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犯人はこの場にいる!(かも知れない)

注意:この話は推理モノでもなんでもない(ぶっちゃけ作者に推理物を書く能力はありません)お馬鹿恋愛ファンタジーです。

真相についてはファンタジー的なご都合主義によるものなので、本格的なトリック等を期待されないようお願いいたします。

 ふう……。これでどうにかこの茶番劇を『学園内で生徒が巻き込まれた事故を、生徒会が主導して調査する探偵劇』という(てい)に持ち込めた。

 そう密かに安堵する僕。人前でなければハンカチーフを取り出して、冷や汗を拭っていたところだ。


 こんな綱渡りの状況で焦ったのは、錯乱した大巨獣(ベヒモス)を取り押さえた、その後でトチ狂ったロズリーヌ第三王女から物凄い勢いのアプローチを受けた時以来だろうか。

 あの時は、表ではルネが神殿とタッグを組んで防波堤となり、裏ではエレナとジーノたちが王国の暗部を向こうに回してスッタモンダの妨害工作を行い、さらには隣国の自治領にいる魔王(オニャンコポン)の耳にまで騒ぎが届いたものだから、さあ大変っ。

「たかだか第三王女如きが、妾の勇者に取り入るつもりであるか!!」と、激怒。

「え~~っ……」と、宥めに隣国まで足を運ばされた僕。

 形として『神殿』『勇者』『王女』『魔王』が出そろって、役満での四つ巴の最終戦争直前までいったんだよねえ(諸悪の根源が王女様というわけなので、表には出さなかったけど)。


 今回もまあ心底バカバカしいことに、客観的に見れば第一王子派が無駄に大騒ぎしているだけで、その実態は『クリステル嬢が階段で転んだ』というだけの迂闊な話だものなぁ。

 これって蒼陶国の諺にある『大山鳴動して鼠一匹』の状況じゃないのかな? いや、もっと適当な喩えがありそうな気がするけど、一家言あるルネはこの場にいないから微妙に物足りないなあ……と思うのだった。


 その当人(ルネ)だけれど、現在はエディット嬢ともども僕の指示に従って“証人”を連れてくるべく奔走しているところなので文句は言えない。

 ふたりが戻るまで、なんとか時間を稼ぐのが僕の役割だろう。


 一方でエレナといえば……時たま柱の陰や物陰でチラチラとスカートの裾が覗いているのが、わざとらしいというかあざといというか。

(段取り通りなら周囲に十八番(おはこ)の“糸”を使った結界は張って、それから追い込んでいるところってところかな? 意外と手間取っているっぽいな)

 左手が本調子でないせいか、案外手強いのか、或いは単に手を抜いて、シミーズの白をチラ見せすることで、ほんのり「うっふん♪」アピールしているのか……エレナの場合は判断に迷うところだ。

 

 ま、できればこんな小細工を労せず、無難に学園の教職員に後を任せて、この場にいるエドワード第一王子以下取巻き連中には解散して欲しいところなのだけれど、

『裏で策謀を巡らし幼気(いたいけ)なクリステル嬢をイビリ倒す、正に悪役令嬢たるアドリエンヌに正義の鉄槌を下す!』

 と、息巻いているこの連中に通り一遍の常識的な提案をしても納得しないだろう。

 そうなると、この場で事実との連中が納得できる結論を提示して、なおかつアドリエンヌ嬢が譲歩できるラインまで擦り合わせをしなければならないだろう。

 それもアドリブで。


(うわ~~っ、面倒臭え~~っ)


 そう思って事の元凶である第一王子に、思わず恨みがましい一瞥を加えてしまったところ、

「ん? なんだロラン、何か気苦労でもあるのか? 気のせいか厄介者を持て余しているような……まさか私のことではないだろうな?」

 なんで普段は鈍いのに、変なところだけは無駄に直感が鋭いんだろうなあ。


「いえ、とんでもございません。このような瑣事(さじ)で殿下の貴重なお時間を浪費するなど、本来であればあってはならぬこと。力及ばぬ我が身の非才さを憂いていた次第でございます」


 取って付けた言い訳に、エドワード第一王子は「そうか」と肩を竦めて見せてから、不意に目付きを鋭くして僕の底意を図るような表情になった。

「だが、いまの視線はそれだけではないだろう?」


 意味ありげな口調と視線に、まさか馬鹿の直感で僕が既に第一王子を見限ってアドリエンヌ嬢側に着いたその翻意を見破られたか!? と、内心大いに焦りながら、

「……と、おっしゃいますと?」

 しらじらしく白を切る。


「ふふん。ロラン、お前はいま俺を恨んでいるだろう?」

「まさか! そのようなことは……」

「ふん、白々しいぞ。わかっているさ。昨日、午後から帰ったお前を差し置いて、俺たちだけが医務室にいたクリステル嬢を見舞って、ねぎらいに対する礼の言葉を貰ったからな。出し抜かれたと思って恨んでいるんだろう?」


