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鉱山の少年と秘密(君の名は?)

意外と早めにできたのと短いので今日中にUPします。

 扉の鍵を開けた瞬間、部屋の中から少年が転がるように飛び出してきた。


「うわあ~~~~~~~~~~~っ!?!」

「おっとっと……大丈夫かい、少年?」


 おそらくは内側から無理やり体当たりで扉を開けようとした所なのだろう。正面からぶつかってきた少年の皮と骨だけの悲しいほど貧弱な体を受け止める。


「ふご!? ふゎ――わ、わあああああっ!! ご、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだっ」

 身長差と姿勢の問題で少年の顔が僕の胸(パッド入り)に押し当てられる形になり、そのことに気付いた少年は真っ赤な顔でその場から飛び退いて、盛んにペコペコと頭を下げる。

 すまんな少年。この胸の中に入っているのは夢や魅惑、脂肪や母乳でもなくただの詰め物だ。


「いや、別に気にはしていないけど……ええと、ところで少年。君は前後の状況はわかっているかね?」

 とりあえずオカマ口調で喋るのは精神的にゴリゴリと何か重大なものが削られる気がするので、妥協の産物として事務的な口調で接することに決めた。


 少年の方は特に気にした風もなく、ちょっと考え込んでから、

「ああ、えっと、そうそう鉱山の監督連中に捕まってリンチされたんだ。そんでもう駄目かと思って……もしかして姉ちゃんたちが助けてくれたのかい? 姉ちゃんたち他所から来たいいところのお嬢様だろう? でなきゃオイラのこと助けるわけないもんな」


 なかなか利発ではきはきした少年である。寝てる時はルネと同じくらいの年齢かと目星をつけていたが、実際に喋っている声や仕草からしてもうちょっと下、十三歳くらいだろうか。

 複数で囲んでてんでんバラバラに喋っても混乱するだけだと判断したか、ルネやトリニダードは一歩離れて僕たちのやり取りを傍観している。


「まあそんなところだ。私はロレーナ・ミラネス。こっちが妹のルネ。それとメイドのエレナと下男のトマス。ダイヤモンドの買い付けに今日ここに着いたばかりなんだけれど、その途中でルネが君を見つけてね。放置するわけにもいかないので、宿まで連れて来たところだよ。で、少年、名前を教えてもらってもいいかな?」

「ああ、そっか。ごめんよ、礼と挨拶が遅れて。助けてくれてありがとう。おいらの名は“ヨウタ”。ちゃんと発音してくれよ、親父の故郷の言葉で太陽を意味する割と一般的な名前なんだけど、こっちだとこの名前、妙になおざりにされることが多いんだ」

「なるほど、ヨータ君か」

「ヨ・ウ・タっ。さっそく略すんじゃねえよ!」

「だからヨータ君だろう? ヨータ君のお父さんはこの国の人間ではないのかね? そういえばどことなくオリエンタルな雰囲気があるけど、もしかして蒼陶国の人間かな?」

「いや、だからヨウタって……ねーちゃんも人の話を聞かない人だなぁ」


 はて、なにが間違っているのだろうか?


「あと親父の出身ははもともと蒼陶国のもっと向こう、『リャパウン』っていう島国だったらしいけど、船が難破して流れ着いたこっちで奴隷にされたって聞いている」

「ああ、リャパウンね。知ってるよ、あそこの陶器とカタナ(サムライ・ブレード)には良い物が多いからね。独特の波模様が海洋民族独特の風情を醸し出していてエキゾチックだね」


 それに確か過去の〈神剣〉の中にも一振り『太刀』と呼ばれる形状のものがあった筈(名前はえーと、〈神剣・鬼切丸〉だったかな? 〈神剣・クサナギ〉は両刃だったから)と思いながらそう相槌を打つと、ヨータ少年は心なしか自慢げに胸を張って、

「へえ~。姉ちゃん詳しいな。そうだよ。親父は故郷ではサムライだったんだぜ」

「ほほう、サムライといえばリャパウンの騎士階級だね。一度逢ってみたいものだが……」


 そう口にすると目に見えてヨータ少年は気落ちした様子で肩を落した。


「いない。先月に落盤事故で死んだって……だけど、あれは絶対に事故じゃねえ! 滅多やたら殴られて殺されたんだ! 親父は人望があって鉱夫のまとめ役をやってたから、それで連中の――いや、連中にもっと鉱夫の安全に配慮しろとか、鉱山切符じゃなくてちゃんとした現金で賃金を払えとか抗議していたから、連中に殺されたんだと思う」


 カチッ、と一瞬だけ歯車が鳴ったのと、ヨータ少年が言葉を濁したのとが同時であった。

(……何か隠している? いくら親が異民族で上の反感を買っていたからといっても、こんな子供を苦しめて殺すのは少々腑に落ちないな)


 基本的に辺境の鉱山などでは民族や種族による差別は存在しない。こんなところに流れてくるのは社会的に最底辺の貧乏人ばかりであり、みんなが碌でもない人間でなおかつ全員が惨めな生活をしているので差別が起こりようがないのである。

 もう少し突っ込んだ話し合いをするか、と思ったところでヨータ少年のお腹が盛大に鳴った。


「――そういえば私たちもお昼がまだだったね。ここのホテルは一階が酒場兼食堂になっていた筈だし、そこで食事でもしながら詳しい話をしようじゃないか」

 よし、餌付けだ! 美味いものを食べさせれば口も軽くなるだろう。

 そういって戸惑うヨータ少年の肩を掴んで、無理やり階段へと向かう僕。


「ちょ――っ、姉ちゃんやめてくれよ! 恥ずかしいだろうっ」

「はっはっはっ。遠慮することはないさ、勿論私たちの奢りでご馳走するのだからね。たっぷりと食べるがいいさ」

「いや、本気で恥ずかしいんだってば! それにここは姉ちゃんらみたいな上層階級のお嬢様の口に合うような料理はねえぞ。せいぜい小麦粉と水と塩を混ぜて焼いたパンとトウモロコシのスープくらいだから、文句言っても知らねえぞ!」


 わめくヨータ少年が逃げないように肩を抑えたまま階段を降りる僕たちの背後に続きながら、ルネもトリニダードも気楽に、

「あらっ、いわゆる酵母を使わない“フラットブレッド”ですわね。キャンプみたいで楽しみですわ」

「まあ人間が食えるものが出るだけで上等ですな。それでも途中の雑貨店の食い物よりかは百倍マシですわ」

 食事というか、状況を楽しむ気満々である。


「――はあぁ……。どーなっても知らねえぞ」


 やっと観念したヨータ少年とともに一階に降りた僕たちは、上の騒ぎが筒抜けだったのだろう。目を丸くしている宿屋(ホテル)の因業そうな親爺に、一番上等の食事を五人前とアルコール抜きの飲み物四人前プラスアルコール(トリニダードの分)を注文した。

続きは12/5頃更新予定です。⇒多忙のため12/9(土)更新いたします。

少年の名前を「陽太(ヨウタ)」に変更しました。


12/10 修正しました。

×食事を四人前とアルコール抜きの飲み物三人前→○食事を五人前とアルコール抜きの飲み物四人前

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