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やってきたトラブル(内憂外患とはまさに)

前回のあらすじ:クリステル嬢の実物を見たアドリエンヌ(;゜д゜)ポカーン

 さて、あれから一週間ほど経過したけれど、第一王子の反乱軍鎮圧軍第二陣への参加要求は(当然の事ながら)暗礁に乗り上げていた。

 まあ普通に考えて、国家間戦争でもない一領地の農民の反乱に、軍人でもない第一王子が指揮官として鎮圧に乗り出すとかありえないので妥当な判断だろう。


 その代わりに国内の治安統制を図る責任者である軍務長官のレーネック伯爵が最高司令官として着任し、また自らの領の問題ということでイルマシェ男爵(元伯爵)が副官に着任し、実際の軍の統制をとる将軍には現近衛騎士副団長(現団長の実弟でアドルフの叔父に当たる人物)が着任し、隣接する大領主バルバストル侯爵からも大量の物資と領兵が支援にまわされたという。


 このあたりはおそらく第一王子同様に、クリステル嬢へ起死回生でいいところを見せようとはかるドミニク、フィルマン、エストル、アドルフの四人が奮起した結果だろう。彼らなりの努力の痕跡が窺える状況であった。


 実際、方向性さえ間違えなければ、あの連中も有能ではあるのだけど……。


 なお、さらに今回の鎮圧軍には、ドミニク、フィルマン、アドルフのそれなりに腕に自信のある三馬鹿が騎士待遇で直接に従軍する予定でいるらしい。

 ドミニクとしては父親と同様、ここで乾坤一擲の博打にでなければ、第一次討伐軍の敗走の元凶として、下手をすれば今度は爵位の降格どころか、責任を取って詰め腹を切らされる恐れがあると、どうやらここにきて現実を理解したのだろう。

 対してフィルマン、アドルフはもう少し楽な立場で、クリステル嬢に大見得を切ったはいいけれど、実際に行動に移せない第一王子の名代として戦場へ赴くことで、第一王子とあわよくばクリステル嬢双方へアピールする狙いがあるらしい。


「ままならぬこの身に代わって戦場で武功を立てる。それはすなわち私の武功も同然! うむ、さすがは我が信頼する家臣たちだ、その忠義このエドワード生涯忘れぬぞっ!」

 と、手放しで絶賛する第一王子の言葉に、意気揚々と戦場へと旅立って行った(ま、まだ軍の編成には手間取っている状況らしいけれど)。


 で、幸いというかなんというか、僕の出陣は国と大神殿の双方から待ったがかかり、そのまま居残りとなった。

 まあ、大神殿は基本的に俗世の抗争には中立というお題目を標榜しているので、積極的に紛争に荷担しないのはわかるけど、さっさと内乱を収めたい国が渋るというのは意外だった。

 下手をすれば第一王子の箔付けのために出陣を許可して、僕がその護衛という名のお守りをさせられるのかと思っていたのだけれど、国王陛下が断固としてエドワード殿下と僕の参加を認めなかったらしい。


 あと意外といえば、我がオリオール家に対する支援要請も一般的な領主貴族に対するものと同じで、一定の戦費を賄うかある程度の戦力を出すかというもので、父であるアルマン・ギャスパル・オリオールは公費に私財を半分投入して、かなりの色をつけて戦費で肩代わりしたらしい。

 曰く、「最も高価で手間隙がかかるのは人材だからね。金でかたがつくなら金で済ませるさ」という、なかなか男前の答えが返ってきた。


「さすがはお義父様ですわ。ものの道理がわかっていらっしゃる!」

 普段は身内に対しても割りと容赦のないルネも、これには感じ入ったようで黄色い声を弾ませ、これで意外と養女ながらも娘煩悩なところがある親父殿も、「ふっふっふっ……」と、満更でもない顔で執務室の椅子にふんぞり返った。

 黙っていればそこそこ威厳があるものを、いろいろと台無しな公爵家当主様である。


「それにしても、よくそれで国が納得しましたね。こういってはなんですけれど、昔からオリオールの兵は精強なので有名ですから、箔付けのためにも千か千五百くらいの兵は出せと強要してくるのかと思いましたけれど」

 そう僕が疑問を口に出すと、親父殿に代わってルネが小ばかにした表情で口を開いた。

「要するにいまの国王陛下は小物なのですわ。国王であるなら側室の五人や十人、或いは後宮を囲う程度の度量を見せるべきでしょうに、それをしないのは愛妻家なのではなくて、単に親族が増えればそれだけ己の地位が脅かされる危険が増えることを恐れ、また優秀な臣下に手柄を立てる機会を与えることで王位を簒奪されるのではないかと戦々恐々としているからこそ、お義兄様や我が家(オリオール)に出陣要請がかからなかったのですわ」


 そんなルネの身も蓋もない評価に、僕と親父は視線を合わせて苦笑する。

 ま、確かにその通りではあるのだけれどね。

 と、そんな話をしていたところへ、執務室の扉をノックする音がした。


「誰だ?」

「失礼致します旦那様。ルネお嬢様へご学友よりお手紙が届いておりますので、こちらにお持ちしました」

 落ち着いたバリトンの声に、思わず扉とルネとの顔を見比べる。

 ルネ宛の手紙? 普通ならメイドに命じてルネの私室へ持っていかせるのが普通なのだけれど、なんでわざわざ筆頭執事(バトラー)であるジーノが手ずからこの場に……?


