表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/175

22話 無垢なる贄

 

俺達は制止の声をあげたが、黒い靄はトーリに襲いかからんとした。

飲み込まれる、そう思った時だった。


「「ユーリ!?」」


今度は、俺とトーリが叫び声をあげた

靄に飲み込まれたのは、トーリではなくユーリだった。

ユーリが父親を庇い、トーリと黒い靄の間に割って入ったのだ。


「ぁああ! ぅわぁああ゛あ゛あ゛っ!!?!」


靄に飲み込まれたユーリの叫び声が聞こえた。

その声は苦痛に満ち溢れている。


「くっ、“ホワイト・サンクチュアリ”」


俺はすぐさまユーリを助けるべく、光属性の広域浄化魔法を唱えた。

しかし、大した効果はなく一瞬和らいだだけで、すぐさま闇が辺りを覆ってしまった。


「…と゛ぅさ…ま゛……?」


父を呼ぶユーリの声が聞こえた。

既に靄で体が見えなくなっているが、手を伸ばしているようにも見える。

日に焼けていない白かった手が、今はどす黒く染まっていた。


「ユーリ!! どうしてっ!? おい、止めろっ! 息子(ユーリ)じゃないっ! 私だっ! 私が対価だっ!! 息子(ユーリ)には手を出さないでくれっ!」


トーリは叫び声をあげると、ユーリの伸ばした手を取ろうとした。


「ぐぁがぁあっ!?」


瞬間、トーリは叫び声を上げた。

トーリは腕を押さえて激痛に呻いた。

トーリの伸ばした手はユーリに触れた瞬間、激しい傷みを受けのだろう。

触れた所が汚染されたかのように、黒く染まっていた。


「“ハイ・ヒール”」


俺はトーリの腕に回復魔法をかけた。

上級魔法の筈なのに、治りが悪く中々完治しない。


コレが悪魔の力か!?


「すまない、リュート君!」


「いえ、それよりユーリがっ!!」


ユーリを覆う靄は益々膨れ上がり、苦痛の声も大きくなっている。

残された時間はそう多くないのかも知れない。


「うわぁあ゛゛! お…どぉ…ざま゛…、りゅぅ゛…と…に…げ…て!」


`おとうさま、リュートにげて!´


ユーリは自分が酷い状態にあるというのに、俺や父親(トーリの身を案じて逃げるように叫んだ。

実際に身に宿しているからこそ、感じ取っているのかもしれない。

通常の光属性の浄化魔法では対抗できないと。

事実、書物やゲームでは女神の加護を受けた者しか、悪魔は倒せていない。


「なぜ……なぜ、こんなことに? ……私は、私は唯民を、人々を救いたかっただけであったのに……何でユーリが……?」


トーリもユーリの言いたい事が分かったのだろう。

目から涙を流し、その場を動かず自分を責め続けている。


「あ゛あ゛あ゛゛っ!?!! ぐぉオア゛!?」


ユーリの苦悶の声と共に、靄が触手のようにトーリに向かって伸びる。

しかし先程と変わらず、トーリはその場から動かないままだ。

まるで覚悟を決めて、裁きを待つ罪人のようだ。


「私は……」


「“ホワイト・サンクチュアリ”」


俺はトーリの前に立ちはだかり、浄化魔法を防御魔法として靄を防ぐ。

すぐに闇の力に打ち消されてしまうので、重ね掛けをし続ける。


「しっかりしろ! アンタ父親だろ!? これはアンタが招いた結果だ。アイツ(子供)アンタ(父親)を庇うのは当たり前だろ!? アンタはアイツの唯一の家族なんだ。アンタにとってもそうだろ!? それを簡単に捨ててんじゃねぇっ!!」


俺は剥き出しの感情のまま、トーリを怒鳴り付けた。

今は悲嘆にくれている場合じゃない、ユーリを救う事が優先だ。


「くっ、ユーリ!」


トーリは俺の言葉で冷静になったのか、立ち上がりユーリを見据えた。


「何が弱点やら、効く魔法はないのか!?」


「古では、女神の加護を受けた聖女の力では滅したと聞くが……ここ数百年、聖女はいない!」


俺は打開策をトーリに尋ねるが、以前本で読んだ内容と全く同じであった。


ここにヒロイン(聖女)はいない。

くそっ! どうすればいいんだ!?


打開策を思い浮かべる事も出来ずに、ただ刻々と時が流れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