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王子の取巻きAは悪役令嬢の味方です 作者:佐崎 一路

第二章

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side:英雄を夢みる冒険者

主人公、ヒロイン出ません。
 オルヴィエール統一王国の首都アエテルニタ。
 華やかなりし百万都市であり、八十を越える行政区によって管理された中央大陸屈指の近代都市でもある。

 かつて――神話の時代を含めれば三千五百年以上の太古から――存在した王宮(もともとは無骨な城砦であった)と聖地を擁する神殿を中心に栄えた中央大陸の要衝であり、その後町から都市や、そして都市国家から国の首都へと何度もの変遷を経て、およそ二百五十年前に魔物と魔族の駆逐をほぼ成し遂げたところで、時の王の英断によりかつての閉鎖的な都市国家から開放的な都市へと、世紀をまたぐ都市計画に従って整備され、洗練された街造りを目指した結果、他の追随を許さない美しくも機能的な巨大都市へと発展したのであった。

 この街を遥か上空から俯瞰できる者がいれば、その見事に整備された街の造りは一目瞭然であろう。
 まずは白亜の巨大な尖塔をいくつも擁する広大な敷地を持つ王宮を中心にして、王族やそれに準ずる立場の高位貴族、政府要人が暮らす第一区が王宮の周りをドーナツの輪のように配置され、ぐるりとかつての都市国家であった頃の名残である堅牢な門と大理石の壁とで外界と完全に隔離されているのが見える。

 続いてその外に、主だった中央貴族の屋敷と国教である聖教大神殿、オルヴィエール貴族学園を含めた教育施設などがある第二区から第九区が、これまた等間隔に同心円を描く形で配置され、ここは網の目のように走る上下水道を兼ねた深い堀と水路、そして緻密に組まれた石垣とで護られていた。
 ちなみにここまでは道路はすべて石畳で完全に舗装されており、また王宮に敬意を表するために三階建て以上の建物は王国法により建てられないことになっている。

 王宮と第一区は当然としてここもまた大神殿以外の場所は基本的に市民や旅行者の立ち入りは禁止された特別区であり、貴族であっても出入りには厳しい制限が存在する。いわばこの国の中枢が集まった天上人が住まう別世界とも言えるのであった。

 その下に存在する第十区から第十九区までは上流階級(ブルジョア)や富裕層が暮らし、またそうした上客のための商業施設や劇場、レストラン、ホテルなどが軒を連ねる、いまやアエテルニタを代表する名所となっていた。
 なお、街のランドマークになっている〈ラスベル百貨店〉がここにあることからもわかるように、ここらへんからは建物の高層制限は緩和されており、そのためか近頃は高層建築ラッシュとなっているらしい。

 対照的に第二十区からは昔ながらの面影と風情を取り残した旧家や商店、小劇場なども多く残されている……ものの、最近は王都へ屋敷を構えたい、箔をつけたいという目的で地方からやってきた中層階級(ミドルクラス)の郷士や成金がこぞって移り住んできたことから、元の住人は辟易して昔で言えば平民街である第三十区か第四十区以降へと住居を移しているという。
 そのため平民街は現在は第三十区がそこそこ良い暮らしができる平民と一部下級貴族などが暮らす区域であり、第四十区以降五十区代までが一般的な市民の住いと食を支える市場などがある台所。
 第六十区から第七十区は下層市民や行商人などが泊まる宿屋や夜の店が軒を連ねる猥雑な下町。
 第八十区以降は半ば農村部である僻地と、またどこからか流れ込んできた身元も定かでない不法居住者が暮らす貧民街(スラム)と化していた。


【第六十八区・冒険者ギルドアエテルニタ西支部】

 剣一本に命を掛けて魔物と戦い、人跡未踏のダンジョンを踏破して夥しい財宝を手にし、人々の賞賛を浴びていた『冒険者』もいまは昔。
 かつて野山を席巻していた魔物が大砲の砲弾と爆薬のつるべ撃ちとで駆逐され、大空の覇者であったドラゴンに代わって巨大な飛行船が大陸間を行き交い、大洋の隅々まで帆船に乗った商人と開拓者が進出して未踏の大地を踏み荒らしまくる現代。
 いまや冒険者といえば最底辺の日雇い労働者の代名詞となり、その互助組織であった『冒険者ギルド』も昔日(せきじつ)の栄光を(おり)のように貼り付けたまま形骸化され、冒険者の名前で仕事をすればツケ(・・)の利く(それも限度があるが)酒場であり、定期的に仕事さえすれば併設された船乗りの寝床か、二段ベッドが並ぶ死体置き場のような宿舎にただで泊まれる職業斡旋所……まあその程度の役割に落ち着いていた。

 昔ながらに剣一本で一攫千金を得るなど夢のまた夢。まだしも暗黒大陸で砂金採りでもしていたほうがましな昨今、街中でこれ見よがしに鎧を着て帯剣している冒険者などは時代錯誤な産物でしかないだろう。
 実際、半官半民の中央に近い冒険者ギルドに所属する冒険者は、普段はありきたりのシャツと長パンツ(サン・キュロット)姿で(半ズボン(キュロット)を穿けるのは貴族の特権のひとつ)定時にギルドに出勤して決められた仕事をこなし、必要な時だけ茶襟の作業服を着て武器を持つことから、最近では労働者階級の『ブルーカラー』や知的労働者の『ホワイトカラー』に準じて『ブラウンカラー』とも呼ばれるのが一般的となっていた。

