001(改定版)
一部設定の見直しにより、修正しています。
(修正すら亀更新。。。)
— 0 —
「昨日、ヨシュアが新しい家族に引き取られたよ」
小さな墓石の前にかがんで、男が語りかける。
タバコを一本取り出し火をつけると、深く吸い込む。
男は三十代半ばくらいだろうか。タバコを吸う姿は様になっている。
「これで、この孤児院に残った子供はいない。みんな新しい道なり、家族を見つけたよ。
あんたとの約束は果たしたぜ、爺さん」
そう語りかける男の顔はどこか寂しそうで、でも清々しさが感じられる。
「先生」
呼ぶ声に男が振り返ると、パンツスーツ姿の美しい娘がいた。
背中まで伸びた黒髪を一房にまとめ、凜とした雰囲気を持つ娘だ。
手には大きなバッグを持っており、彼女もまた何処かへ旅立つのだろう。
「今日で孤児院は閉鎖だ。
お前には最後まで手伝ってもらって感謝しかない。
だが、今年で成人の儀(十八歳)を迎えたお前はここを卒業だ。
まあ長く居た分、他の奴らよりも俺の趣味に付き合ってもらったからな。
今のお前なら、傭兵でも王国騎士団でもやっていけるだろう」
「それ、どっちも女の子に勧める職業じゃないですよ」
「あー……」
その切り返しに、男は気まずそうに頭をかく。
「……先生は、これからどうされるのですか?」
「さあな。俺も食って行かなきゃならんから、まずは新しい仕事でも探すさ」
「そんなこと言って、もうやる事は決められているのでしょう」
言われて男は一瞬呆けた顔をするが、すぐに口元を緩めた。
「そうだな。折角だし、俺は趣味を続けるさ。差し当たっては、【冒険者】ってやつになるか。
ルーキーって歳じゃないが、趣味を続けるにもちょうど良さそうだ。
何か面白い事が見つかるかもしれないしな」
「そう言うと思ってました」
娘は手にしていた大荷物を男に差し出す。よく見れば、娘はその背にも大きなリュックを背負っていた。
娘の意図を察し、男は危うくタバコを落としそうになる。
「お前、まさか」
「冒険者はチームが基本です。でも、三十過ぎのルーキーに付き合ってくれる酔狂な人なんて普通いません」
娘の言う通りだ。一般的に冒険者を始めるのは十代後半から二十代前半がほとんどで、三十過ぎてからなる者は殆どいない。いても傭兵上がりか元軍人などの実績があり、自分のチームを持っている。そのどちらでもない男が冒険者になったとして、相手にされないのは明らかだ。
「それに、お金にだらしが無い先生が一人でまともな生活が出来るとも思えません」
「厳しいな、お前は」
だが言葉とは裏腹に、その表情はお互いに楽しそうだった。
「分かった。一緒に来るか【シオン】」
「はい。【ルクス】先生」
— 1 —
ある者は剣を、ある者は弓を、ある者は杖を、ある者は銃を。
己が誇る力の象徴を携えた者たちが集うここは【冒険者協会】通称【ギルド】。
掲げるシンボルは「開かれた扉と光」。それは何人も拒まない中立性と希望を表している。
活動内容は、政府や民間からくる魔物・魔獣退治や要人護衛などを主な資金源にしているが、一部では個人・チームがテーマを持って活動しており、独自の功績をあげることで国からの報奨金などを得て活動している者もいる。
【セリアム王国】に属する辺境の街【ベルクヘルト】にもギルド支部がある。
そこのギルドの受付に、女性が一人訪れた。
幼さを残した顔立ちながらも、身に纏ったギルドの制服から、彼女が関係者だと分かる。
「こんにちは、アリアさん。今回の調査報告に来ました。今いいですか?」
「お疲れ様です、シアさん。もちろんですよ」
受付嬢のアリアは自分の窓口にCLOSEの札を立てると、シアと呼ばれた彼女と共に奥の部屋に入る。部屋は小さな打合せスペースになっており、向き合って座れる椅子と机が用意されていた。
二人は席に着くと、早速報告を始める。
内容は、昨日冒険者から報告があったトロール討伐の事実確認だ。
ギルドでは魔獣討伐の際は証拠として、体の一部または魔獣の体内にある魔鉱石を提出することになっている。基本的にはそれで完了なのだが、時に不正の申告をする冒険者もおり、可能な限りギルドが調査員を派遣して確認している。
シアはギルド直属の調査員の一人であり、今回は民間人への被害影響から、確実な討伐確認が求められたため調査員として派遣された。
「昨日冒険者チーム【西風の牙】から提出されたトロール討伐報告について、報告にあった場所でトロールの死骸を確認。状況からして昨日討伐された事は間違い無さそうです。死骸は放置すると他の魔獣を呼ぶ可能性があるため、焼いておきました。詳細はこちらのレポートにまとめています」
提出された資料を、アリアは素早く目を通す。
そこには現場の状況や、トロールの大きさなどが詳細に記載されている。その資料についてアリアが質問し、シアが答えること数回。滞りなく報告は進む。
