一日目
「ぁー」
男は目覚ましを止め、また寝始めた。
それはそうだろう一時間前の俺だもの。
しかし、眺めているわけにはいかない、起こさなくては。
「おーい」
小さい声で言ってみた。
「ぁー」
男は布団に潜ってしまった。
「おーい」
少し大きい声で言ってみた。
「…」
男は反応しない。
少しイライラしたので、布団の上から軽く叩いてみた。
「ぁー」
布団から頭を出しこちらをみた。
「あえっ」
変な声を出しながら、男は起き上がった。
「あ、あ~?」
変な声を出しながら、キョロキョロ周りを見渡している。
「ぁ~?、誰?」
男はボーっとした顔で尋ねてきた。
「俺は一時間後からきたあなたです。」
俺はなぜか敬語で俺は男に言った。
「なんで一時間後から?」
「お前が寝坊するからだろう」
と思ったが、俺の責任でもあるので優しく言った。
「面接に寝坊して、神様に頼んだら、ここにいました。」
自分でもよくわからない説明であった。
「とりあえず早く着替えて、面接に行かないと。」
「うん…」
と答えたが、男は、一向に動かない。
夢とでも思っているのだろうか。
「急がないと遅刻するよ。」
「あっ」
と男は小さい声で言って、急いで準備を始めた。
準備をする男を見ながら俺も考えた。
あいつが面接に行くのか?
俺が行くのか?
これから2人で生活するのか?
そんなことをしているうちに男は、スーツに着替えて、部屋から出ようとしていた。
「よくわかんないけど、帰ってから話そう。」
男はそう言って急いで出て行った。
「他の人に知られたらまずいよな。」
俺は色々考えた。
バレたらTVの取材とか来るのかな。
バイトはどっちが行く?
俺はどうすれば?
元の時間は俺がいないまま進んでるのか?
一生あいつと二人で暮すのか?
「とりあえずあいつが帰ってくるまで待とう。」
そう思って、いつものニュースサイトを見るために携帯を探したが、見当たらなかった。
「あいつが持っていったな。」
まぁ、あいつの物でもあるのか。
俺はテレビを付け、ノートパソコンを開いた。
いつもと同じ部屋で何も違和感などない。
昨日買った菓子パンを食べて、夕方まで待った。
暗くなってきたので、部屋の電気を付けようとしたところ、あいつが帰ってきた。
「あっ」
やっぱりといった表情で軽く会釈してきた。
客観的に自分を見ると他人のようだ。
「お、お疲れさん、面接はどうだった?」
「あー、まぁまぁかな。」
あまり話したことのない友人と話すようで、何か気まずかった。
黙っていると男は話しかけてきた。
「これからどうするの?」
「うーん、わからない。」
「ずっといるの?」
「いや、わからない。」
そう答えるしかない。
「どうしたらいいかな?」
聞いてみた。
「とりあえず今日は泊まってきな。」
俺の部屋なのだが、あっちからしたら俺は来客者なのか。
「どうも…」
少し納得がいかなかったが、一応お礼を言った。
しばらく2人で無言のままテレビを見ていた。
「他の人には言わないほうがいいよね?」
と聞かれた。
「そうだね、バレないようにしたほうがいいよね。」
お互いに目立つことが嫌はわかっているので、そう答えた。
「俺は明日9時からバイトだけど、そっちはどうするの?」
俺も9時からバイトだ。でも、2人で行くわけにもいかない。
「家にいたほうがいいかな。」
「そのほうがいいと思う。」
またしばらく無言でテレビ見ていた。
2時間ほどたち、そろそろ寝る時間だ。
あいつは当然の様に俺の歯ブラシを使い、歯を磨いている。
自分同士だが、同じ歯ブラシで歯を磨くのは少し抵抗がある。
俺は新しい歯ブラシを使った。
歯を磨き終わると、あいつは当然の様に俺のベッドで寝ていた。
俺は仕方がなく、ソファーで寝ることにした。
ここはどっちの部屋なんだ?
少し納得がいかないまま眠りについた。