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EX 月から落ちた少女

この話から約一年後へと時間が進みます。

rとちょっと繋がります。

 

遮る事のない空に、月明かりで輝く花。

6年ぶりに来る場所だが、全て記憶にある景色のままだ。


「ふふっ! またリュー君と一緒に見にこれて嬉しいなっ!」


「はい、母様!」


3年に1度の星降る夜の今日。

俺は母様と空間魔法を使って、生まれ育ったこの町へとやって来ていた。


「皆で来た方がきっと楽しいけど、たまには母子水入らずでいいかもね♪」


母様が俺の手を握って前後に振りながら、俺に微笑みかける。

普段はもうあまり繋ぐことはなくなったが、今日はされるがままあの頃と同じように母様に手を引かれて歩いた。


「はい!」


父様達も一緒に来たがったが、次の祭りは皆で行こうと約束して今年は遠慮してもらった。

今日はどうしても2人だけがよかったのだ。


「……初めてここに来てからもう6年、か。時が過ぎるのはあっという間だね。リュー君も大きくなって、長時間抱っこするのは難しくなってきたしなぁ」


俺の頭を撫でながら、しみじみと母様が言った。

周囲よりも少し成長は遅めだが、俺の身長は確実に伸びている。

成長期が来れば、母様の身長だってすぐに抜かすだろう。


「もう、流石に抱き抱えられるのは恥ずかしい年齢なのですが……」


周囲の子供達で抱き抱えられる人はあまりいないので、控え目に断りを入れる。

何より、抱き抱えられるのは精神年齢的にも辛いものがあった。


「えぇー、たまにはいいじゃない。あっという間に大きくなって、抱っこ出来なくなっちゃうんだから。ふふ、きっとすぐに私より大きくなっちゃうんだろうなぁ」


嬉しいけど少し寂しいなぁと、続ける母様にこれ以上嫌だとは言えず、俺も誰も見てない所でならいいかと割りきる事にした。


最悪人に見られなければいいのだ……特に腐王女に。


「うん、この辺りが良さそうかな。リュー君、敷布を出してもらえる?」


見晴らしのいい場所を見つけて、俺は空間魔法でしまっていた敷布を取り出した。

母様は俺から敷布を受け取って、素早く広げる。

2人で並んで座った。


「母様、今日はちょっとプレゼントがあるんです。気に入るかは、分からないんですけど……貰ってくれますか?」


流星群が降りだす前に、俺は今日渡そうと準備していた包装された箱を取り出した。

銀色の四角い箱に、濃紺色の布地に金糸で星座模様が刺繍されたリボンが巻かれている。


「まぁ、素敵! ありがとう、リュー君っ!」


開けるね、とリボンをほどいて箱から出てきたのは、瞳と同じ真紅の大きな魔石を中心においたネックレス。

周りには同色の少し小さな魔石を小花のように配置している。

魔石には、俺が直接魔法を刻んであるので御守りとしても使える。


「どうかな、似合うかな?」


「はい、とっても」


早速着けてくれた母様に、俺は満面の笑みで頷いた。

瞳の色とあっていて、母様によく似合っている。


「ふふっ、嬉しいなぁ……私からも何か……あっ、そうだ、お返しにリュー君に私の宝物をあげるね?」


そう言って母様は小さな袋を取り出し、俺に中身を見せた。


「黒い……ペンダント?」


中には黒い石をのせたペンダントが入っていた。

ガラスのように透き通るような色ではなく、漆黒。

母様にはあまり似合わない色だと思った。

もっと華やかな色のものの方が、母様には似合う。


「正直、リュー君に貰ったプレゼントと比べると貧相かも知れないけど、私の母親から貰ったものなのよ。、小さい頃からずっと持ってる御守りなの……今度は私じゃなくてリュー君を守ってくれるように……リュー君は時々無理するからね!」


「ありがとうございます、母様。大事にしますね」


母様から向けられる感情は真っ直ぐで打算がないから、嬉しいけれど時々こそばゆい。

母様は俺の頭を一撫ですると、ペンダントを俺の首にかけた。


「……うーん、少しチェーンが長いかな?」


大人用のペンダントは、まだ子供の俺には少し長かった。


「これぐらい、すぐに伸びますよ」


1年……いや、3年もあれば、ちょうどいい長さになるだろう。


俺はペンダントトップである黒い石に指を這わせた。

冷たい筈の石なのに、触れた所から熱を帯び始める。


「……え?」


視線を落とすと石は淡く輝きだし、漆黒を真紅へと色彩を変えた。

血のよりも紅く、透き通るような真紅。

母様の瞳の色と同じだ。


「……ぇ、ええー!? 何で!?」


その光景に一瞬動きを止めた母様だったが、すぐに驚愕の声を上げた。

どうやら、母様にとっても予想外の事態だったようだ。

今まで何十年と身に付けていて、こんな事は今まで1度も無かったのだろう。


「……もしかして実は魔導具、だったとか? でも、そんな感じじゃなかったけどなぁ」


「ぇ、と? やはり、これは母様が持っていた方が……」


魔導具は高価なものだし、それなら母様が持っていた方がきっと良いだろう。


俺はペンダントを持ち上げて、首から外そうとした。


「んーん、リュー君が持ってて。きっとリュー君が持ってた方がら役に立つと思うし、私には何の反応もしなかったしね!」


「いや……でも」


その色彩を変えた今では、このペンダントの価値が大きく変わるだろう。


母親から貰ったと言っていたし、やっぱりこれは母様が持っていた方がいいのではないか?


