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12話 吹雪く、ブリザード!

 

「ありがとう!!」


ジョディー握った俺の手をブンブン縦に振る。

その喜びようは凄まじく見えた。

激しく振られるせいで、視界がガクガク揺れて気持ちが悪い。


「…ぅ、そこまで喜ばなくても」


「分かってないな!? 回復魔法の魔導具が大量に造れることの意味を!! 今この国で回復魔法を使えるのは300人にも満たないんだぞ。その中でも上級魔法まで使えるのは30人以下だ! しかもその殆どが王都に集中している。地方では薬による治療しか出来ないんだ! それが魔法での治療が可能になるんだ! これは地方医療に革命が起きるぞ!!」


ジョディーは俺に熱く語った。


30人……たったそれだけしか居ないのか。


予想より相当少ない数に俺は目を瞬いた。

本で稀少だとは書いていたが、そこまで少ないとは思っていなかった。

その話が本当なら、この魔玉で造られた魔導具は革命をもたらすだろう。

薬や外科手術には限界がある。

俺も初めて魔法を見たときは、科学常識を越えた奇跡に驚いたものだ。


「だからリュートが協力してくれて嬉しいぞ!」


「はいっ!!」


2人で再び手を取り合った。

治癒魔法の魔導具作成は、とても意義のある取り組みだ。


「はい、ストップ」


兄様が突然割ってはいり、俺からジョディーを引き剥がした。


「む、なんだレイアス? 嫉妬か? 男の嫉妬は醜いぞ?」


ジョディーむすっとして、兄様に抗議をした。


「は? 何か言ったかな?(ニコォッ)」


笑顔の裏に何か別の恐ろしい物が見えた。


「「いえ、何も(ブンブン)」」


ジョディーに向けられた筈のに、俺まで思わず首を振ってしまった。


兄様の笑顔……目が笑ってない。


関係ない俺までゾワッとした、ジョディーも顔を青くする程の威力。

兄様に逆らってはいけない。

俺は改めて再認識した。


「レイアス……お前、9歳児の癖に恐ろしいな。本当に9歳なのか?」


「何を言っているのか全くわからないな、ねぇリュー?」


「はい、勿論です。兄様は大変優しゅうございます!」


俺は兄様の言葉にすぐさま同意した。

長いものには巻かれるべきだ。

だが、心の中ではジョディーの言葉に全面的に同意だ。

自分の事を棚上げにしているが、こんな9歳児は嫌だ。


「ふーぅ、それじゃあ本題に戻ろうかな?」


「お前が大きく掘り下げたんだけどな」


「何か?」


「イエナンデモアリマセン。」


ジョディーは懲りずに兄様のブリザードをくらっている。

これはもう性分なのだろう。

世の中には決して抗ってはならないものがあるというのに。


「……リューが協力するとして、報酬はどうするつもりなのかな?」


「報酬なんて必要ないです!」


俺は報酬が欲しくてやっているわけではない。

ジョディーの志にひかれたから、協力したいと思ったんだ。


「駄目だよ。報酬なり、対価は絶対に必要だよ。ジョディー、君はリューにどうやってそれを払うつもりなのかな?」


「……」


兄様は一切引かずに、ジョディーを問いただした。

ジョディーは顔をしかめて黙りこんだ。

店を見る限り、そんな繁盛しているようには見えないし、厳しいのかもしれない。


「兄様……僕はそんなつもりで引き受けたわけではないのです……が」


「……リュー、君は貴族でこの国の要になる人材だ。それが簡単に何でも引き受けるべきではない。そんなことをすればすぐに付け上がるからね。そして利益だけ貪って、その責任は全て君に向けられる。これもそれもと都合よく利用されるだろう。……ねぇ、ジョディー・マルス。お前はそれをリュートに無償で強いると言うのかい?」


兄様は笑顔でそう言った。

美しいアイスブルーの瞳の奥がドロッと暗く見えて、俺は初めて兄様が本気で怖いと思った。

兄様の言っていることは正しい。

俺がジョディーに無償で協力したら、他の貴族や商人或いは民が黙っていないだろう。

そいつに協力したのなら、私にも俺にもと際限がなくなるに違いない。

そしてそれを少しでも拒めば俺の都合を関係なしに、理不尽に責められることだろう。

前世での事がいい例だ。


「……無償で頼むつもりは無い、対価は必ず用意する。……すまない、リュート。私は自分の理想ばかりで、お前に不利益になることを強いようとした。報酬は望むものを用意する、だから私に協力して欲しい」


「……いえ、僕も不用意に承諾してしまいましたから。」


ジョディーも兄様の言うことに納得して、俺に頭を下げ謝罪した。


「本当は王宮に報告して、宮廷魔導師が研究なり作成した方が良いんだけどね。報酬は国が支払えるし」


「……国が主導だと、民にまで回らん! 貴族共が独占するだけだ!」


「まぁ、そうなるだろうね。あとは教会と共同で行うっていう手もあるね」


「教会も腐敗が進んでいるだろ。貴族との癒着も強い」


ジョディーは厳しい顔でそう言った。


貴族は……シュトロベルンの様な家がのさばっている以上腐っているとは思っていたが、教会までもとは思わなかった。

少なくとも、ユーリの父親であるトーリも真面目そうな様子だったから。


「トーリ・クレイシスに協力を要請すれば良いんじゃないかな? 彼は人格者だと聞くし、息子は回復魔法の魔眼持ちだ。おいそれと手は出せないだろうしね」


「トーリ・クレイシスか……確かに噂を聞く限りは清廉潔白で、民思いだが……そうだな。教会に協力して貰った方が、使用の際争いなどにはならないか」


「僕、ユーリとは仲が良いので頼んでみます!」


「本当か!? 私は面識はないから、是非とも頼みたい!」


「間違いなく教会もこの話には乗ってくるだろうね。報酬もある程度だせるだろうしね。これならウェルザックとしても教会に対して貸しになるだろうし、義父上も賛成してくださるだろう」


「はいっ!」


教会から報酬を貰うことで、ジョディーの負担も軽くなるだろうし一石二鳥だ。

今度ユーリにトーリ・クレイシスに面会出来るように頼もう。


「それとジョディーから貰う対価としては、魔導具を無償でリューに提供するってところが妥当なところかな? それ以上だと君には払えないだろうし」


「ぐっ、その通りだが……自分より10は下の子供に言われるのは癪だな。……リュートそれで頼んでもいいか? 勿論、教会とも交渉して報酬は出して貰う」


「はい、僕はそれで構いません」


こうして、治癒魔法の魔導具作成普及計画は真に動き出したのであった。


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