙に消しゴムかけをして、ぶつぶつととりとめもないことを譫言のように繰り返している。


 何があったんだろう、この四人に?


「それでお義兄様、何か学園でございましたか?」

 束の間考え込んだ僕に微妙に焦れた様子で、そうルネが立ったまま話を促してきた。


「ああ、うん。その前に座らないの?」

「いえ、このままで結構ですわ。いまソファの柔らかさに包まれたら、そのまま意識が天上へと旅立ちそうですので」


 大理石のテーブルを挟んだ反対側のソファを指さしたのだけれど、きっぱりとルネに拒絶された。

 エディット嬢も同意見のようで、「お気遣いなく」と扇の向こうで首を振っている。


「はあ、まあいいか。では手短に――実は困ったことと困ったことと困ったことがあったんだ」

 立ったままの女性陣を前にして、腰の落ち着かない気持ちのままそう僕は切り出した。


「困ったことばかりですわね。普通、このパターンだと『良い話と悪い話、どちらを先に聞きたい?』となる場面ではありませんか?」


 と、ルネが気乗りしない口調で混ぜっ返す。

 いや、知らんがな。


「せめて美男子(イケメン)絡みとかございませんの?」

美男子(イケメン)ねえ。いちおうフィルマン以外の王子と取巻き全員は勢揃いして話に絡んでくるけど、ああ、そういえばドミニクも復帰してましたね」

「王子とその取巻きの皆さんはイロモノ枠なので、美男子(イケメン)とは別枠でお願いいたしますわ」

「ドミニクですか。そういえば賠償金問題もありまたボードレール公の御意向もあって、イルマシェ家の隠し財産と国家の膿を搾り取るため、完全に叩き潰すよりも細く長く……可能な限りギリギリの状態で延命させる予定だとか伺いましたわね」


 割と身も蓋もない反応をするふたり。

「そ、そう? あっ、そういえば新顔の取巻きが増えたんだけど。ミネラ公国からの留学生で、女性と見まごうほどの中性的な白皙の美青年」

「「「「!!!」」」」


 途端、気だるげ(アンニュイ)な雰囲気から一転。(気配的に)扇の向こう側でカッと刮目をするふたりの御令嬢と、覚醒をしたエレナとアンナ。


「「「「詳しく聞きましょう‼」」」」

 食い気味に俄然やる気を見せる四人を前に、思わず僕は椅子から転げ落ちそうになった。


「お、おう……!?」

 本格的に腰を落ち着けて聞く気になったのか、そそくさと僕の対面のソファに腰を下ろすルネとエディット嬢。その背後にはエレナとアンナも付き従う。


 なんだかなぁ、と思いながらも僕は今日あった出来事を、時列系に従って話し始めるのだった。

しばらく多忙のため、次回の更新は3/31(土)頃を予定しております。

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