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辺境のオールド・ルーキー  作者: 道 カズト
第一章 二人のルーキー
2/4

002(改訂版)

— 2 —


 ギルド受付前に設けられたラウンジに、周りの目を引く男女が座っている。ルクスとシオンだ。

 理由は二人がつけた白の認識票(タグ)が半分。もう半分はシオンの容姿によるものだ。最下級の認識票を三十代の男が着け、更に美しい娘を連れているとなれば否応なく人目を引く。


「注目の的だな俺達は」

「白の認識票はルーキーの証。そんな物を先生の歳で着けていたら、目立つに決まってるじゃ無いですか」

「それもそうだ。でも俺にはそれ以外の視線も感じるがな」

「不快な視線である事に違いはありません」

「厳しいな、お前は」


 ベルクヘルトに着いた二人は、この街で冒険者登録を行った。

 二人にとって意外だったのは、冒険者登録して直ぐに仕事が出来るわけではなく事前の研修があった事だ。依頼の受け方から完了報告までの流れや、冒険者としての心得・ルールに至るまで、しっかりと講習を受けた。認識票は昨日の講習が終わった際に支給されたが、最後の研修が本日あるらしく、二人は教官を待っている。


「今更ですが、何故この街だったんですか?

 私はてっきり王都に行くものかと思ってました」

「俺も最初はそう考えてたんだが、シオンに金の管理を指摘されて考え直したよ。

 王都の物価は辺境の街に比べて高い。資金の元手が心許ない中で、王都を拠点とするのは厳しいだろう。

 考えてみれば、冒険者に成るだけならわざわざ王都に行く必要はないし、この街でいいと思ったんだよ」


 先ずは冒険者になる事。それが目的であり、何処で冒険者になるかは重要ではないとルクスは説明する。

 そのこと自体はシオンも理解していた。しかし、立ち寄った街でギルドを見学するといい出し、結果そのまま登録まで進めてしまったときは流石に驚いた。いくら何でも唐突過ぎるように思えたのだ。

 シオンは考える。目の前でタバコを吸う(ルクス)が自分の考えを曲げた理由を。


「まさかとは思いますが先生。あの受付嬢を見て決めた。なんて事はないですよね」

「素晴らしい着眼点だ。確かにそれは重要な要素だな。

 何せこれから冒険者として頻繁に顔を合わせるんだ。受付嬢の容姿が良い事に越したことはない」


 まるで今気付いたとばかりに言うルクスに、シオンは冷めた視線を送る。

 しかしそんなシオンの視線などどこ吹く風。ルクスは変わらぬ様子でタバコを吸う。

 これ以上の説明はないと諦めたシオンは、自分のコーヒーに手を付ける。


「何はともあれ、今日の研修が終われば正式に冒険者だな」

「冒険者と言う意味では、認識票を受け取った時点でそうなのではないですか?」

「いや、それはちょっと違うだろう。認識票をよく見てみろ。何か違和感がないか?」


 言われて認識票を見る。最初は気づかなかったが、言われてみると確かに認識票としてはおかしかった。


「名前が、無い」

「気付いたか。認識票なのに名前が無いなんて変だろ。

 言ってみればこれは仮免だろう。研修を終えて初めて名前が刻まれるって訳だ」

「なるほど。ですが、何のために?」

「それはおそらく」

「それは、冒険者としての資質を確認しているんですよ」


 割り込んできた声にルクス達が振り返ると、そこにはギルドの制服を身にまとった少女が居た。

 制服のショートパンツからのぞく足は健康的でとても綺麗だ。

 

「こんにちは! 本日あなた方の研修を担当する、シア・ハーネストです」

「こんにちは。俺はルクスだ。よろしく頼む」

「シオンです。本日は宜しくお願い致します。

 あの、先程の資質の確認とは何のことですか?」

「それは移動しながら話しましょう。準備は出来ていそうですね」


 ルクス達は軽装ではあるが防具を身に纏い、ルクスは剣を、シオンは短弓を装備している。

 二人ともショルダーホルスターにはナイフをサブの武装として携えている。

 シアは満足気に頷くと、そのまま二人を伴ってギルドを後にした。


 今回の研修は、ベルクヘルト東の街道にある森林地帯【ヴィリスの森】の安全調査を行う事。

 東の街道は王都との貿易ルートとして重要なものであり、魔獣や盗賊などが住み着いていないかベルクヘルトの議会からの依頼で調査を行なっている。調査は定期的に行なっているため、突然大きな変化が起きることはなく、ある程度の安全性はあることから冒険者のルーキー用に研修任務としてよく使われている。

 今回も例に漏れず、という事だった。

 道中シアからそんな説明を受けながら、三人は東の街道を馬車で移動していた。

 

「馬車で移動と意外だな」

「これも研修の一環です。通常は移動手段も自分で確保頂きます」

「……なるほどね。これは運び屋との顔合わせも含まれてると言うことか」

「そういうことです」


 移動手段は重要だ。時には他の街に。時には狩場に。時には秘境の入り口に。駆け出しの冒険者には機動力という面で運び屋を頼りにする事が多い。そのため、研修時には必ずギルドお抱えの運び屋を紹介している。


