二日目
「ピピピピピピピピピーピピピピピピピピピー」
朝8時にまたアラームが鳴った。
俺はソファーの上で目を覚ました。
「ぁー」
あいつはまた変な声を出しながら、ゆっくり起き上がって俺のほうを見た。
「おはよー」
「ぉはよ」
小さい声であいつは答えた。
俺はこんなに不愛想なのか?
「行ってくるわー」
あいつはシャワーを浴び、着替えるとだるそうにバイトに出て行った。
また俺は、テレビを見ながら休日のように過ごしていた。
このまま、学校へを行かず、バイトへも行かず、友達とも遊びに行けないのか?
このままずっと俺は留守番なのか?
外で友達と会うにしても、あいつと情報を共有しなければ話がかみ合わなくなる。
あっちは昨日話したつもりでも、こっちは初耳だとなれば変だと思われる。
俺はここでで何をすればいいんだ。
元の俺がいた時間には帰れないのか?
元の時間に帰ったところで、面接に寝過ごした自分に戻るだけだ。
とりあえず、またあいつが帰ってきてから考えよう。
そう思い、パソコンを開いて適当に時間をつぶした。
「ピンポーン」
一時間ほどが経ちチャイムが鳴った。
のぞき穴から見ると、隣の部屋に住む友達だ。
居留守を使うのも変なので、出てみた。
「どうしたー?」
「ご飯行かない?」
少し悩んだが、お腹もすいたので行くことにした。
近くの定食屋で、いつもどうりの会話をしながらご飯を食べた。当然だが、友達はいつもと変わらない俺だと思っているようだった。
もし、俺が2人いると知ったらどうなるだろうか?100%秘密を守ってくれる友達などいるだろうか?大学ならすぐ広まってしまうだろうし、きっと今までどうりの生活はできなくなる。最悪俺は正体不明でどっかに連れていかれるかもしれない。
そう考えると他人に相談はできない。
カツ丼を食べ終わって気が付いた。財布がない。当然あいつが持っている。
仕方がないので、友達にお金を借りた。
家に帰り、あいつの帰りを待った。
夕方になり、あいつが帰ってきた。
「おう。」
「おう。」
なんとも言えない挨拶を交わして、俺は言った。
「たぶん、元の場所には帰れなさそうだから、しばらくここにいると思う。」
「そうか…」
「それで、お前がいない間にご飯を食べに行くこともあるからお金もいると思う。」
「そうだな。とりあえず1万円くらい置いておくよ。」
「ありがとう。」
俺がバイトで稼いだお金でもあるのだが、一応お礼を言っておいた。
本当は友達に昼食代を借りたことや、これからの生活のことなど色々話したいことがあったが、なんて切り出したらいいのかわからなかった。こんなに自分に気を使うとは思わなかった。
あいつは何を考えているのかわからない。あいつも俺が何を考えているのかわからないのか?俺のことを邪魔だと思っているのか?何を考えているのだろう。
あいつと仲良くならないと。
自分と仲良くなる。何か奇妙だがそれが先決だ。そう思った。
「将棋でもやる?」
俺は将棋が好きだ。
俺はよくネットで将棋をさしていた。そこそこ強い自身がある。あいつも同じだろう。
「おっけー。」
少し嬉しそうな顔をしたように見えた。
スマホの将棋盤アプリで対戦することにした。
初めはあいつの先手から始まった。
▲7六歩
△3四歩
▲6八飛
ダイレクト四間飛車だ。もちろん俺の得意戦法だ。
5分ほど経ち
あいつが少しリードしたまま中盤へ入った。
俺は昔から頭を使うゲームで負けるのは嫌いだった。2つ上の兄とよく将棋やカードゲームをしていたが、負けると不機嫌になり、勝ち越すまで勝負を挑んでいた。
このまま続けてもジワジワ負けていくことは見えていたので、飛車を切って一気に攻めることにした。
あいつは手を止めて少し考えた。そして攻めあうことを選び一気に乱戦になった。
5分ほど経ち
結果、序盤に守りを固めていた俺が一手差で勝った。
「もう一回やろう。」
あいつは悔しそうな表情で言ってきた。
その後も2時間近く将棋を打ち続け、勝率はほとんど五分五分で終わった。
「いい勝負相手ができたわ。」
もう一人の自分は楽しそうに言った。
「たしかにちょうどいいレベルだな。」
俺も笑いながら言った。
「明日は休みだから、ゆっくりこれからのこと考えよう。」
あいつは言った。
「わかった。じゃあそろそろ寝るか。」
「今日はそっちがベッドで寝な。」
「おっけー。今度もう一つ布団買うか。」
「そうだな。」
自分と仲良くなる作戦が成功し、俺はベッドでぐっすり寝た。