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王子の取巻きAは悪役令嬢の味方です 作者:佐崎 一路

第一章

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えっ、信じていなかったの!?(ショックすわ)

 僕は真っ向から一刀両断された。

「完全武装した集団にステッキ一本素手で立ち向かっていくなど、正気の沙汰ではありません! お姫様を護る勇者気取りですか!? 本当に呆れ果てましたわっ!!」

 怒りに燃えるアドリエンヌ嬢の舌鋒によって、それはもうものの見事に真っ二つにされた。
 ルネもまた唖然としているところを見ると、彼女がこうして感情を剥き出しに激高するのは案外珍しいのかも知れない。

 確かに……学園や社交界でのアドリエンヌ嬢の評価といえば、『優雅にして高潔、崇高にして博愛精神に富んだ才色兼備の素敵お姫様』というもので、エドワード第一王子一派ですら、その外面の良さには文句のつけようがないほどであった。
 もっとも、
「いいのは見かけだけで、それも衣装や化粧、そして『公爵令嬢』という肩書きが実際よりも何倍も実物を美化しているだけに過ぎない。つまり雰囲気美人という奴だ」
 そう第一王子は必ず付け加えるのを忘れなかったけれど。

「貴方がやるべきはまずご自分の身の安全の確保であったはずです。公爵家の嫡男である貴方が、その背中に背負っているのは私たちではなく、もっと多くの領民であり国民であることにご自覚がないのですか? ないのですね!? だったら貴方はバカよ!」

 それがこれまで見たこともないほど怒り心頭で、頭から湯気を立てんばかりに怒り狂っている。

「もう一度言うわ。公子、貴方はバカなんですか!?」

 で、その怒りの矛先はなぜか僕なのだ。え、なんで? ちょっとだめ……まじやばい、と僕の中の良識が混乱している。

「この国の五公爵家の一角、オリオール家の嫡男である自身の立場をなんだと思っているわけ?! まさかか弱い婦女子を背中にして、最前線単独で犯罪者集団を迎え撃つ物語の勇者を気取ったわけ!? だったら本気でバカで身の程知らずとしか言いようがないわ!」

 百曼陀羅(ひゃくまんだら)言いたい放題だけれど、なぜ犯罪者集団ではなく、それを鎮圧した僕が非難されなければならないのだろうか?

 と、困惑しながら、エレベーターホールの片隅に、さながら糸の切れたマリオネットのような格好で、だらりと手足を投げ出すようにして転がる、巨漢の邪術師(ソーサラー)を筆頭にしたならず者たちと、連中を一カ所に集めて武器と防具を回収しつつ、手早く拘束しているジーノに助けを求めてアイコンタクトを送るも、
『若君、淑女(レディ)を相手に間違っても不機嫌な顔をしてはなりませんぞ』
 無言で肩をすくめるジーノの穏やかな笑みが、無慈悲に僕の救いを求める手を跳ね除ける。

 やむなく現状を打破するため、カチカチなる歯車の音に合わせて、僕は頭の中で再度現状を整理してみた。

 つい数分前に、戻ってきたジーノと(地下の爆弾を確認していたらしい。結果やはり単なる砂袋をそれっぽく見せかけたハッタリで、連中の仲間がふたりいたので処理したとのこと)ふたり、耳を塞ぎながら十人のならず者たちを速攻でほぼ瞬殺(辛うじて殺してはいない)した僕たち。

 あまりにあっさりと解決したことに唖然としているルネとエレナ以外の全員を誘導して避難させ、僕たちは後始末という名目でこの場に残っていた。

 おそらくはいまごろ店の外では、さきほどまで人質になっていた店長と、おっとり刀で最上階から降りてきたラスベード伯爵家のご当主が、胃の痛みに耐えて官憲相手に事情説明をしている最中だろう。
 なにしろ〈ラスベル百貨店〉開業以来の未曾有の大事件だ。
 人質に犠牲が出なかったのは不幸中の幸いだけれど、事件があったという風評被害だけでも大惨事だろう。今後の警備の見直しや百貨店内の店舗への補填。人質になっていたお客たちへの対応。そしてなにより、成り行きで巻き込まれた僕ら――王族に次ぐ二大公爵家(『血統のジェラルディエール』と『伝統と栄光のオリオール』……ただし、栄光は過去のもので現在は風前の灯)の子息、ご令嬢が、一時的にとはいえ危険な目に遇ったのだ、オーナーであるラスベード伯爵家に莫大な補償金が請求され、下手をすれば伯爵家はお取り潰しで、資産は国で徴収ということにまで発展しかねない。

