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王子の取巻きAは悪役令嬢の味方です 作者:佐崎 一路

第一章

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王子は婚約破棄を決めたようです(アホや)

いちど書いてみたかったので(`・ω・´)
「もう我慢ならん、私はアドリエンヌとの婚約を破棄する! そしてクリステル嬢との真実の愛を貫くっ」

 エドワード第一王子の宣言に、一瞬静寂に包まれたオルヴィエール貴族学園にある王子の専用サロンだったが、次の瞬間どよめきと、そして満場の喝采が炸裂した。

「そのとおりでございます、エドワード殿下!」
「親同士が決めた婚約などという旧弊の因習に囚われるなど愚の骨頂!」
「まして、親の権力を傘に着て可憐なクリステル嬢を貶めるアドリエンヌなど!」
「あの悪女め。今日も侍女を通じてエドワード殿下に近づかないよう、クリステル嬢を脅したらしいぞ!」
「またか! 先日は俺の許嫁であるエディットとグルになり、クリステル嬢と俺たちを会わせないように仕向けたというし」
「私の婚約者であるルシールも、すでにあの悪女に篭絡されているらしい。くどくどと文句ばかりつける!」
「同じく。俺のところのオデットも、もうクリステル嬢には近づくな……などと俺の行動を掣肘しようとする。これもアドリエンヌの差し金だろう!」
「そういえば、僕の従兄妹で義妹のルネなど、先日アドリエンヌ公爵令嬢の茶会に招かれたとかで、それ以降やたらこちらの動向を窺っている様子ですね」
「さもありなん! 言うまでもなく、あの姦婦の差し金であろう」
「もう我慢ならん! いかに枢密院議長の娘で公爵令嬢であろうと、アドリエンヌの専横を赦しては……まして、将来の王妃になどつければ、どれほどの国の損失であろうか! エドワード殿下、我らは殿下のご決断を心より支持いたします!!」
「「「「「その通りっ!!!!」」」」」

 このサロンに集まっている六人の高位貴族の子弟たちが、口々にエドワード第一王子への支持を表明した。
 ちなみにメンバーは、オルヴィエール統一王国の伯爵にして外務大臣の嫡男であるドミニク。同じく伯爵で軍務長官の息子のフィルマン。王国内でも五本の指に入る大領主である侯爵家の長男エクトル。代々近衛騎士団長を輩出している子爵家の次期当主アドルフ。王国ではほとんど唯一と言っていい港湾都市を抱える子爵家の直孫マクシミリアン。そして、最後に王国において王家に匹敵する血統を誇る公爵家の嫡男である僕――ロラン・ヴァレリー・オリオールという、肩書きと……そして自分で言うのもなんだけど、見た目に関しても美男子ばかりというそうそうたる面子である。

 それはそれとして、他の連中と一緒にエドワード殿下を追従(ヨイショ)しながら、僕の頭の隅で『カチカチ』という、歯車が噛み合わないような不快な感覚を覚えていた。

 この音は物心ついた時から時たま聞こえるもので、思いがけない瞬間や決断に迷った時など、なにか僕以外の誰かもうひとり……僕よりももっと思慮深くて大人な僕が、傍らで齟齬を指摘しているような、そんな感覚なのだった。
 ま、そんなことを口に出したら悪魔憑き扱いされる可能性があるので、親にも話していないし、そもそも感覚的なものなので説明のしようもない。
 その音に急かされるような気がして、僕はふと疑問に思ったことを口に出していた。

「しかし、アドリエンヌは仮にも公爵令嬢。まして、その父親は枢密院議長。殿下の婚約は国王陛下もお認めになった正式なもの。そう簡単に破棄できるものでしょうか?」

 しかし、ここで真っ先に口を開くとか、物語だったら確実に『王子の取巻きA』って役どころだろうな……。まあ、仮にも王子を除外して身分的に一番高い僕が口火を切らないことには、他の連中はなかなか王子と一対一では会話のキャッチボールができないだろうからしかたがない。

「ロランの懸念ももっともだ」
 重々しく縦に頷くエドワード第一王子。

(いや、懸念じゃなくて当然の疑問なんですけど)
 カチコチという音が脳裏で平坦に響く。

「だが、いかなる障害があろうとも、私はクリステルとともに乗り越える所存である!」

(うわ~~~っ。この王子会話にならねえ!!)
 カチコチ音が途端騒々しく不協和音を奏で、僕は思わず頭を押さえそうになるのを必死に堪えた。

(つーか、クリステルって男爵令嬢だろう? 普通に考えて、公爵令嬢との婚約を破棄して結婚したら、貴族社会では笑いものだろう? クリステルだって社交界から絶対ハブにされるぞ)
 カチコチという音が抗議するかのように長く長く掻き鳴らされる。

「つまり、正式に国王陛下にアドリエンヌ公爵令嬢との婚約を破棄し、クリステル男爵令嬢と改めて婚約したい……と、願い出られるというわけですか?」
「アドリエンヌに『公爵令嬢』などとわざわざつける必要はないぞ、ロラン」

