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番外編 在りし日の憧憬⑨

大分間が⎯⎯何だか、スランプというかなんというか……(-_-;)

今回も残酷描写ありです。

どんどん破滅の道へと突き進んでいきます。

ご注意をm(_ _)m

 

あの女、クリスティーナ・シュトロベルンの不吉な言葉は現実のものとなった。

起こってはならないことが、現実となってしまった。





──アーシャとスレイヤの子は流れてしまった。





「申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳っ」


「──もういいっ! 私はそんな事が聞きたいのではないっ!!」


狂ったように頭を下げ同じ言葉を繰り返す女を、私は激情を持って怒鳴り付けた。

普段の私なら女子供に感情的に接する事はなかったが、この時の私はたかが外れていた。

アーシャとスレイヤの子は流れてしまった。

その原因は、アーシャが姉妹のように信頼していた侍女にあったのだ。

この女はあろう事か、アーシャに毒物を飲ませたのだ。

長年の信頼がある、きっとアーシャはこの女がそのような真似をするなど考えもしなかっただろう。


「……何故だ、何故アーシャを裏切った?」


スレイヤはアーシャについている為、この場にはいない。

私とこの女の2人きりだ。

私を止める者は誰もいない。

事と次第によっては、私はこの女を殺してしまうだろう。


「っ、……家族が……家族がシュトロベルンに……」


今にも消え入りそうな掠れた声で、涙を流しながら女は言った。

その一言で私は全てを理解した。

そして、自分達が何を敵に回したのかを。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









結局、私はあの女に何もする事が出来なかった。

2度と私達の目の前に現れない事を誓わせ、屋敷から追い出した。

どんな理由があろうと裏切りは裏切りだ。

決して赦されない。

だから、私はあの女に救いの手を差し出す事はしなかった。

けれど、スレイヤやアーシャにとってあの女は大切な存在だった筈だ。

私やスレイヤの手を汚す事で、彼等の心がこれ以上傷付く事はあってはならない。


私は深呼吸をして呼吸を整えると、アーシャとスレイヤの居る部屋をノックした。

しかし、中に人の居る気配はあるが反応がない。

私は部屋の扉を開けて中に入った。


「スレイ……」


スレイヤは白い顔をして奥のベッドで眠るアーシャの手を握り、側に置いた椅子に座っていた。

背を向ける形になっているので、私にはその表情をはかる事が出来ない。


「……エマは……あの女はどうしたの?」


何の感情もこもっていない平坦な声だった。

エマと言うのは、あの侍女の事だろう。


「2度と私達の目の前に現れない事を誓わせて、屋敷から追い出した」


「そう……」


私の言った事に対しても特に反応がない。

その視線はアーシャに固定されたままだった。


「……始末した方がよかったか?」


「いや……あの女が死ねば、どんな形であれアーシャは悲しむだろう……例え、自分を殺そうとした女でもね。もう関わる事がないのなら、それでいい」


追い出したあの女に対しても、特に感情を示す事はなかった。

殺す事も、救う事も望まなかった。


「ジークフリード……俺はね、さっきからずっと考えているんだ。どうやったら、あの女……クリスティーナ・シュトロベルンを殺せるかって」


「スレイ……」


「俺はクリスティーナだけは絶対に許さないっ……だけどさ、俺分かってるんだ。シュトロベルンは名家だ。力もある。何とかクリスティーナを殺す事が出来ても、国は俺の事を許さないだろう。俺だけじゃない、家やアーシャ達家族も罪に問われるかもしれない……頭では分かってるんだ。黙ってるのが1番正しいんだって………」


この部屋に来て初めてスレイヤが感情を見せた。

感情を抑えようと奥歯を強く噛んでいるせいで、ギリッと歯軋りの音が聞こえた。


「スレイヤ、お前はアーシャを連れて国を出ろ。後は私が何とかする。クリスティーナ・シュトロベルンはお前に執着している。これ以上国に居続ければ、今度こそアーシャは命を落とすかもしれない」


それが俺が親友として、2人に出来る唯一の事だ。

魔眼持ちの出奔ともなれば国中が血眼になって阻止しようとするだろうが、時間稼ぎ位は私が何とかしてみせる。


「……無理だよ、ジーク……それは出来ない。俺達の為にお前が犠牲になる事を俺達は望まない」


「構わない。私はこれでも魔眼持ちだ。何とかしてみせるさ」


スレイヤとアーシャは、私を何度も救ってくれた。

その恩を今返すと思えば安いものだ。

それに私はマベリアンタとの戦いで本当は死んでいたはずだった、それが少し遅くなっただけだ。


「……ありがとう、ジーク。でも、やっぱり駄目だ。ここには大切な家族いる。可愛い弟分も……それに、かけがえのない親友も。俺は……俺もアーシャも…………お前達を捨てる事は出来ないんだ」


スレイヤはそう言うと、初めて私を振り返り薄く笑みを見せた。

諦めたような、悲しげな笑みだった。


2人はお互いを愛していない訳ではない。

何よりも誰よりもお互いを愛している。

しかし、大切だから、大切だからこそ、相手に大切な者を失う選択を強いる事が出来なかった。

この国には、2人の大切な者が多くあり過ぎたのだ。


「子供の敵打ちも出来ないなんてさ、嫌な大人になってしまったね……」


どうしてこうなってしまったんだろう。

そう続けたスレイヤに、私は何も言う事が出来なかった。




事後報告、大分前に短編あげました。

そして更なる事後報告、気分転換にそのうち短編連載をやろうかと思って奴をうっかり日付変えるの忘れて……( TДT)

お時間あったら覗いてみてくださいm(_ _)m

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