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16話 勃発

本日2話目です。

 

トーリから忠告を受けて、1ヶ月が過ぎた。

その間、非常に慌ただしく時は過ぎ、休む暇はほぼ無いに等しかった。

リオナやスールは無事正式に家に迎え入れることが決まった。

俺も2人とは、仲良くできそうなのでよかった。

だが、王様からのご依頼を受けてからは、この国だけでなく他国にも俺の事が広まったようで、家に忍び込もうとする賊が後をたたくなっていた。


まぁ、俺や父様達が屋敷を魔改造したので、家は鉄壁の要塞と化してるから安全なのだが。


家中に張り巡らされている電気が流れる銅線や牢や行きの転移陣、それを越えたとしても更なるトラップが待ち構えている。

今のところ挑戦者は後をたたないけれども、それを破れる猛者は現れていない。


……未来永劫いないかもしれないけど。


それ程に屋敷の警備は強固だ。


「そういえば、昨日も賊が侵入したそうですね」


視線上げると、スールが紅茶と茶菓子を用意していた。

これが何気ない会話で振られるあたり、我が家の異常具合がうかがえる。


「うん……懲りないよね」


俺は昨日の賊を思い出して、苦笑いが溢れる。

確か他国の者だったと報告を受けた。


「ですね。この屋敷の防犯を突破するには、上級魔術師だけでも300人は必要ですもんね……むしろ、それだけ用意しても、失敗しそうな感じですし……そろそろ察してくれるとありがたいですよね」


スールも俺につられて苦笑いした。

2人ともすっかりこの異常な日常に慣れたものだ。


「まー、他国のスパイもたまに混じってるから、父様や陛下は情報源ってちょっと喜んでいる所もあるみたいだね」


その関係で、我が家のトラップは即死させるものもあるが、半殺しにして生け捕りにするものも多い。

その話をしていた時、2人が大層黒いオーラを出していたのを覚えている。


「そうなんですか……」


スールは苦笑いをしつつも、ちょっと引いていた。

リオナとスールは正式に俺の従者や侍女になったので、王様と顔を合わせた事もある。

なので、具体的に想像出来てしまうのだろう。


王様も父様も、ちょっとアレな人だからね……。


尊敬は出来るが、普通という言葉からは程遠い2人だ。


「……リオナさんは、無事家に着いたでしょうか?」


窓の外を眺めながら、唐突にスールがポツリと溢した。


「一応、護衛は付けているから大丈夫だと思いますが……」


リオナは2日ほどの休暇を取って、実家に帰っている。

まだ、忙しくてユーリに会わせてあげられていないが、手紙が送られてきた。

それを妹に見せてあげるそうだ。

久しぶりに会う妹に、表情では分かりづらいが随分と楽しみにしているように見えた。

スールはリオナの身を案じているようだが、狙われる可能性のあるリオナには当然公爵家の護衛を付けている。

リオナに危険はまずないだろう。


「そうですよね……」


それでも、スールは不安そうに顔を俯かせていた。


「……何か心配事でも?」


スールとリオナは、この1ヶ月で随分打ち解けた。

同僚としての絆も、芽生えつつある。

これはとても良い傾向だが、何故そんなに不安そうな顔をするのか。


「いえ……特に何かあるわけではないのですか……何というか胸騒ぎがして……」


俺の問いにスールも確信があるわけではないのか、要領を得ない答えを返す。


「後で、確認に行かせましょうか」


万が一の事もある。

それに確認に行かせた方が、スールも安心するだろう。


「よろしくお願いします」


スールは俺に頭を下げた。


「いえ、僕もリオナさんの事は心配ですので、当然ですよ」


俺はこの事を特に重くは、受け止めてはいなかった。

スールの勘が間違っていなかったことを、俺はこの後に知ることになる。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






──日が沈み始めた頃だった。


『ゴンゴンゴンッ!!』


荒々しいノックと共に、ガチャリとノブが下がり、扉が勢いよく開かれる。


「どうしたん……リオナさん?」


いきなりの来訪者にどうしたのかと目を向けると、そこには息を切らせたリオナがいた。

俺とスールは目を見開いて、リオナを見据えた。


リオナはまだ実家のメイソンの家にいる筈だが……


「リュート様、妹っが! レナが!!」


リオナは、はぁはぁと息を乱しながらも、俺に叫ぶよう言いつのった。


「妹?」


「リオナさん落ち着いてください。リオナさんの妹がどうしたんですか?」


スールがリオナに駆け寄り、落ち着かせるように背を撫でた。


「──っ、はぁ。もう、大丈夫です。スール君、ありがとうございます」


リオナは一息つくと大分落ち着いてきたのか、俺を真っ直ぐ見据えた。


「それでリオナさん、何があったのか話してください」


俺はリオナに先を話すように促した。

この慌てぶりからして、良くない事が起こったに違いない。


「はい、今日メイソンの家に帰ったのですが、何時もいる筈の場所に、妹が見当たらなくて……それで、探しているうちにこれが見つかって……」


リオナはポケットから、少しぐしゃぐしゃになった紙を俺に差し出した。


「……手紙ですか?」


俺は紙を受け取り、視線を手紙に落とした。


「はい、妹は誘拐されたのです」


その言葉は俺の思考を止めるのに、十分な力を持っていた。

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