(――いや、ジーノがそうした方がいいと判断したってことか)

 同時に親父殿とルネも同じ結論に達したらしい。真剣な面持ちで頷く。


「――うむ。入れ」

「失礼致します」

 許可を得て折り目正しく部屋に入ってきたジーノ。銀製のトレイに高価そうな刺繍の入った封筒を一枚掲げ持っている。

「どうぞ、ルネお嬢様」

 恭しく差し出された封筒を受け取ったルネは、書かれていた差出人の名前とひっくり返した裏の蜜蝋で封された家紋を確認して軽く息を呑んだ。


 その間に机の引き出しからペーパーナイフを取り出した親父殿の手から僕はナイフを受け取り、無言のままルネへと受け渡す。

 受け取ったルネは性急に手紙を開け、一枚だけ入っていた便箋を広げてその場で読み始めた。


「…………」

 さほど長い内容ではないだろうに、何度も読み返して、まるで間違い探しかクイズでも解いているような難しい顔で考えていたルネだが、その表情のまま顔を上げて、

「ラヴァンディエ辺境伯家のベルナデット様からお会いできないかというお誘いのお手紙です。ですが、これは実質的にお義兄様宛の密会を望む内容ですわね」

 ヒラヒラと手紙の表をこちらに向けて、そう端的に内容を要約するのだった。


「ベルナデット嬢? フィルマンの婚約者の?」

「ええ。ですのであくまで友人である私と親睦を深める……という名目の元、たまたま(・・・・)偶然にお義兄様とご挨拶する形になった。そういう(てい)をとりたいとのことです」


 そりゃまあ婚約者のいる未婚の御令嬢が、他の男と密会していたとかなったら大問題だろうからねえ。

 これ男女が逆でもそうなんだけど、エドワード第一王子とかにも、半分でもいいからこの配慮と用心深さがあればいいのに……と悲しくなってくる。


「用件は?」

「それは直接お会いしてお話したいと……ちなみに、ベルナデット様はわたくしの個人的友人ではありますが、学園での立場はアドリエンヌ派(こちら)寄りの中立派といったところですわね」

「なるほどね」

「……お受けになりますの?」

「ん~、どうしたものかな……」

 どう考えても厄介ごとの匂いがプンプンする。そもそも問題があるなら、辺境伯家でどうにかできる筈だろうし、個人的な相談事でそれも男手が必要ならフィルマンにまず相談するのが筋というものだ。

「そうなるとフィルマンに関する相談事かなぁ……ちょっと思いつかないけど、まあ僕もベルナデット嬢には、例の『フェアリー駒』の出所の件でちょっと確認したいと思っていたので渡りに船なんだけど」


 親父殿の前なのでさすがにあからさまに話せないけれど、それだけでルネは僕の意図を理解したらしい。はっと表情を改めた。


「――もしや辺境伯家を疑っておりますの?」

「もしくは隣国かな」

 なにしろ隣国とは長年にわたって紛争を繰り返してきたわけだし、飛蝗(グラスホッパー)に暗示される盗賊も女戦士(アマゾン)も、そして魔人も本来は金で雇われる傭兵な筈で、主に農民で構成された反乱軍がやすやすと雇える金もコネもあるわけがないんだよね。

 そう考えると怪しいのは隣国で、そしてベルナデット嬢のラヴァンディエ辺境伯家はもともと隣国の一部だったところを、三十年前に統一王国へと旗幟を変えて認められたイレギュラーな領地だ。何かヒントがあるかも知れないと、あの時の歯車がそう囁いた気がした。

「――まっ、あくまで勘だけど」


 と、そんな僕たちのやり取りをニコニコと微笑ましいものを見るように眺めていた親父殿は、

「おいおい、若い者の青春を邪魔するほど無粋ではないけれど、危ない火遊びはほどほどにするんだぞ?」

 そう一言だけ注意を口に出したのだった。

11/16 モーニングスターにて書籍化決定しました。詳細は活動報告にて。

まだ発売日や絵師様については検討中だそうです。


11/17 更新が間に合いそうにないので11/18(土)12:00に更新いたします。

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