番外編 在りし日の憧憬③
短めですみません(-_-;)
スレイヤは学園から依頼され、臨時教官の仕事を受けていた。
その為、私はその様子を見に、仕事の合間に学園へとしばしば足を運んでいた。
「随分と熱心だな……」
教員にスレイヤの居場所を尋ねて、やって来た場所は実習場であった。
そこに居たのは1人の青年と、まだ幼さが残る少年。
2人共よく見知った顔であり、放課後にも関わらず青年は少年に稽古をつけていた。
「ジーク様っ!!」
「久し振りだな、キリリィク」
私の声に反応した少年、キリリィクが此方に気付いて、駆け寄ってくる。
キリリィクはアーシャの弟で、私にとっても幼い頃から知っている。
私やスレイヤは、キリリィクを弟のように可愛がってきた。
キリリィクもまた私達を兄のように慕ってくれている。
「あれ? ジーク仕事はだいじょうぶなの? 忙しいって言ってなかったけ?」
「……どっかの誰かが、仕事をサボるせいでな」
純粋に疑問に思った事を口にするスレイヤに、私は思わず言葉に棘を含ませる。
学園からの依頼である以上サボりではないが、スレイヤは私の副官で立場も低くはない。
正直、学園の臨時教官などスレイヤ程の者がやる仕事ではないのだ。
「あはは。まぁ、いいじゃないか。俺達も学生時代は世話になったんだし、これも母校への恩返しって事で有意義な仕事だ。なぁ、キリリィク?」
「はい! 僕もスレイヤ様に師事できて嬉しいです!!」
スレイヤがキリリィクの頭をグシャグシャにして撫でると、キリリィクは照れ臭そうにはにかんだ。
キリリィクは将来義兄になるスレイヤにとても憧れていて、昔から顔を合わせる度にスレイヤに引っ付きまわっている。
「あぁ、キリリィクは筋がいいから、俺も教えがいがあるよ。将来、軍に入って俺達と肩を並べるのが楽しみだ!」
「はい! 絶対に、ジーク様とスレイヤ様の居る部隊に入ってみせますっ!!」
2人のやり取りに、私もつられて笑みを浮かべる。
キリリィクには剣の才能がある。
アーシャに似てきっと強くなるだろう。
将来、私とスレイヤの後に続く姿が容易に想像できた。
「あぁ、楽しみに待っているよ」
「はい!」
キリリィクは私の言葉に、元気よくビシッと手を頭に掲げた。
スレイヤやアーシャとは大違いだ。
2人ともキリリィクを見習って、もう少し素直になって欲しいものだ。
「それじゃあ、ジークのお迎えも来たことだし、俺も戻って仕事しようかな」
スレイヤが荷物を纏め、実習場を出る支度をした。
「今日は逃げるなよ」
「分かってるよ、信用ないなぁ」
はははと、スレイヤは笑っているが、何時も抜け出しているのだから此方は笑えない。
「流石に今日は逃げないよ……マベリアンタは今きな臭い事になってるからね。キリリィクの事も、暫くは見てあげられそうにないや」
だから、最後にキリリィクを見に来たんだと、スレイヤは続けた。
「……やはり、小競り合いでは済まないと思うか?」
近頃、国境での小競り合いが増え、マベリアンタ内で様々な物価が高騰してきている。
商人達の間では、戦争が始まるのではと噂される程に。
何も、今のタイミングでなくてもいいものを……。
スレイヤは私の右腕で、いざマベリアンタと事を構えるとなれば欠かせない存在だ。
ここに置いていく訳にはいかない。
けれど、いくらスレイヤが強くとも、アーシャは心配だろう。
腹の子にも障る。
それに……散々延期を繰り返していたスレイヤとアーシャの結婚式も、また延期になってしまう。
延期になれば、アーシャの腹の子の事も考えて出産後になってしまうだろう。
アーシャや2人の家族も楽しみにしていただけに、それは避けたい。
どうにか、小競り合いで済まないものか。
「ならないだろうね……当たって欲しくないけど、きっと戦争になるよ」
当たって欲しくないと言った、スレイヤの言葉。
けれど、その願いとはうってかわって、数週間後マベリアンタはユグドラシアへと出兵した。




