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番外編 在りし日の憧憬⑦

またまた間が……・(つД`)・゜

 

「此度は大義であった、ジークフリード・スタッガルド将軍、スレイヤ・シルグレダ補佐官。褒美を遣わそう」


静謐な玉座、王が見下ろす謁見の間で私とスレイは膝を付き頭を下げる。

私達は先のマベリアンタとの戦いでの功績で、王宮へと2人揃って招かれていた。

眼帯を着けている為目で直接見る事は出来ないが、数多の好奇の視線が私達に注がれているのが分かる。


「はっ、ありがたき幸せ」


不敬だが、正直に言うとこの王は好かない。

ここ数代で、シュトロベルン公爵家の力は驚く程に増した。

しかも、今代の王は王位を脅かす程のシュトロベルン公爵家の力を削ぐべく動かずに、寧ろ癒着し自由を与えている始末だ。


「それに、我が国に力たる象徴の魔眼持ちが増える言葉に実に喜ばしい。後天的な魔眼など、ユグドラシアの永い歴史の中でも初めて聞く。のう、スレイヤ・シルグレダ、お主はその力で何を望む?」


王はねっとりと絡み付くような声色で、スレイヤに御言葉をかける。


……今代の王は、確か光属性の適性があまり強くなかったと聞いた事がある。


光属性の適性の低い者が王位に就けば、国が荒れる。

それは大昔からずっと言われてきた事で、王位継承権にも影響する。


他に御兄弟がおられれば、この方は王には選ばれなかっただろうな……。


先代の王は、あまり子宝に恵まれなかった。

そんな先代の功績は、次代の王たる王太子の婚約者をシュトロベルン公爵家ではなく、他国の王女に選んだ事だろう。

今代の王に期待できなくとも、次代を担う王太子は聡明で強い光属性の適性がある。

腐敗した国も、次の代では変わっていけるだろう。


「では、軍事費の増額を。今回、マベリアンタの魔眼持ちが死んだ事で一旦は落ち着いたとは言え、北はまだまだ不安定です。国を守る為にも、潤沢な資金は不可欠かと」


スレイヤは王の問いに、取り繕う事もなく答える。


本当に要求するとは……少しは取り繕え。

不満があるのは分かるが、相手は一応王だぞ。


「……スレイヤ」


私は冷めた目を向けたが、スレイヤはいつも通り笑みを浮かべたままの涼しい顔だ。


「ハハッ、スレイヤ・シルグレダ、中々面白いではないか。いいだろう、元々要求は上がっておったのだしその願い、王の名において叶えよう」


その不敬ともとれる態度がお気に召したのか、王は盛大に笑うとスレイヤの要求を許可してくださった。

これで随分と軍の負担も軽くなるだろう。


「「寛大な御心に感謝致します」」


スレイヤと2人、再び頭を下げた。


「今宵は宴だ。功労者たるお主達を見るのを、皆楽しみにしておる。とくと、此度の武勇伝を語って聞かせてやるがよい」


「「はっ」」


こうして、一瞬肝が冷える面もあったが、王との謁見を私達は無事に終えた。


輝かしい功績に、潤沢な褒賞金。

北の防衛も、これからは新たに魔眼持ちとなったスレイヤもいる事だし、大分楽になるだろう。

近い未来には、スレイヤとアーシャの子供だって生まれる。

決して楽な道でないだろうが、スレイヤのこの先の人生は沢山の幸せに溢れ輝いて見えた。

私達にとって、スレイヤの魔眼は福音であり素晴らしいものの筈だった。










私達が生きて戦場から帰るには、スレイヤの魔眼は必要不可欠であった。

あの圧倒的な力がなければ、間違いなく私達は死んでいた。

けれど──


スレイヤが魔眼を開眼させてしまったが故に、全ては泥に沈み──壊れてしまった。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「お初にお目にかかりますぅ。私、シュトロベルン公爵が長女クリスティーナ・シュトロベルンと申しますのぉ」


幾人もの人の列に囲まれながら次々と押し寄せる貴族に対応していた私達の元に、1人の女性が割って入って来た。

通常は眉をしかめられる行為だが、女性の身分ゆえに咎める者はいない。

皆先程までの興奮が嘘のように、女性の為に道を開けた。

顔を見なくとも分かる。

国1番の名門貴族に生まれながら毒婦と称される女性、クリスティーナ・シュトロベルン。


「久しぶりだな、シュトルベルン公爵令嬢」


クリスティーナ・シュトロベルンの視線を遮るように、2人の間に立った。

シュトロベルン公爵家は危険だ。

スレイヤは関わらせない方がいい。


「あらぁ? スタッガルド将軍もいらしたのぉ?」


少し不機嫌そうにクリスティーナ・シュトロベルンが、私に意識を向ける。


「酷いな、これでも私は君の夫候補の1人であるのに」


私は平静を装いながらも、背中からは冷や汗が流れる。


嫌な、嫌な予感がする……。


「夫候補? それならご心配はご無用ですのぉ、だって──」


クリスティーナ・シュトロベルンが私をすり抜け、スレイヤの腕へ飛び込んだ。


「私、この方を夫へと決めましたものぉ」


予感はあった。

過去にそう考えた事もあった。


「なっ、何を言って」


「だって、スレイヤ様に私程相応しい令嬢はいないでしょお? お父様もきっとお喜びになるわぁ」


私や周囲が動揺する中、クリスティーナ・シュトルベルンの場違いな間延びした媚びるような声が聞こえてきた。


「悪いけど、俺には既に将来を誓い合った婚約者がいるんだよね……それに、ジークも俺達の娘を将来娶る予定だから、他を探すといいよ。行こう、ジーク。激しい戦いの後だったから、流石に疲れたよ」


そんなクリスティーナ・シュトロベルンの申し入れを、パシっと腕を振り払うかの音の後、スレイヤは心底不愉快だとばかりの無感情な声で断りを入れた。

そのまま出口へと足を向け、振り返る事なく足早に歩いていく。

私もスレイヤの後を追って、場を離れた。


やはり、な……大丈夫だとは思うが、厄介な奴に目をつけられた。

また2人の結婚式が遅れるかもしれない。


私はこの時はまだその程度にしか思っていなかった。









「婚約者? ふふっ、そんなもの大した問題ではありませんわぁ、ふふふっふふっ────そんなもの、消せばいいだけですものぉ」


この時既に破滅へと歩み始めていた事を、私達はまだ愚かにも気付いていなかった。

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