 我が国の税収の三割を担っているラスベード伯爵家がお取り潰し。営業している商会や工場もすべて、何のノウハウもない国の直営となる。そんな事態になれば統一王国の屋台骨が揺らぐこと請け負いだ。

 本来そうならないよう水面下で活動する筈が、結果的に僕がトドメを刺して介錯までしちゃ本末転倒もいいところだろう。
 そんなわけで、このことは内々に処理することで(さすがに王家には報告しなければないらないだろうけど)、ラスベード伯爵家のご当主とも示し合わせて、僕たちはこの場にはいなかったことにした。
 幸い人質には僕たちの家名は明かしていないので、いくらでも誤魔化しようはあるだろう。

 ということで、現在は少数の護衛を残して、閑散としたエレベーターホールでアドリエンヌ嬢と思いがけなく腹蔵なく話せる絶好の機会を得たわけだけど、歯に衣着せぬアドリエンヌ嬢はとにかく終始一貫して喧嘩腰だった。

「きょろきょろしないでください! もしかして『こうして怪我ひとつなく連中を倒して、無事に人質も解放できたので、結果的に間違っていなかった』とかお思いではないでしょうね?!」

 いや、お思いですが。辟易しながら無言で肩をすくめて肯定する。

「……馬っ鹿じゃないの! そもそも前提が間違っているわ。公爵家の嫡男である貴方がすべきだったのは、まずは自らの身の安全です。それを粋がって矢面に立つなど無謀であり浅慮だと言っているのです!」

 ピシャリと言い切るアドリエンヌ嬢
 対面に立つ彼女の身長は、目測でヒールを加えても僕より頭半分くらい低いように思えるのに、まるで上から圧し掛かってくるような妙な迫力があった。

(……あー、うん、言っていることは正論だと思うし、理不尽な怒りではないのが救いだけれど、こう上から目線で言われると反発したくなる気持ちもわかるなァ)

 と、図らずしもエドワード第一王子の心情が理解できてしまう今日この頃。
 第一王子(アレ)もこの調子でポンポン言われて、やさぐれてしまったんだろう。基本ヘマをして注意されても『(たしな)められるレベル』で十七年間生きてきた人間だから、煽り耐性なんてあるわけないから、それでクリステル嬢へ逃避して、そこから反発心が憎しみに変わったてところだろう。ま、完全な八つ当たりで同情の余地はまったくないけど。

 そんな僕たちの様子を窺いながら、
「わたくしとしては、一瞬でならず者たちをステッキで昏倒させたお義兄様は、凛々しくて見惚れてしまいましたけれど……」
「そーですね。助けられた人質の御婦人たちも、助かった瞬間から潤んだ眼差しで若君を眺めてましたし」
「そんなに仲がお悪いのでしょうか、お義兄様とアドリエンヌ様は?」
「さて? 何にしても、勇者が助けたお姫様から面罵されるとは、つくづく生き辛い世の中ですねえ」
「まったくですわ」
 ルネとエレナが囁き合いながら、揃って「はあ~っ……」と嘆息する。

 で、僕の耳に聞こえたということは、当然アドリエンヌ嬢にもその内容は届いたということで……。

「ふたりともなにを気楽なことをおっしゃっているのですか!? たまたま反射的に掲げたステッキで剣を弾くことができ、相手の剣が折れた先がたまたま連中の仲間の足に当たり転んで、殺到していた後続も足を取られてタイミング良く昏倒をした――すべて偶然の産物ではないですか!!」
「いや、それは僕が狙って」
「まさかこれを『全部狙ってやった』などと? 王家の剣術指南や親衛隊長でもない貴方が?」
「…………」

 いや、確かに並べ立てられると嘘くさいとは思うけど、事実は事実なんだよねえ……。
 とは言え、ここでうだうだ自分の手柄を誇示するのもみっともないし……と黙り込んだ僕の代わりに、ルネとエレナが控え目にアドリエンヌ嬢にもの申した。

「――あ、あのアドリエンヌ様、それは偶然の産物ではなくてすべてお義兄様の技量によるものですわ!」
「はあ~っ……ルネ様。貴女が常日頃から義兄であるオリオール公子を慕っていることは理解しています。ご家族仲が宜しいことは喜ばしいことですが、妄信は良くありません。時には一歩引いて対局を見ることも必要なのですよ」