 そのため昔ながらの……言っては悪いが“時代の流れについていけない”“終わっている”、昔ながらの革鎧を着て腰に剣を差した冒険者は、もはやこういった都市外延部に近い場末のモグリに近いギルドにしか(たむろ)しておらず、それすら最近は数を減らしている現状であった。

 国としても都市内部に武装した民間人が公然と存在していることを憂慮してはいるものの、昔ながらの冒険者ギルドの伝統と実績を無視するわけにもいかず、しぶしぶ黙認している現状であった。

 ともかくも今現在生き残っているこうした冒険者連中の大部分は、粋がって武装しているチンピラもどきの若造であったが、それでもごく稀に存在する本物もいた。
 すなわち命を代金(チップ)に危険と隣りあわせに人生を綱渡りすることでしか心の充足を得られない人格破綻者や、或いは骨の髄まで血に飢えた戦闘狂・殺人鬼の類い――いずれにしても真っ当な人生は得られない社会不適応者であり、そうした社会の落ちこぼれの受け皿であり巣窟(そうくつ)として、あくまで必要悪として存在を許容されているのがいまの冒険者ギルドである。

 そんな当世の冒険者たちが集うギルドの安酒場の一角に、痩せぎすの三十歳になるかならないかといった男がひとり、昼間から黙々と酒瓶を傾けていた。
 背丈は中背だが痩せぎすで頬に刀傷があるのが特徴といえば特徴であり、他に特筆すべき点は腰に二本の長さの違う細剣(?)――変わった造りの剣を差しているくらいであった。
 だが、男がまとう雰囲気は明らかに堅気(かたぎ)のそれではなく、例えるなら抜き身の刃――それも血塗れの――のため、荒くれ男揃いの酒場の中でも異彩を放ち、粋がっている若造でさえ遠巻きに眺めて近寄らないほどである。

 脛に傷ある連中だからこそ一目瞭然である男の素性。
 間違いなく人を殺している人間の佇まいだ。
 それもその手に掛けたのはひとりやふたりではないだろう。何十人……下手をすればそれ以上を殺しているかもしれない。いまは無言で酒を飲んでいるが、いつその抜き身の刃のような本性をあらわにするか、警戒と怖いもの見たさで周囲は戦々恐々としながらも男を見守っていた。
 ともかくも、昼間から酒を飲んで管を巻く連中が常駐している、この掃き溜めのようなギルドにあっても剣呑過ぎる存在感を放つ男である。

 と――。
 お祭り気分で浮かれた街の浮ついた雰囲気にあてられたのか、比例して増えたトラブルの解決のためか、ここのところ人の出入りが増えたギルドの立て付けの悪い扉を開けて、恰幅の良い商人風の中年男がギルド内に入ってきた。

 ――依頼人か?

 男の格好からそう判断したそう大部分の者が思ったのだが、予想に反して中年男は酒場のバーテンが兼業している受付カウンターへは向かわず、入り口のところで酒場の面々を一瞥して、奥のテーブルでひとり杯を重ねる痩身の男に視線を定め、ほっとした表情になると迷いのない足取りで真っ直ぐに男へ向かって歩いていった。

 そのあまりにも大胆で無防備な様子に、息を潜めて様子を窺っていた酒場内部の冒険者たちにざわめきが起こる。
 次に起きるのは惨劇かはたまた虐殺か!?
 固唾を呑んで見守る男達の視線が集まる中、まったく頓着することなく杯を重ねる痩身の男と、そこへ無造作に近づく中年男。

 ――っっっ?!!

 両者の距離が三メトロンを切った刹那、抜き手もみせずに座ったままの男の白刃が翻り、ピタリと片刃の月のように流麗な剣先が中年男の首にある頚動脈に押し当てられていた。

 この距離を一瞬で殺すか!?
 固唾を呑んで眺めていた外野でさえ捉えられたのは僅か一閃……下手をすれば瞬きで見逃した早業であるが、戦慄した理由はそれだけでない。
 それなりに実戦を潜り抜けてきた冒険者連中が予想していた男の攻撃範囲が、遥かに広くてさらにまだ余裕がある(なにしろまだ座ったままなのだから)ことに歴戦の戦士たちが度肝を抜かされたのだ。

 もしも自分が男にちょっかいを出していたら……見当を付けていた制空圏を遥かに超える男の白刃によって成すすべなくは(なます)に斬られていたことだろう。

 水を打ったように静まり返った周囲の反応などどこ吹く風で、剣先を押し付けながら男は中年男の全身を上から下まで眺め回し、恬淡(てんたん)とした口調で話かける。

「……顔と体型は変わっていますが、足音と瞳の色は変わっていない。軍曹殿ですな? ……お久しゅう」
「うむ、久しぶりだなイェルド。まだ王都に留まっていてくれて助かったぞ」