「ありがとうございます。こちらの内容で受理いたしました。これなら西風の牙の方々を【翠】への昇格審査に出せそうです」
「おお。あの人達もついに翠ですか」
「審査に挙げるだけで、まだ昇格が決まった訳では無いですけどね」
冒険者のランクは、ギルド証とは別に与えられる認識票で分けられる。
認識票には五色あり、「白→蒼→翠→紅→黒」の順番でランクが高くなる。ギルドに所属している冒険者のほとんどは白か蒼。高ランクになるに従いその数は減り、黒に至っては現在三名のみである。辺境の地を拠点にする高ランクの冒険者は居らず、実質的に翠が最高といってもいい程だ。
「何はともあれ、本件はこれで完了です。
シアさん、事後調査お疲れ様でした。後の処理はこちらで引き継ぎます」
追加調査の必要も無く、アリアが報告書に受領の押印をして報告は完了した。
普通であればここで解散となる。アリアもそのつもりで席を立とうとしたが、目の前に座るシアが動かなかった。
こうしてシアが居座る事はよくある。と言うかほぼ毎回である為、彼女が何を待っているかアリアは察していた。
アリアが態と気づかないフリをして出ていこうと考えたところで、シアが先手を打つ。
「アリアさん。次のお仕事をください」
その声は個室内によく響いた。
続いて、アリアのため息が小さく響く。
「シアさん。今回の調査任務で貴方はこの三日で五件目の調査です。現在緊急性のある任務もありません。
外での調査が終わったばかりなんですから、ゆっくり休まれてはどうですか? 体調管理も大事な仕事ですよ」
「お気遣いありがとうございます。でも今回は調査だけで戦闘行為はありませんので、体力に問題はありません。
有り余った体力で家でゴロゴロしているよりも、次のお仕事をした方が、気分的にいいんです」
シアは身を乗り出してアピールする。
仕事をしなければゴロゴロするしかないのか、という言葉を飲み込み、無理矢理でも休ませるべきか一瞬アリアは悩む。しかしシアの顔色に問題は見られず、今日は折れる事にした。
「丁度一件、未着手の任務があります」
「やります」
即答。内容を確認もせず、シアは躊躇う様子もなく即答した。
調査任務には種類がある。
魔獣討伐の実態調査の他に、周辺の魔獣活動調査、未開地の危険調査などあり、キナ臭いものでは冒険者の素性もある。もちろん単独で対応することができない任務だってある。それを確認もせず了承する迂闊さは、調査員にとって致命的とも言える。
「……シアさん。まずは内容を確認してから回答してください」
「アリアさんが選んだ任務です。なら私には断る理由がありませんから」
「信頼していただいているのうれしいですが、もう少し慎重な対応をお勧めします」
「善処します」
屈託のない顔でシアは言う。
これ以上の注意は意味を成さないことを悟ったアリアは、資料棚から書類を取り出してシアに差し出した。
「今回の仕事は、新人研修の教官です」
「新しい方、来たんですか!?」
思わず身を乗り出してアリアに詰め寄るシア。
この辺境の街では、と言うか王都から離れた街に冒険者は少ない。皆、大きな夢を抱いて都心へと出て行ってしまうからだ。
そのため辺境の街で冒険者の新人が出ることは少ない。前回新規登録に来たのは一カ月ほど前だった。
人手不足という程少ない状況ではないが、所属冒険者が増えることは喜ばしいことだ。
「はい。男女の二人組です。それで久しぶりに新人研修を行うのですが、今月担当のグリーデンさんがタイミング悪く他の支部への連絡会に行っているので、代行をお願いしたいんです」
「分かりました。私が冒険者の心得をしっかり教えてきます!」
興奮気味のシアは受け取った書類を早速開け、新人の資料を取り出す。
食い入るように資料に目を通すシアは、二つの事実に目が止まった。
一つ目は、新人の一人が自分と同じ年の女性であった事。
二つ目は、もう一人の新人の男性。
「三十五歳のルーキー?」
初めまして。道 カズトと申します。
まずは稚拙な文に目を通していただき、ありがとうございます。
亀更新ですが、そこは趣味の活動ということでご容赦を。
いろいろ慣れてなく、読み辛さや誤字などもあるかと思いますが、
寛大な心で受け止めていただければ幸いです。
なお、本作に転生者は出てきません。
舞台設定はファンタジーですが、文明はそれなりに近代化しています。
もし気が向いたら続きも読んでください。
=主人公イメージ=
【ルクス(三十五歳)】
本作の主人公その1。 元孤児院の院長。
短髪無精ひげで、シオンからはよくひげを剃るよう言われている。
本人は気に入っているのか一向に剃らないが……
喫煙者ではあるが、吸うのは一日に十本程度。考え事や気分転換したいときに吸う。
【シオン(十八歳)】
本作の主人公その2。ルクスの孤児院出身。
長い黒髪を首元で一房にまとめている。
動きやすさのため、パンツルックが多い。