「ところでシアさん。そろそろ先程の話をお聞きても良いですか?」

「ああ、そうでしたね。

 仰々しく資格なんて言いましたけど、実際はちょっとした引っ掛けみたいなものですね」

「引っ掛け?」


 聞き返されたシアは少し困った様に笑うと、その意図を説明する。


「冒険者になる方って、血気盛んな方が多いんですよ。

 中には認識票を受け取ったらすぐに魔獣の討伐に出たり、秘境探索に出たりする方もいて。

 そんな方々は大抵ろくなことになりませんので、ギルド側で監督対象にしているんです。

 その判断の一つが、その名前のない認識票です。

 名入れがされていない。つまり、まだ正式な冒険者になっていない方が勝手に活動を始めた場合、ギルド支部長が直々に厳重注意と共に追加研修を行うことにしています」


 ギルドの受付では必ず認識票の提示が求められるので、その時に受付担当が確認しているらしい。先走ったルーキーにはギルドからペナルティが付けられると言うことだ。

 シオンは成る程と理解を示す一方で、この方法に疑問を呈する。


「先走る方の自業自得ではありますが、敢えてそのように誘導しているようにも思えます。

 場合によってはギルド側の説明不足などの落ち度にも捉えられますので、ペナルティを受けた冒険者が素直に受け止めるものでしょうか?

 むしろ反発心などを買い、抑止が難しくなるケースも有り得ると思いますが」

「痛いところを突かれました。

 おっしゃる通り、この方法が必ずしも意図した結果になるとは限りません。

 殆どの方は受け入れてくれていますが、結果としてギルドに対して不信感を持つ方もいると思います」

「では何故?」

「シオン、それは過ぎた発言だぞ。ハーネスト教官がお困りだ」


 組織にはルールがある。そしてルールには意味がある。

 シオンは純粋に疑問を投げ掛けていただけだが、踏み込み過ぎれば不穏分子に捉えられかねない。

 答える側もまた同じだ。下手な発言は自分の立場を危ぶませる。

 大げさではなく、ギルド程大きな組織に所属するのであれば留意すべき事だ。

 それを理解したシオンは、己の行動を改めた。


「失礼しました。一介の新人が口にする事ではありませんでした」

「き、気にしないで下さい!

 この件については特段重要な話ではありませんので。

 でも、これがトラブルの元になった事はほとんどないのでご安心を。この辺りは支部長の人柄と言いますか、処理が上手いんです」


 シオンの質問にどう回答しようかと考えていたシアは、突然の救いの手に感謝しながら話を切り上げる。

 微妙な空気で沈黙する中、シアはチラチラと二人の様子をうかがう。

 シアはこの二人を今までの新人とは違うと感じていた。

 落ち着いた物腰。会話の節々から理解する能力。そして組織に属することへの意識。とても新人の域ではない。

 もしかして二人は元傭兵か何かだったのだろうか。そんなことを考えたところで、シアはルクスと視線がぶつかる。

 

「どうかしたか?」

「ああ、いえ。お二人があまりにもしっかりされているので感心していたんです」

「おいおい、三十超えたおっさんに対して言うことか?」

「先生の場合、見た目がだらしなさそうですので、ギャップを感じたのでは?」

「……本当に厳しいな、お前は」


 シオンの辛辣な言葉にも飄々としたルクスではあるが、そんな二人のやり取りに、慌ててシアがフォローする。


「そ、そうではなくて、冒険者としてという意味です。

 シオンさんは私と同じ年なのにすごく落ち着いていますし、ルクスさんも注意深く察しがいいものですから思わず。

 久しぶりの新人の方なので、やるぞーっと気合い入れてきたんですけど、お二人にはこの研修自体必要なさそうな気がしてきました」

「これでもそれなりに生きているからな。ある程度のことは気付きはするさ。

 それより、ハーネスト教官はシオンと同い年だったのか。それこそ若いのにしっかりしている」

「先生。それは何か私に対しての含みを感じるのですが」

「お前は考えすぎだ。いちいち俺の言うことに突っかかるな」


 先程と同じような二人のやり取りに、シアは思わず笑ってしまった。

 言葉はきついながらも、これは二人なりのじゃれ合いなのだと何となく理解したからだ。

 短い時間ながらも新人二人のことが少し理解してきたシアは、肩の力が抜けるのを感じた。

 アリアには張り切って引き受けたが、自分よりだいぶ年上の男性に対して研修を行うことにどこか緊張していたようだ。

 

 その後の道中は、シアによる冒険者としての心得講座が続いた。事前の講習で受けている内容もあるが、シアの経験上の話が加わっており、二人はそれを興味深く聞く。

 そして、シアの講座終わるころにようやくヴィリスの森が見えてきた。


「さあ、もうすぐヴィリスの森に着きますよ!

 お二人にとっては、これが冒険者として最初のクエストです。

 最後まで気を抜かず、頑張りましょう!」


 シアの掛け声とともに、ルクスとシオンの冒険者としての人生が始まった。

読んでくれた方、ありがとうございます。


本話は移動だけ(汗)

もう少しテンポよく進めたいのですが、今の私の能力はこれが限界です。

説明など、くどいですかね?


良ければ、またお付き合いください。

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