 軍曹と呼ばれた男は頷こうとして首筋に当てられている白刃の先を嫌そうに見た。

「軍曹殿からいただいたこのリャパウン産のカタナ(サムライ・ブレード)には重宝していますよ。人でも魔族でもスパスパと芋のように斬れるのが素晴らしい。お陰で刃が乾く暇もないほどです……」
 冗談なのか本当のことなのか、にやりと爬虫類のような笑みを浮かべて手にしたカタナを、これまたほとんど目にも留まらぬ速さで鞘に納める“イェルド”と呼ばれた痩身の男。

 物騒な挨拶が終わったことにホッと安堵しながら、“軍曹”と呼ばれた中年男はイェルドが陣取るテーブルの反対側に勝手に座った。
 イェルドの方も特に文句もなく、さりとて関心も払わずにひとり瓶を傾けるだけである。

「――バーボン。それと適当につまめるものを」

 軍曹も慣れた調子でカウンターに向かって銀貨を一枚投げ、それを受け取ったバーテンが手早く、酒と焼いただけの何かの肉をテーブルに置いて戻ったのを確認してから、その間も無言で自分の分の安酒をあおっているハロルドへ改めて話しかけた。

「……相変わらずだな。そのカタナも穴掘り奴隷だったリャパウン人が持つよりも、お前のような者に持ってもらった方がさぞ本望だろう。借金のかたに取り上げた甲斐があったというものだ。で、どうだった。反乱軍に参加しての実戦は?」
「――くだらんゴッコ遊びでしたな」
 吐き捨てるように一言答えるイェルド。
「遊びか」
「遊びですな。斬れた人数もせいぜい十人程度……おまけにどいつもこいつも素人に毛が生えた程度で歯ごたえのない。剣聖か剣匠……せめてその弟子でも出張ってこないかと期待していたのですが、その前に戦自体が終わってしまいましたからな。もう一月は続くものと思っていたのですが?」

 後半、責めるような口調で問われて自分の分のグラスを傾けながら、軍曹は顔を顰めて憎憎しげに舌打ちをした。

「俺も予想外だった。――ったく、考えてみればそのカタナに関わる因縁から、こんなことになったのかも知れんな」

 いま現在の凋落の原因――客観的に見ればただの自業自得であるが、当人からしてみればリャパウン人の奴隷親子が真っ先に関わり、関連して謎の令嬢やら暗黒魔竜らを呼び込んだ風にしか思えない――の顛末を語って聞かせる。

「…………」
 どうでもいい口調で話を聞き流していたイェルドだったが、話が佳境に入ったところで持っていたカップをテーブルに叩きつけるように置き、据わった……返答によってはただではおかないと雄弁に語る目付きで軍曹に問い質した。

「――クヮリヤート一族。そして〈神剣の勇者〉といいましたか?!」

 やはりここで食い付いたか、と内心でほくそ笑みながら軍曹は大きく頷いた。
「ああ、間違いない。あの娘は噂に聞くクヮリヤートの影だろう。三十分ほどしか聞き耳を立てられなかったが、明らかに俺に不審を抱いていた。とっとと現場から退散して駅馬車に乗ってどうにかまく事ができたが、危ないところだった。だが、その前の会話はしかとこの耳に入っていた。〈神剣の勇者〉は俺を陥れた女の名前を確かに口に出していた。間違いなくこの一件には連中が絡んでいる」

 まあ実際に〈神剣の勇者〉自身があの一件にどこまで関与しているのかは不明であるが、『ロレーナ』という名前を出した以上、まったくの無関係というわけでもないだろう。
 そして今の段階では他に手がかりも時間もない以上、ここを突破口に攻めるしか道はなかった。

 そこで思い浮かんだのがこの目の前の元部下にして、数々の凶状を持つ殺人鬼……いや、剣鬼の存在であった。
 この異常な剣の申し子とも言えるべき男は、常日頃から、
「人をひとり殺せば殺人者だが、一万人殺せば英雄になれる。俺は生まれる時代と場所を間違えた」
 と公言してはばからない信条の持ち主であり、平和な時代の生んだ徒花(あだばな)とも言える存在である。だが、その腕前は対人戦にかけては間違いなく超一流。その気になれば『剣聖』だろうが『剣匠』だろうが叩き斬ることが可能だ。そう軍曹は睨んでいる。

 だが国の至宝とも言うべき彼らと、在野の名もない剣士が切り結ぶなどできるわけがない。そのためこんな場所で腐っているのだろうが……。

 その男の鼻先に〈神剣の勇者〉という、この国において『剣聖』や『剣匠』に匹敵する人物が無防備で歩いている。そんな情報を教えればどうなるか。答えは火を見るよりも明らかであった。

「……やってみないか、勇者殺し? お膳立ては俺がしてやろう」
 爛々と目を輝かせるイェルドの耳元でまるで悪魔のように軍曹は囁きかける。
1/22 誤字脱字の修正をしました。
週末くらいまでに次回の更新を行う予定です。

ちなみに実力的に、イェルドは『剣聖』と『剣匠』ふたりがかりでどちらかが犠牲になるのを覚悟して斃せるレベルです。
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