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番外編 在りし日の憧憬⑧

この話から、バッドエンドに向けて走って行きます。

注意ワードは流産、妊娠、出産。

苦手な方は番外編は最後の1話だけ読んで、飛ばして下さいm(_ _)m

あくまでも、番外編。

主人公が知らない出来事ですので、その時が来たら本編でさらっと触れます(兄様のルートあたりで)

もう何となく予測出来てる方はいると思いますが、自分でも結構えげつないなと思う展開です。

 

「はぁっ!? 何で婚姻が許可されないんだっ!!?」


王宮に用意された部屋の中で、スレイヤの滅多に聞かない苛立った声がよく響く。


「スレイ……」


そんなスレイヤを心配そうに見詰めるのは、彼の婚約者であるアーシャ。

彼女もまたスレイヤの帰還を聞いて、王都へと足を運んでいた。

元々この戦いが一段落付いたら結婚式を上げる前に籍を入れる予定であったし、夜会で群がる女性にうんざりしたスレイヤが丁度いいと婚姻届けを出したのが昨日の事。

けれど、すんなり許可されると思っていた婚姻届けは、全貴族の婚姻を管理する王によって却下されてしまった。


「落ち着け、スレイ……アーシャの腹の子に悪い」


「ちっ、分かってる、分かってるけどっ、許可されないどころかシュトロベルンの毒婦と婚姻を勧めてくるとか頭トチ狂ってるだろっ!?」


何とか私が宥めようと声をかけるも、今のスレイヤは冷静さを欠いて気を静める事が出来ない。


気持ちは分かる。

そもそもアーシャは長い間スレイヤと婚約状態にあったし、腹には子もいる。

確かに魔眼持ちとなった今ではブロゥルの家格は少し弱いが、それでも子爵家と伯爵家で釣り合わないという程ではない。

その両家共に納得している婚姻を、王は許さず別の者をスレイヤに宛がおうとしている。

しかも、相手はあの夜会で接触した、クリスティーナ・シュトロベルンその人だ。


簡単に諦めるとは思っていなかったが、まさかこんな暴挙に出るとは……。


「クソッ、こんな横暴が許されるかっ、抗議に行ってくる!!」


「待てスレイ、いきなり行っても王に謁見など出来ないぞ、先に抗議文をっ、おい、待てスレイヤっ!!」


スレイヤはそう言い残すと、私の制止を振り切って部屋から出ていった。


「ど、どうしましょう、ジーク……」


アーシャの瞳が不安気に揺れる。

彼女もこの状況に動揺している。

夫となる男が戦場から奇跡的に生還したと思ったら、今度は忠誠を捧げる王からのこの仕打ち。


それにシュトロベルンは、決していい噂を聞かない一族……将来を不安に思うのも無理はない。


「私がスレイを連れ戻してくる。だから、アーシャ。君は部屋から出ずに、ここで待っていてくれ。決して、誰も通してはいけない」


アーシャの事も心配だが、スレイヤの暴走をこのまま放っておく事は出来ない。

それにここならば直属の部下である兵士も多くいるので大丈夫だろうと、アーシャを置いて私は部屋を出ようと扉に手をかけた。


「あぁ、君もアーシャの事を見ていてくれ。私とスレイ以外は、誰もこの部屋に通す必要はない。来ても、追い払ってくれ」


「は、はい……」


部屋を出ると、お茶を用意しに出ていた侍女とすれ違った。

彼女にも、念の為アーシャの事を頼んでおいた。


アーシャより5つ上のその侍女は長年アーシャに仕えており、実の姉のようで信頼出来ると言っていたのを聞いた事があった。

だから、青ざめた顔をしてる彼女に気付かずに、急ぐ私は安心してアーシャを任せたのだ。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆











「おい、スレイ待て、落ち着けっ! せめて、謁見を申請しろっ!!」


結局私がスレイヤに追い付いたのは、この時間王が居るであろう執務室の近くであった。

私達が軍の上層部で先の戦いでの英雄とだけあって、王宮を守護する騎士達に止められる事はなかったが、何事かと不審げな視線を向けられる。


「そんなに待ってられない、王の意向を問いただす!」


止める私の掴んだ腕を、スレイヤは振り払おうとした。


駄目だ、全然冷静じゃない。

このままでは、本当に執務室に乗り込みかねないっ!

どうすれば──


「あらあらぁ、殿方同士で仲がよろしいことぉ。私も交ぜてくださらないぃ?」


「……クリスティーナ・シュトロベルン嬢……こんな所で何のようだ?」


ねっとりとした絡み付くような声。

揉める私達の元に現れたのはあの晩と同様、数人の男を侍らせたクリスティーナ・シュトロベルンだった。

この眼で確認は出来ないが、彼女は見目のいい男をいつも傍に侍らせていると聞く。


何故こう厄介なタイミングでっ……。


運命の女神とやらは、余程性格がネジ曲がっているとみえる。


「うふふ、こんなに騒がしいのですものぉ、当然でしょぉう? それよりも、お聞きになってぇスレイヤ様? 陛下が私達の婚姻を認めてくださいましたのよぉ」


「……この間も言ったが、俺は貴方のような女と結婚するつもりはない。俺の愛する女性は只1人だけだ。次の季節には子も産まれる、俺は彼女をこれ以上待たせるつもりはないんだ。これから陛下にも話に行く。陛下は何か勘違いをなさっているようだが、話せば直ぐに考えを改められるだろう」


前回とは違い、最早殺意と呼べる視線をスレイヤはクリスティーナ・シュトロベルンに向けて言った。

相手の身分さえなければ、斬りかかっていたかもしれない程だ。


「ふふっ、怒ったその眼も氷のように透き通って益々素敵。けれど、貴方は私と結婚致しますわぁ。だって、私が誰より貴方に相応しいものぉ」


恍惚と、まるで決定事項かのように。

スレイヤを無視して彼女は語る。

マベリアンタの血族狂いと似た、ある種の狂気を彼女から感じた。


「……貴方と話をしても時間の無駄のようだ。先を急いでいるので、失礼する」


「お待ちになってぇ? 心配しなくとも、貴方が私を拒む理由はもうありませんわぁ。それに私は妾を認めないわけではないのだけれどぉ、やはり正妻たる私が長子を産むべきでしょぉ? だから──」


夜会の時とは違い、立ち去ろうとするスレイヤをクリスティーナ・シュトロベルンが止め、そして囁いた。


「私と貴方にとって邪魔な障害(・・)はきちんと流しておきましわ」


それは、無慈悲で悪魔のような宣告だった。



リュ「……あの、僕の出番っていつですか? もう随分長い事、仕事してない気が……番外編も何か薄暗くなってきたし」

腐「よしっ! ここはリュート君による逆ハー展開で、話に活気をっ!! 読者の皆様もきっと喜ぶよっ!! 私にも美味しい展開っ!」

リュ「…………ねぇ……生きて、いたい?(^∇^)」

(目は笑ってない)

腐「さ、さーせんっ!! 調子に乗りましたっ!!!( ノ;_ _)ノ」

(涙目土下座)


……主人公達は番外編最後の1話には、ちょろっと出てきますよ?

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