 いや、貴方がわかっていないみたいなので、わざわざ強調したのですが。

「実はその件については何度か父上、母上にも何度かお願いはしているのだが――」
 憂い顔になるエドワード第一王子。
 対照的に僕はちょっと感心した。こういう行動力というか爆発力は僕にはないものだなぁ、と。
「……色好い返事はいただけなかった。『馬鹿を申すな』と一言のもとに捨てられ、取り付く島もない状況だ」

(当然だわな。息子がポンコツでも親はまともだったか)
 カチコチ音が多少は収まった。

 まあそうでしょうね。この国の国王は絶対王政ではなく『オルヴィエール統一(・・)王国』という名からもわかる通り、多数の領主貴族の寄り集めに過ぎず、国王も立場的には一領主であるのだ。
 それは確かに国の代表者であり、領主たちの忠誠を受け、国政の最終決定者ではあるけれど、つまるところそれだけである。

 国政については、国の諮問機関である枢密院が運営して、各領主の領内のことについては領主の裁量に一任されている。国王はその上に立つお飾りに過ぎず、その権力基盤を強固にするために、各有力領主と血縁による繋がりを持ち、政治機関である枢密院を尊重しなければならない。
 そういう意味で、アドリエンヌ公爵令嬢との結婚はいろんな意味で必須であるはずなんだけれど、それを個人の好き嫌いで反故にしようとか、正気か、この見た目だけイケメン王子は!?

 ガチャリ!!

 と、一際大きな音がして、僕と歯車の思惑がようやく一致した気がした。
 同時に、熱に浮かされていたような狂想――クリステル男爵令嬢を天使か女神のように崇拝し、同時に可憐な花を庇護し、命をかけて見守ろうという一途な思い――が、一瞬にして色褪せて崩れ落ちる。

 なんで僕、あの子に拘ってたんだろう? 百歩譲ってエドワード殿下が恋をしたとして、僕には関係ないよな。

 と、正気に帰ったのは僕だけで、周りはいまだに狂乱状態で盛り上がっている。

「ならば行動に移すべきです! 公衆の面前……いや、さらに陛下たちの御前で、エドワード殿下とクリステル嬢が愛を誓え合えばよろしいのでは?」
「いや、それだけでは奸賊であるジラルディエール公爵家(アドリエンヌ嬢の実家。ちなみに同じ公爵家でもあちらは王族と血縁関係が多いので家格はウチよりも一枚上)に握り潰される恐れがある」
「それすらも及ばない決定的な悪事の証拠。アドリエンヌがクリステル嬢を落としいれよう、排斥しようとした証拠を並べて告発すればいいのでは?」
「それは妙案だ! なあ~に、所詮は女の仕業、すぐに証拠は山ほど集まるに違いない」
「しかし、下手に藪をつつくと関係する貴族の利権や、人間関係に付随して僕たちの許嫁にも連鎖的に話が波及すると思うけど……」

 だから止めろ、と含みを持たせての僕の発言に、王子も含めた他の連中が一斉に破顔した。

「それこそ本望よ! クリステル嬢を苦しめ虐めた連中全員に引導を渡してくれる! 俺たちも殿下とともに互いの婚約者どもに婚約破棄を突きつけてやろう!」
「「「「「異議なしっ!!!」」」」」

 もの凄く異議も異論もあるけれど、王子の取巻き筆頭Aとしては、ここで周囲に迎合しておかないと、下手をすれば……いや、120%。裏切り者としてこの瞬間から敵視される。
 ここはとりあえず今までと同じように振舞わなければ。

「では、決行は半年後。国王陛下や太后陛下、国内の有力貴族に加えて諸外国の要人も集まる、卒業パーティの会場とする! それまでに証拠を集め、逃げも隠れもできないところで宣言してやろう。皆、私とクリステル嬢のために協力してくれ!」
「「「「「無論でございます、殿下!」」」」」

 軽く頭を下げたエドワード第一王子に、全員が(どよんと澱んだ目の僕を除いて)キラキラと輝く瞳で応じる。
 身内だけならともかく、有力貴族や諸外国の要人がいる場所で『僕ら馬鹿でーす!』と、自己紹介するのか……本気で取り返しがつかないぞ、おい。

「とはいえそれまでの間、各々が先走ったり不審な行動をとって尻尾を掴まれるわけにはいかないので、全員いままで通り、関係者や婚約者の令嬢方々に対応されるべきでしょう」
 それでも少しでも傷口を少なくするために、僕は一言釘を刺しておくことを忘れない。

「うむ。ロランの言うとおりだ。短慮はいかんぞ。各自、厳に慎め」
 したり顔で頷きながら、仲間たちに念を推すエドワード第一王子。

 どの口が言うか~~っ!? 鏡みろや~~っ!!
 と、ツッコミたいのを堪えて、僕も他の面々と同じく表面上は殊勝な顔で頷き返した。
8/18 ローランがロランと被るのでアドルフに変更しました。
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