 振り返って優しく微笑むアドリエンヌ嬢に、「ああ、どう言ったらお義兄様の非常識さがご理解いただけるのでしょうか……」と、頭を抱えて呻くルネ。

 それでも果敢に反論する。
「あのですね、お義兄様はエドワード殿下と幼い頃から親しくされているのは、十歳の時に殿下を狙った暗殺者(アサシン)五人を返り討ちにした逸話があるためで……」
「そんな馬鹿な話があるわけはないでしょう。子供が職業暗殺者五人を討ち取るなど。そんな話があれば大騒ぎですわ」
「そ、それはそうなのですが、大の大人の護衛が役に立たずで、十歳の子供が殿下をお守りしたなどと知れては王家の恥なので、公には秘匿されているだけで……」

 段々と話しているうちに尻つぼみになって、最後に「公然の秘密で知っている人は知っているのですけれど、アドリエンヌ様はご存じないしょうですね……」と、ルネは肩を落として力なく付け加えた。

「あ、では五年前の隣国であるドーランス魔王領で起きた、大公爵の反乱事件については?」
「ああ、確かクーデター以前に外人部隊によって鎮圧されたものでしたわね」
「いや、実は当代の魔王と聖教徒大神殿から極秘に依頼があり、秘密裏に若君が……」
「――はっ!」

 エレナの暴露話を鼻で笑って一笑に付すアドリエンヌ嬢。あー、うん、あれは国家機密扱いなので概要を話すだけでも罪に問われるからやめようね。

「う~~、ではでは、一昨年、王都で見世物にされてた大巨獣(ベヒモス)が暴れて、たまたま見物にきていたロズリーヌ第三王女様の危機を救った話はどうですか!? 確か新聞にも載っていましたよね!」
「ああ、ロズリーヌ王女とロラン公子の熱愛とか、巷を騒がせた醜聞ね。あれってゴシップ紙の捏造ってことで決着がついているんじゃなかったのかしら?」
「あ~、そ、それは、ロズリーヌ王女様がお義兄様に首っ丈になってしまい、一方的に隣国の王子との婚――むぐっ!」

 『婚約破棄してストーカーと化し、現在病気療養中ということで隔離した』とか、いま話題に出すのは危険な王家の恥部をうっかり口走りそうになったルネの口を、素早くエレナが両手で押さえて黙らせた。
 そういえば先に妹姫であるロズリーヌ第三王女が暴走しているんだよなぁ。あの兄妹の頭の中身はいったいどうなっているのだろうか?

「……婚約がどうかされましたの?」
「あ、いえ……あ、そうそう! さすがに王都剣術大会四年連続の『絶対王者ロラン』のご高名は御存じかと思いますが?」

 適当にはぐらかしながら、おまり表立って吹聴してほしくない、微妙にこっ恥ずかしい二つ名を出すエレナ。

「ああ、それは存じ上げておりますわ。確か前回の大会では、カルバンティエ子爵家のアドルフ様が二位、レーネック伯爵家のフィルマン様が三位で、表彰台をエドワード様の派閥関係者が独占されたとか」

 アドリエンヌ嬢がそれがどうしたと言わんばかりの尊大な態度で頷いた。
 あ、これ出来レースだと思っているって事!?

「表彰台のお三方にメダルを掛けられたのはエドワード様でしたわよね? さぞかに晴れがましいお気持ちでしたでしょうね。ご自分の腹心たちが表彰台を独占されて。それに、殿下をはじめ皆様見目がよろしいので、ずいぶんと栄えて盛り上がったと窺っております。私は剣のことは門外漢ですが、二百年も続く伝統のお祭りですので当然の配慮だと思いますわね」

 ああ、祭りの一種だと思っているのか。そりゃ、いまどき剣術なんて一般には趣味か儀礼用となって、形骸化しているのも確かだけどさ。

「まあ、確かにあれのお陰でエドワード殿下の名声と支持層が強化されているのも確かですけれど……」
美男子(イケメン)揃いなのも確かですけどね」

 顔を合わせて頷き合うルネとエレナ。
 そんなふたりの会話を聞きとがめたアドリエンヌ嬢は一言、
「他の方々はともかく、エドワード様のあれはそう思えるだけの錯覚です。言うなれば雰囲気美男というものですね」
 どこかで聞いたような評価を下したのだった。
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