 俺はわかっているぞ、という自信満々の表情で思いっきり明後日の方角に考えを飛躍させる第一王子。

 うん。よかった。この人、直感は凄いけどそれ以外の部分が幸せに残念だったんだ。


「――ふっ、おわかりになりましたか」

 なので適当に合わせておく。

「ご明察でございます。私ひとりが蚊帳の外であったことに、少なからず気持ちが落ち着かないものを感じておりました」

「すまんな。なにしろ時間がなかったし……事を秘密裏に進めた方が良いという意見もあってな」

 そう口に出しつつ、ちらりと再び第一王子の視線がドミニクへと巡らされ、ドミニクはわざとらしくソッポを向いた。


(なるほど、これもドミニクの進言か。ご苦労なことだ……)

 そう察した僕が苦笑したのを不本意な苦笑いと判断したのか、決まり悪げに「悪かったな」と、鷹揚に王子様らしく謝罪も胸を逸らせて済ませるエドワード殿下。


 第三者が見たらとても謝っている態度ではないけれど、僕の知る限りこうして彼が陳謝の言葉を口にするなど、三年前に姉姫である第二王女の嫁入りのため一年がかりで編み上げたヴェールを破いた時と、五年前に弟であるジェレミー王子が愛用していたティーセット(国王陛下が下賜された国宝級)を割った時以来の快挙である。

 いちおうは最大限に配慮して、落とし前につけたつもりでいるのだろう。多分。


「勿体ないお言葉にございます。申し訳ございません。我が身の幸せは殿下の幸せ。殿下がクリステル嬢より感謝の言葉をいただいているのであれば、それは我が身にかかった幸福も同じこと。そのような臣下として自明の理も失念するとは……心より陳謝したします。まこと殿下のお言葉で盲が啓けた思いでございます」

 さすがは第一王子の取巻き(幇間(ほうかん)とも言える)歴十一年。我ながら呼吸をするように、無意識に太鼓持ち(ヨイショ)できる。そんな自分の口車が怖いわ。


 僕らのいつものやり取りに苦々しい表情をしているアドリエンヌ嬢と、訳知り顔でウンウン頷いて追従している他の取巻き連中。


「ふっふっふっふっ。流石は我が股肱(ここう)の臣よ。ならばわかっているだろう、その調子で俺に代わってこやつ等の罪を思い知らせてやれ!」

「承知いたしました。――そろそろよろしいでしょうか、アドリエンヌ公爵令嬢?」

 

 猿芝居と腹芸の準備は整っているかなアドリエンヌ嬢? と、言外に匂わせながら、改めて彼女と視線を合わせる。


「さて――」

「「…………」」

 続く僕の台詞を待って固唾をのんでいる第一王子(プラス取巻き連中)とアドリエンヌ嬢。

 全面的に自分たちの味方だと頭から信じて疑っていない第一王子たちは、当然、僕がアドリエンヌ嬢をやり込めるのを期待しているのだろう。

 アドリエンヌ嬢は、先ほどの台詞で僕が考えるこの騒動の落としどころを理解しているだろうから、ある程度腹芸にも応じてくれるだろうけれど、僕らに対する不信感が根強いのは想像に難くないため、理屈はわかっても理性よりも感情を優先する可能性がある。


 先日の〈ラスベル百貨店〉での遣り取り(一方的に罵られただけのような気もするけど)で、多少なりとも僕に対する感情がプラス方向に働いてくれればいいのだけれど……。

 そんな希望的観測とともに、僕はアドリエンヌ嬢から僅かに視線を外して、その背後で一塊になっている三人の御令嬢方を凝視した。


「これまでの双方の話を聴き、また、現場であるここを見て、僕は確信を持ったことがあります」

 頼むから僕を信じてくれよ。と、願いながら僕ははっきりとした口調で、御令嬢方を糾弾した。

「それは貴女方三人が嘘をついている。真実を偽証しているということです!」


「なっ――!?!」

 反射的に気色ばむアドリエンヌ嬢と、してやったりとばかり喝采を叫ぶ第一王子たち。

 時ならぬ喧騒が踊り場に巻き起こった。

次回の更新は、連休中に2回くらい行う予定です。

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おバカ恋愛ファンタジー好き。 この作品はとても面白いです。
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