「いいから、いいから♪ ふふっ、それに何だかお揃いみたいで嬉しいなぁ」


母様はペンダントを外そうとしていた俺の手を止めて、嬉しそうにそう言った。

確かに、狙った訳ではないが俺の身に付けているペンダントと、母様に贈ったネックレスの魔石は同色だ。

端から見れば、お揃いに見えるだろう。


「でも、「ほらっ、流星群が始まるよっリュー君っ!」……はい、そうですね母様」


最終的に押しきられる形で、ペンダントは俺が持つ事になった。


「……始まった」


話し終えてからあまり待つことなく、星々が大地へと降り注いだ。その光を浴び、月光華の輝きは更に増す。

この世のものとは思えない、幻想的な光景。

あの時と変わらない景色、けれどきっと俺は変わった。


父に会った。


兄に会った。


祖父母に会った。


時々頭が痛くなるような友人も、一緒に笑って遊ぶような友人達にも会えた。


様々な人達に会った。


様々な感情を知った。


力不足による悔しさも、俺はこの世界に来て初めて知った。


全てはここからだ。

ここから、全てが始まったのだ。


「母様、僕は今本当に幸せです」


ずっと言えなかった言葉だ。

前世の俺は何でも手に入れる事が出来たけど、その言葉とは程遠い人生だった。


やらなければならない事は、山程ある。

救わなければならない人達も、いつか倒すべき相手もいる。


「うん、私も!」


でも、俺を信じてくれる人がいるから、その期待を裏切りたくない。

手に入れてから始まった恐怖から、俺は逃げたりしない。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










星々の光は絶える事なく、大地に降り注ぎ続けている。


「綺麗ですね……手を伸ばせば届きそうだ」


掴める筈もないが、俺は思わず空へと手を伸ばす。

すると、星々が光輝く空に一点の黒い染みのような影がある事に気付いた。

まるで月を隠すかのように、その影はあった。


「……何だ?」


その影はどんどん大きくなって、瞬きの後それが人だと気付いた。


「っ、っ!?」


咄嗟に魔法を使って受け止めるも、バランスを崩して後ろに崩れる。

豪快に尻餅をついた。


「リュー君っ!!?」


母様が俺の名前を叫んだ。


「大丈夫です、魔法を使いましたから……それよりも、この少女は一体どこから……?」


俺は母様に無事を伝えると、腕の中の少女に視線を移した。

褐色よりも黒い肌に漆黒の長い髪、黒いワンピースを着た全身真っ黒の少女。

少女はかなりの高さから落ちてきた筈なのに、すやすやとのんきに眠っている。


「ね、寝てるね……怪我はなさそうね、よかった。……この子、何処から来たんだろうね? まるで……流星群と一緒に月から落ちたみたい」


俺の腕の中の少女の無事を確認して一息つくと、母様も不思議そうに首をかしげた。


“月から落ちた”


あまりに突飛な事だが、何故だか俺の中でしっくりと来た。

空を見上げた瞬間、確かにこの少女は月から落ちてきたように見えたから。


「……ん、……ぅ」


俺達の話し声に反応したのか、黒い少女の睫毛がピクリと震えて、ゆっくりとその瞼が持ち上げられる。

黒い少女と視線がからんだ。


「あ、なた……は、だあれ?」


現れた瞳は限りなく黒に近いダークグレー。

全身真っ黒に見えた少女だったが、よく見ると髪も真っ白の毛束が二房混じっている。


「……貴方こそ、誰ですか? 何処から来たんですか?」


得体のしれない相手に名乗る事なく、俺は質問に質問で返した。


変な髪……根本の色も同じだし……染めてるわけじゃないな。


それに見知らぬ相手の腕の中にいるわりには、落ち着いているし俺を警戒していない。


「わたし? わたし、わたしは…………だれ、だったかしら?」


少女は名乗ろうとして、首を傾げた。

嘘をついているようには見えない。

本当に分からないようだ。

母様とどうしたものかと視線を合わせた。

ただでさえ得体のしれない相手であったのに、その上記憶喪失ときた。

この少女からは厄介事の匂いしかしない。















この時、俺の予感は当たっていた。

そして、この奇妙な出会いが物語を加速させるのであった。









次話より7章「つかの間のゴールデンタイム(仮)」が始まる予定ですが、先に全体の見直し&修正をします(量が多いので途中で更新するかもですが、9月中には何とか終わらせます)

現時点の修正予定だと、恐らく数話割り込む形で話を入れる事になると思います。

確実に追加予定の話は腐王女転生記の部分です。

ユーリアの騎士に任命された主人公。しかし、それに異を唱える人物が現れる。しかもその人物はどうやら、本来のゲーム通りならユーリアの騎士に任命された筈の人物で──、みたいな内容の話を入れる予定です。

なお、変わったところは、全部終わったら活動報告にのせる予定です。

ご迷惑おかけしますm(_ _)m

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